「食」の問題、EFSA(欧州食品安全機関)で徹底開示〜EUにおける食品安全への取り組み

2010年9月7日(火)、東京大学 弥生講堂で、講演会&パネルディスカッション「食と科学〜リスクコミュニケーションのありかた〜」が開催。EUにおける食の安全問題の取り組みが報告された。

ヨーロッパの理想的なリスクコミュニケーション
オランダ トゥエンテ大学 イレーネ ファン ヘーステ ヤコブ

EUの効果的な食品安全システムがようやく整う

オランダのリスク評価機関である食品・消費者製品安全機関、リスク管理機関の保健福祉運動省、またEFSA(欧州食品安全機関)で食品の安全問題に尽力しているイレーネ氏。現在、トゥエンテ大学で食の安全やリスクコミュニケーションに関する研究を行なっている。

ヨーロッパのリスクコミュニケーションで最も重要なことは、市民からの信頼、ヨーロッパだけでなく世界の人々に信頼される、EUの効果的な食品安全システムがようやく整ってきたとイレーネ氏。

EUがスタートした頃は混沌としており、食の安全についての概念や基準は各国バラバラ、それぞれの政府は「経済重視」「業界保護」で、EU内で食の安全に関して協調を図ることは極めて難しかったという。

1990年代、多くの食の安全問題が噴出

しかし、1990年代に入り、BSE(狂牛病問題)とヤコブ病のつながりやクローン羊ドリー、フランケンシュタイン食品と呼ばれる遺伝子組み換え作物、鳥や鶏肉のダイオキシン汚染の問題など、食への不安・不信が噴出し、消費者も情報開示を求めるようになった。

だが、食のリスク評価をめぐっては、EU内で対立しており、各国政府がトラブルに誠意のある対応をしなかったため、消費者の公的機関への信頼は失墜し、メディアも市民の不満や怒りを多く報道した。

消費者は、遺伝子組み換え作物の普及による食物連鎖にも不信感を抱くようになるが、消費者の公的機関や食品への信頼失墜の最大の要因は、なによりも「真実の隠蔽」にあったとイレーネ氏は述べる。

人々の懸念に真剣に対応せず、各国政府は真実を報道することもなく、だんまりを通した。真実の隠蔽ばかりか、食品安全について矛盾したアドバイスまで行なって逃れようとしたという。

2002年、EUの食品安全掲げ、欧州食品安全機関(EFSA)設立

その結果、最終的にEU経済も大打撃を受け、世界からも信頼を失いかねないような状況となった。そのため、2002年にEUの新しい食品安全政策がようやく検討される運びとなり、「農場から食卓まで」のアプローチ(食物連鎖全体について安全性を担保しようという考え)や、消費者の健康保護という観点からEU食品法の改善が行なわれるようになった。

EU食品法では消費者の利益が保護され、消費者が十分な情報とともに選択できる基盤が整備。食品関連法の立案、評価、改善に関してオープンで透明な協議が進められるようになった。

そうした流れの中で、2002年、欧州食品安全機関(EFSA)が設立。「EUの食品安全性の改善」「EUの食品安全性に対する消費者の信頼回復」「EUの食料供給に対する貿易パートナーの信頼の回復」の3つの目標を掲げ、食品安全の問題を全国的に扱い、危機管理や警告、緊急避難指示などを行うとした。

その後は、EUやその他関連機関は食品関連問題に関してEFSAに科学的見解を尋ね、EFSAからのアドバイスに基づき様々な決定をEU理事会が行なうようになった。

公開性、透明性、科学性を遵守したリスクコミュニケーション

EFSAは食物連鎖だけでなく健康協調表示などあらゆる食の問題をカバーし、科学的な実績、関連分野での専門知識に基づいた活動を行なっている。メンバー210人(10の科学分野に分類され、各21人が各パネルに所属する)は公募後、3年毎に見直しがされ、政府や企業との利害関係も洗い出され、公平性が保たれるようになっている。

EFSAで取り上げられた議題や議事録はすべてウェブ上に公開され、少数意見も含む全ての意見が誰でも閲覧できる。もちろんEFSAに対するリクエストやそのリクエストに対する対応、修正、拒絶などについてもすべて詳細が付記されている。

EFSAの厳格で公開性、透明性、科学性を遵守したリスクコミュニケーションのあり方は消費者の信頼回復に貢献するだけでなく、足並みの揃わなかったEU各国間でのリスクコミュニケーションの連携を図る役割も果たすようになっている。

EFSA設立以降、ヨーロッパの食の安全問題を回避

EFSAとしては今後もEUだけでなく各国から信頼される情報源として、EFSAの食の安全評価の確立や情報の一貫性を高めることに注力していきたいという。最近はリスクコミュニケーションに関する専門家諮問グループである、消費者意識調査ユーロバロメーターもリスクコミュニケーションについて評価や助言を行なっている。

こうした流れで、EUの食品安全に関する新しい政策やシステムはうまく機能しているとイレーネ氏はいう。2002年(EFSA設立)以来、ヨーロッパでは食料危機やパニックの類はなく、今後もさらに安全性を高めるためにEU加盟国で食のリスクに関する情報の公開を、公平性、透明性、科学性を重視して行いたいとまとめた。


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