放射能問題、拭えない消費者の不信感
〜第23回「食品添加物メディアフォーラム」

2012年2月17日(金)、大手町産経プラザで、第23回「食品添加物メディアフォーラム」が開催された。「安全と安心をつなぐもの〜消費者と企業、メディアの新しい関係づくり〜」をテーマに、阿南久氏(全国消費者団体連絡会事務局長)が東日本大震災と原発事故に関わる諸問題について提言を行った。


放射能問題、消費者の混乱が浮き彫りに

全国消費者団体連絡会(以下消団連)は、1956年の結成以来「消費者こそ経済繁栄の母であり、商業者繁栄の支柱。消費者大衆こそ主権者」というスローガンを掲げている。現在47団体が消費者のための地域づくりを目指し、さまざまな活動(行政への諸要請、情報共有の場づくり、商品の調査研究など)を行っている。

食品安全に関わる取組みも活動の一つで勉強会などを定期的に開催しているが、昨年は東日本大震災と原発事故に関わる「食の安全」が最大のテーマとなった。5月から7回にわたり「ホントのことを知りたい学習シリーズ」という情報発信・収集・意見交換会の場を主催した。

初回の5月、参加者からの質問事項をまとめると、「放射性物質の種類と影響は?」「基準値の決め方は?」「内部被ばくとは何か?」「乳幼児への影響は?」「検査方法は?」「減らす方法はないのか?」「水産物汚染はどうなっているのか?」などが挙がり、原発問題に直面した参加者(消費者)の混乱が浮き彫りになったという。

「むやみに恐れる必要がないことがわかった」の声

これまでほとんどの国民に原子力教育が欠けていたため、「原子力、放射能=知らないこと」「知らないこと=不安」という状態で、政府やメディアがいくら情報を発信しても「ベクレル」や「シーベルト」の意味も理解できず、消費者は不安を募らせるばかりであった。

しかし全国漁業協同組合連合会行政部長や水産庁の1954年ビキニ水爆実験以降のモニタリング検査などに関わってきた経験のある専門家などが講師となり、説明も丁寧で説得力があっためか、参加した消費者からは「不安が薄れた」「現状の安全性が理解できた」「むやみに恐れる必要がないことがわかった」など、やや安堵の感想が寄せられようになったと阿南氏。

メディアへの拭えない不信感

消費者庁のインターネット調査(平成23年5月30日〜6月5日)によると、原発事故以降出荷制限されている食品の品目や地域に関する情報については、主にテレビから情報を得ていると回答した人が最も多く全体の83.1%、次いでインターネットで66.2%、新聞や雑誌で62.5%という結果になった。

しかし信頼度については、テレビを信頼していると回答した人は18.2%、インターネットはわずか4.0%、新聞は39.2%とやや高めとなったが、それでも国民のメディアに対する不信感は拭えない状況と阿南氏。

国の対応に高い不信感

また、日本生協連の組合員アンケート調査(平成23年7月21日〜7月26日)によると、放射能汚染問題への国の対応についても「あまり信頼していない」が54.4%、「全く信頼していない」が27.3%と両者合わせて半数を大きく超え、「十分信頼している」が0.3%、「まあまあ信頼している」が12.1%と、国の対応への不信感が非常に高い数値を示している。

さらに原発事故後、食料品を買う時に産地を気にするようになったかについては、「意識するようになった」が25.3%、「以前から意識していたが、より一層意識するようになった」が40.7%と両者で半数を越え、消費者の消費行動に変化があったことが明らかという。

適切に情報を発信しても不安が取り除けない

消費者団体では過剰な買い控え、買い溜めといった行動を抑止させ、被災地の風評被害をなくすために、さまざまな勉強会や情報発信を行っているが、どれだけ情報を適切に発信しても不安の声を寄せる消費者から、不安を取り除くことはできないと阿南氏はいう。

というのも不安の根底には不信があり、信用できないものは信頼できない、従って安心できないという図式が強く成り立っているため。原発問題に限らず、コミュニケーションの問題だが、情報を発信する側は信頼を得るために「最初からどんな情報でも共有する」という姿勢が前提になければならない。検査や測定情報は正直にすべて提供する姿勢、わかりやすい言葉で誠意を持って説明する姿勢、生産者・事業者・消費者が一緒に学び合い考えましょう、という土壌を育てていく必要があると阿南氏は指摘する。

消費者も物事を正しく理解する必要がある

もちろん消費者も正しく物事を理解しなければならない。「消費者の5つの責任」について、@批判的意識を持つ、A自己主張と行動を起こす、B社会的関心を持つ、C環境への自覚を持つ、D連帯する、ということが国際消費者機構(IC)でも推奨されている。各消費者団体でもこれを基に「責任ある消費行動」の啓蒙活動をしていると阿南氏。 平成24年4月には、放射性物質について新たな規制値が施行される予定だが、そもそも安全なので変化は生じないが、安心はやや高まるであろうと阿南氏は期待を寄せている。

大手スーパーが放射性物質「ゼロ宣言」

しかしながら、どんな安全情報や安全のための政策が行われても双方の関係性に「信頼」がなければ最終的な「安心」には結びつかない。「安全」と「安心」をつなぐメディアの役割も非常に重要であり、問題の本質を伝えることや、消費者の不安に寄り添うこと、また行政を批判するのではなく協力をし、提案し、意見するという姿勢がメディアにも必要であると訴える。もちろん事業者の「責任ある供給姿勢」も重要で、事業者自らが正直に語る姿勢、消費者を信じる姿勢、行政に協力する姿勢も求められる。

特に消費者の不安につけ込んで、誤認を誘導するような表示は絶対に避けるべきである。小売業でも大手スーパーが放射性物質「ゼロ宣言」を行ったが、これも生産者のことや消費者のことを本当の意味で考えているとはいえない行動だと阿南氏は指摘する。

さまざまな意見がそれぞれの立場で紛糾するなかで、それでもコミュニケーションを双方が取り続けるしかないと阿南氏はまとめた。



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