外食産業での食品表示の現状と対策
2012年2月9日(木)、五反田のゆうぽうとホールで、品質情報管理システムを提供する東京システムハウス株式会社主催による食品表示に関する最新動向のセミナーが開催された。現状と表示のポイント、外食産業が小売りに進出するうえで気をつけるべき点など、表示業務を専門に行う株式会社ラベルバンクの代表取締役 川井裕之氏が解説した。


外食産業と小売りでは食品表示のルールが異なる

近年、外食産業から小売業への進出が目覚ましい。食品表示については外食産業は食品メーカーや流通と異なり、JAS法による「消費期限」「賞味期限」等の表示は義務付けられていない。現状では平成17年7月に策定された「外食における原産地表示のガイドライン」に基き、使用食材の原産地表示を自主的に行っている。しかしドレッシングやたれ、総菜などを独自ブランドで小売りするケースが急増し、外食産業とはいえ、小売りの表示ルールを知らないでは済まされなくなってきている。

これまで、複雑かつ進化し続ける食品表示に、正面から取り組んできたのはメーカーと量販店(小売り)、そして意識の高い消費者(団体)である。近年小売りの現場に外食産業が急速に参入しているため、外食産業も小売り用の食品表示について真剣に学ばざるを得ない状況になっている。

焼き肉専門店の焼き肉のたれやキムチ、ラーメン屋のオリジナルの麺やスープ、ギョウザなどの総菜、ファミリーレストランのオリジナル総菜などが、自社ブランドとして小売店あるいは自社のホームページ、テレビショッピング、大手ネットショップなどで販売するようになり、消費者もそれらを手軽に購入できるようになっている。

そもそも外食産業と小売りでは食品表示に関するルールが異なるため、参入にあたり外食産業は表示に関してミスを犯しやすく、トラブルが急増しているという。

BtoB(企業間取引)では表示が不要と考えている外食産業も少なくない。しかし、これは間違いで、表示の責任は提供する側にも買い手側にも同様に重くのしかかる。食品の表示は年々厳しくなっているが、小売業はメーカーに表示ミスの責任を転嫁できず、メーカーに非常に厳しい品質管理を求めている。近年、売れる商品よりトラブルのない商品を作ることがメーカーに求められるようになっていることを外食産業は頭に入れておくべきと川井氏。

行政からの「問題なし」というお墨付き、小売りからNGのケースも

外食産業や地場産業が、オリジナル商品を小売りで販売したいと考え、食品表示を勉強しはじめると、まずその手順や方法について、行政の管理部門である農水省や消費者庁、あるいは地域の保健所に問い合わせるのが一般的。そして、それらの行政から「問題なし」というお墨付きをもらい小売りに持っていくが、小売りからNGが出されるケースが非常に多い。

これは行政や保健所は食品衛生法やJAS法をカバーしているにもかかわらず、実務経験がほとんどないため、メーカーが出した情報にNGを出すことはほとんどない。そこで、あっさりと許可を出すケースが多いが、実際はそれが間違っているというケースが多々あると川井氏はいう。

2010年10月以降、商品の自主回収が激増

また、自主基準についても見逃しがち。例えば「老舗」という言葉を商品に掲載したい場合、「老舗」の定義は小売りごとに自主基準があり(老舗=三代以上続いているなど)、そのラインに添わなければ希望の小売りルートに乗せることができない。そのため、ラベルとパッケージを作り直すことになり、大損失が発生するということもよくあるという。

現状、食品表示に関して最も厳しいのは行政より小売りだと川井氏は断言する。背景には、2010年10月に消費者庁から通達された新たな基準がある。事実と異なる表示があった場合、それまでは修正すんだが、それ以降はミスや修正の告知をしなければ違反になるという通達が消費者庁から発せられ、これを機にメーカー・小売りともに商品の自主回収が激増したという流れがある。

そのため、新商品を小売りで流通したい場合は、表示ラベルの作成や印刷の前に販売を予定している小売りのバイヤー、あるいは品質管理担当者と密なコミュニケーションを取り、自主基準までを含めて正しい表示を確認することが重要だと川井氏はいう。

商品名ではなく「名称」が最も重要

また、商品名ではなく「名称」が最も重要で、例えば本当にお茶なのかなど、表示の一番最初の段階でミスを犯すとその後の表示が全てダメになる。今は商品の製造方法が多岐に渡りすぎ、例えばフリーズドライして粉末にしてから水に溶いて作ったお茶は加工食品となり、お茶にはならない。商品の特性をよく知り、表示に詳しい小売りと確認を取らなければミスが起こりやすいと川井氏は指摘する。

他にも生麺なのか加工麺なのか、パンなのかお菓子なのか、多いのはドレッシングと表示しているのにそうではないもの、ジュースと表示しているのにそうではないもの、といったケースが多発している。

そのため、新商品の表示ラベル作成にあたり、安易に大手メーカー商品の表示ラベルを真似ると、致命的なミスが生じる場合が多い。それは最も重要な「名称」の定義でミスを犯しているため。

矛盾が生じる言葉を並べることはできない決まり

さらに、地場産業の特産品などを小売りに乗せるケースでよく見られるのが、「天然」「自然」「生」といった言葉の乱用。この言葉で付加価値が高まりそうにみえるが、例えば「天然の有機栽培」ではNGになることなど多くのメーカーは知らない。

「天然」とは「そのまま」の意味であり「栽培」がつくとそこで矛盾が生じるため、同一の言葉を並べることはできないというのが決まり。他にも中身や特定成分を強調しすぎると表示内容が複雑化しやすい。「ミネラルたっぷりのわかめうどん」という商品名にすると表示にはミネラル約16種類の全ての内容量を記入しなければならなくなり、商品を安定供給することが大変になってしまうと川井氏。

「自然」「生」「天然」などの言葉の定義が年々厳しくなっている

ひとつの商品を作り上げるまでには、パッケージの完成までを含めて膨大なコストがかかる。その商品を長く安定して売りたいのであれば、安易に「自然」「生」「天然」などの言葉や特定の成分を強調するような言葉を商品名に取り入れるべきではない。それらの言葉の定義は年々厳しくなっている上に、表示もより複雑化しているため、避ける方が無難であると川井氏はアドバイスする。

2003年から2010年までに食品の自主回収件数は10倍以上に増加

アレルギー、農薬、食品添加物、現在では放射性物質など小売りだけでなく消費者も検査体制や品質管理を非常に厳しくチェックしていて、その傾向は年々強くなっている。2003年から2010年までに食品の自主回収件数は10倍以上に増加している。原因の第1位(自主回収の50%)は表示ミスであることもわかっているという。それだけ表示の問題は厳しさを増し、多くの人が表示に関する知識を身につけているともいえる。

小売りも商品の味や原料をセールスポイントにするより、トラブルの起きない「安全で安心」な商品を探している傾向が強くなっていると川井氏。逆にいえば、味や原料で商品の勝負をするのではなく、どれだけ信用してもらえるか、つまり「信用できる商品」がいま「最も売れる商品」になりつつある、という新たな流れを理解して商品開発・商品名の考案、そして表示に取り組むのがベターであると川井氏はまとめた。


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