食品安全委員会として、「暫定」で設定
今回の事態は想定外で緊急性を要したことから、食品安全委員会としても諸々の取りまとめに対してあくまで「暫定」とせざるを得なかったと、新本氏は強調し、次のように述べた。
通常、食品の安全に関わる基準値を定めるには半年〜1年以上かけるが、今回はその余裕がなかった。
国民の健康が最重要のため、国際放射線保護委員会(ICPR)や世界保健機関WHOのなどの情報を検討し、対応した。
放射線物質が人体に与える影響については「しきい値」があり、ある程度のところまではほとんど人体に影響がないどころか、むしろ健康に寄与する可能性がある、という考え方と、「しきい値」などは存在せず、微量でもネガティブな影響を与える可能性が否定できないため低減すべきである、という2つの考え方が対立し、食品安全委員会でも議論が分かれている。
しかしながら「国民の健康保護を最優先に」という立場から、「可能な限り低減すべきである」というICPRの見解に準ずるのが妥当であり、特に妊婦や妊娠の可能性のある女性、乳児・幼児に対しては十分留意されるべきであるとし、最終的なとりまとめが行われた。
緊急のとりまとめで、放射性ヨウ素について、年間50ミリシーベルトの甲状腺等価線量(甲状腺に集積する放射性ヨウ素からの被ばく線量のことで、実効線量として2ミリシーベルトに相当)は、食品由来の放射線曝露を防ぐ上で相当な安全性を見込んだものとして考えている。これは1988年のWHOによる見解だが、食品安全委員会もこれに準じた。
放射線セシウムは、自然環境下でも10ミリシーベルト程度の曝露が認められている居住地域が世界的にも存在する。また10〜20ミリシーベルトまでなら特段の健康影響は考えられないという専門員及び専門参考人の意見もふまえ、ICPRの年間10ミリシーベルトという値について、不適切といえる根拠は見いだせなかった。
このことから少なくとも放射線セシウムの年間5ミリシーベルトは食品由来の放射線曝露を防ぐ上でかなり安全側に立っている。
今後の調査で、より適切な基準値を設定
今回は緊急であり、今後継続して食品健康影響評価を行なう必要がある。放射性物質は、遺伝毒性発がん性を示すと考えられているが、発がん性や胎児への影響等について詳細の検討が本来必要、さらに、ウランやプルトニウム等についての評価も残されている。
今回の暫定基準値について、WHOやICPRからのデータを丸呑みにしているだけで十分な検討が食品安全委員会としてなされていないのではないか、暫定はいつきちんとした基準値になるのか、など会場からは厳しい質疑も起こった。これに対し新本氏は、今後も引き続き調査、検討を続け、できるだけ早急に基準値を設定したい、また魚などの基準値設定も早急に行ないたいと付け加えた。
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