健康食品を中心とする未病対応・予防医療の未来予想図 〜第二回機能性食品勉強会
2012年3月22日(木)、持田製薬ルークホールで、薬業健康食品研究会「第二回機能性食品勉強会」が「健康食品を中心とする未病対応・予防医療の未来予想図に向けて〜医療現場の健康食品動向」をテーマに開催された。今回は講師に医学ジャーナリストの森宏之氏が招かれ、未病対応、特に医療現場での健康食品やサプリメントの可能性について最新動向を報告した。


国民皆保険制度の弊害

日本は世界一の長寿社会となり、急速な高齢化社会が進み、生活習慣病の罹患率や死亡率が増加し続けている。医療費は毎年約1兆円ずつ増加し、医療保険制度の崩壊はすでに始まっている。

森氏は懸念される日本人の健康の健康について以下のように述べた。
日本人は長寿といわれるが、国民一人ひとりの健康状態が決して良好な訳ではない。 栄養の過多、生活様式の乱れ、栄養摂取の不均衡と欠乏、化学物質汚染、日常運動量の低下、ストレスや慢性疲労の増大、アレルギー疾患や鬱病など、なんらかの疾患を抱えている人のほうが多いといわれる。

このような状況のなかで世界的にも予防医療に注目が集まるが、国内でも同様の傾向にある。これまでは病気の早期発見・早期治療に重点を置いてきたため、二の次になりがちだった疾病予防や健康増進のアクションが重視され、行政も予防医学を普及するための啓蒙活動を実施し始めている。

しかし日本医療のいくつかの特徴が予防医学の普及発展を阻む要因になっている。もはや崩壊しているといわれながらも存続方向にある国民皆保険制度は、国民の誰もが「いつでもどこでも同じ条件で診療を受ける」ことを可能にしており、これが国民にいとも簡単に病院に行く習慣を植え付け、自らセルフケアをする習慣を奪い取っている。

患者を薬漬け、検査漬けにしている

また医療費の国家統制はまさに社会主義国家レベル。診療報酬、医薬品の価格、保険料率、患者負担率のすべてを政府が決定しているため、科学技術の進歩や診療する側の負担と全く比例していない。保険外医療は原則禁止され、混合医療も原則禁止。

こうした日本医療の特徴はメリットもある一方で、予防医療が発展しないこと以外にもさまざまな問題点を生み出している。例えば医療の平等の一方で、実質的には大学病院偏重主義が助長されてしまっている。

医療機関に患者が殺到することで「3時間待ちの3分診療」という現場での莫大な無駄と非効率性をも助長している。医療の非効率化が医療機関の経営を悪化させ、医療格差を拡大させている。そのため不必要な過剰医療が当たり前となり、患者を薬漬け、検査漬けにさせている。

賢い患者は既に予防医学を選んでいる

このような状況のなかで賢い患者は既に自ら予防医学を選び、日々病気にならないための努力をし始めている。そのなかでも健康食品は手にしやすく、それゆえ誤った摂取による健康被害の発生やインチキ商品の横行などの問題もあとを絶たない。

しかしながら誰もが「自分の健康は自分で守るしかない」ことに気づき始めており、実際、日本の健康食品市場は1兆3000億円規模を突破している。これだけの広がりがあるため厚労省や消費者庁も健康被害の防止対策として「アドバイザリースタッフ」の育成や「市販後調査」などを急ピッチですすめている。

西洋医療の限界が明らかに

これは医療費の増大や日本の医療システムだけの問題ではなく、西洋医学における現代医学の到達点が「絶対的だ」と見られないから、という理由もある。健康補助食品には有効性のエビデンスが一段と求められ、安全性の確保がさらに厳しく追求されることは言うまでもない。さらに最近は薬品との相互作用の研究や禁忌事項の明確化も求められるまでになっている。

日本の医療、西洋医療の限界が誰の目にも明らかとなった今、健康食品を中心とした補完代替医療への注目と流れはもはや否定も阻止もできない。現代医学では漢方や鍼灸などの東洋医学、マッサージやカイロプラクティックなどの物理療法、運動療法や食事療法などを軽視してきたが、これらは間違いなく健康に貢献していることが立証され、世界中にあるさまざまな伝承医療はまだまだ解明されていない部分が多いものの、そもそも解明されていない生命現象の神髄に触れる治療と支持されつつある。

「統合医療」という新しい流れ

そして現代医療と補完代替医療を適切に選択しながら治療していく「統合医療」という新しい流れも生まれた。補完代替医療側にはこれからもエビデンス作りの努力が求められるが、現代医療は補完代替医療を敵視することなく、効果的な医療の実現の方向性を探る事が求められている。

日本医師会もこのような現状に危機感をつのらせており、サプリメントの医療介入は不可避だとの意見を持っているという。また生活習慣病の大半は予防医療によって対応せざるを得ないという考えも明確にしており、そのために医師が積極的に健康補助食品に興味を持ち、安全性の調査や適切な使用環境作りを行う必要性に迫られている。

注目される「ドクターズサプリメント」

そして医師の7割がサプリメントや健康補助食品を医薬品と同じように医療従事者の管理下に置くことを望んでいるというデータもある。もちろん健康補助食品には莫大な市場があるため、その分野を取り込めれば医師の利益にも貢献し、医療費問題解消にも役立つかもしれない。しかし栄養学についてまったくの素人ともいえる医師が健康補助食品をそこまで管理できるようになるにはまだ時間がかかるといわれている。

その一方で最新の動向として注目されつつあるのが「ドクターズサプリメント」である。これは医師がメーカーと手を組み責任を持って開発するサプリメントで、もちろん商品開発にあたっては医薬品レベルの検査(素材、処方、副作用、表示など)が必要不可欠となる。医療現場でのサプリメント利用がすでに浸透しはじめている以上、医師が栄養学などを学ぶことは必須であるだけでなく、健康補助食品の開発においてもドクターの参画が不可欠となるであろう。

「治療から予防へ」発想の転換が迫られている

すでに医療機関においてサプリメントの扱いは珍しくない。地域性もあるが、大阪府の内科医会(813名)では、その54%がエビデンスさえあれば診療に健康補助食品や機能性食品を取り入れてよいと寛大な解答をしているという。また健康補助食品を導入している医療施設はいまのところ分野に偏りがあり、その多くが美容整形科と皮膚科、そして完全自由診療施設であるという。近年は歯科診療所での健康補助食品の取扱いも急伸している。

いずれにせよ、現状のままでは医療機関の収益性の見通しは不透明のままである。産科や小児科を除き、診療報酬はさらに抑制方向に動くであろう。もはや国民だけでなく医師も「治療から予防へ」と発想を転換することが求められている。

「真の医療」に発展するための過渡期

そうなると現代医療機関においても健康補助食品や補完代替医療の重要性はますます高まり、さらに収益の増大を目指すのであれば健康補助食品や補完代替医療にその可能性を見いだすのは自然の流れになるのではないか。

ヒポクラテスは「医術とは自然治癒力を助ける方法である」という言葉を残しているそうだが、現在の日本の医療は、「真の医療」に発展するための過渡期を迎えているのかもしれない



Copyright(C)JAFRA. All rights reserved.