ポリフェノール、生活習慣病予防の最新研究 〜技術懇親会「健康・医療・福祉のための研究技術開発最前線」

2011年9月7日(水)、芝浦工業大学で、技術懇親会「健康・医療・福祉のための研究技術開発最前線」が開催された。この中で、「ポリフェノールの生活習慣病予防作用」と題してについて越阪部氏(芝浦工業大学 システム理工学部 生命科学科)が最新の研究発表を行った。

ポリフェノールの生活習慣病予防作用の最前線
芝浦工業大学 システム理工学部 生命科学科 教授 越阪部 奈緒美

ポリフェノール、抗酸化力が非常に高い

「ヘルシア緑茶」や「黒烏龍茶」が堅調に売り上げを伸ばし、含有成分の「カテキン」というポリフェノールが一般的に知られるようになっている。これらはトクホ商品として知られ人気を博すが、一方で数年前の健康情報番組の「やらせ問題」や「エコナ問題」で、健食業界に逆風が吹いている。

多くの消費者は「その成分が本当に効くのか?」「どんなメカニズムなのか?」と疑問を持ち、健康食品からから離れてしまった人も少なくない。しかし食の研究を進める立場としては、食品に機能性成分が含まれているのは確かであり、それを何らかの形で人々の健康に還元させていきたい、と越坂部氏。

越坂部氏は、ポリフェノールの健康維持増進作用の解明で、チョコレートやココア、リンゴなどのポリフェノールを中心に研究を進めている。

ポリフェノールとはフェノール性水酸基のことで、これが含まれるもの全てがポリフェノール類と総称されている。よく知られるものではアントシアニン、フラボノール、イソフラボン、カテキンなどがある。

輪ゴムなども放置しておくと切れるのは、酸化による劣化が原因だが、ポリフェノールは酸化を抑制する効果(抗酸化)が非常に高く、食品以外でも役立っている。 近年、ポリフェノールを含む植物性油脂がタイヤなどのゴム製品に使用され、ゴムの経年劣化の予防に役立っていると越坂部氏。

食品に含まれるポリフェノールはフラボノイドという形で、ほとんどの植物に入っている。これは植物が日光の紫外線から自らを守るためと考えらえている。食品では、赤ワイン、アメリカンチェリー、チョコレート、緑茶(お茶)などに多く含まれる。特にチョコレートはポリフェノールが豊富に含まれる。

ポリフェノール摂取が多い人ほど心血管系疾患のリスクが低下

日本人の死因に関する調査結果を分析すると、戦前は感染症(肺炎、結核など)が圧倒的であったが、1945年以降はがんや血管疾患が60%を占めるようになった。そのうち、がんは30%、心疾患と脳血管疾患を併せた心血管系疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)は25%と報告されている。

ポリフェノールが実際に人体に有効かどうか。前向きコホート研究は膨大な時間と資金、国家レベルの実験が必要で、日本で実施されたデータはなく、海外のものが日本で使用されている。これまでに明らかとなっているのは、ポリフェノールの摂取が多い人ほど、心血管系疾患のリスクが低いということである。ただ、がんには「おそらく効果がない」との判定がなされている。

ポリフェノール、体内では異物と認識

ポリフェノールに関する研究調査が世界中で行われており、栄養介入試験(ランダム化比較試験)の分析(メタアナリシス)では、ポリフェノールはHDLコレステロール(善玉コレステロール)の値を上げることができることが検証されている。

HDLコレステロールを上昇させる薬品はまだ開発されていないが、ポリフェノールによる血圧低下やインシュリンの感受性の変容が検証されているため、メタボ予防には役立つことが考えられる。

ただ、そのメカニズムには不明点が多い。最近分かってきたことは、ポリフェノールの体内での作用は食品の消化のメカニズムと全く異なるということ。薬品やダイオキシンなどの生体異物が体内に取り込まれるのと同様のメカニズムで働いている。つまり、体内では異物と認識されていると越坂部氏。

人体でどのように働いているのか未解明

薬品が20%程度しか吸収されず残りが便によって排出されてしまうのと同様、体内に取り込まれたポリフェノールは血液を通して各組織へ行きわたる。

ポリフェノールの血中濃度と吸収率を調べると、ほとんど吸収されないことがわかっている。血中濃度と同程度のポリフェノールを、シャーレに抽出した血管内細胞に添加し培養しても遺伝子やタンパク質発現解析では、変化は起こっておらず、結局のところポリフェノールが人体でどのように働いているのか、未だ真相は解明されていないと越坂部氏。

ラット実験では、投与後5分で心拍数が変化し血管が拡張

しかし、ラットの実験で判明しつつあることは、投与して5分で心拍数に変化が起こり、血管拡張作用が見られるということである。つまり生体異物代謝と同じで、ポリフェノールの吸収(血液に取り込まれる)は15〜30分程度と非常に短い時間で行われているが、ラットの実験から血液に取り込まれる前にポリフェノールが既に作用を起こしているということが分かった。

これはポリフェノールが消化吸収よりも脳神経にダイレクトに作用を起こすメカニズムがあるからではないかという仮説を立てていると越阪部氏。血管に入らなくても信号で作用するようなメカニズムがあるのかどうか、今後の研究課題であるとした。


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