健康食品の品質と安全性に関する課題
〜第27回健康食品フォーラム

2012年10月18日(木)、灘尾ホール(東京都)で、一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会の主催する第27回健康食品フォーラムが開催された。今回のテーマは「健康食品の品質と安全性」。需要・供給ともに増加の一途を辿る健康食品の安全性確保という問題について、各分野の専門家が講演した。

「健康食品」の分析から判る品質に関する課題
国立医薬品食品衛生研究所
生薬部長 合田 幸広

間違った基原の原材料を使用

ここ数年の健康食品ブームの中で、とくに人気が高い商品は「天然由来」「自然素材」といったキャッチコピーのついたものである。合田氏の研究チームは健康食品の品質分析研究を行っているが、近年はこうしたコピーの付いた健康食品を中心に、その品質に疑問を抱かざるを得ないものが少なからず存在することを指摘した。

とくに健康食品の原材料について、合田氏の調査によると、表示や商品名とは異なる、あるいは間違った基原の原材料を使用しているものが少なくないという。

もちろん流通している商品は含量規格や不純物規格に適合し安全性は確保されている。しかしながら原材料の基原の間違ったものが使用されていれば品質が確保されているとはいえない。さらに、虚偽表示が行われていることになる。

シダ属植物として輸入した基原、シダ属植物でない可能性が比較的高い

合田氏のチームは2005年〜2009年にかけて87品目の健康食品の遺伝子分析を行ったが、そのなかで基原が正しいものは54/87=62%しかなかったという。 さらに、基原として使用するためのシダ属植物を複数の企業から輸入し、それが本当にシダ属植物であるかを調べた。

シダ属植物は世界に100種類以上存在し、アーユルヴェーダや漢方などの伝承医療でも使用される薬理作用のある植物である。しかし、種類が非常に多いだけでなく形態も類似しているため、誤採取されることが多い。

合田氏のチームがシダ属植物を大手商社等複数の取扱い企業から輸入・取り寄せた結果、基原植物が表示と一致していたのはわずか2/11であったという。さらに、表示と種(species)は一致しないが、属(genus)が一致したものは3/11、複数の基原植物の混合物でその中にシダ属植物が検出されたものは2/11、完全に基原が間違っていた物が4/11であったという。

つまり、シダ属植物として輸入した基原がシダ属植物でない可能性が比較的高いということを我々は知っておかなければならないと合田氏。しかし、シダ属植物の形態学的同定は一般的に非常に難しいとされており、原因は意図的なものではなく採取時の間違いであろうと合田氏は推測する。

原材料の基原違い、あきらかに意図的なものも存在

原材料の基原違いがなぜ起こるのか。基本的には先述のように、非意図的なものであり、採取時の誤同定、あるいは原材料の受け取りの際の誤同定だと考えられるという。

しかし、GAP農場(Good Agricultural Practice)で栽培された原材料を使用すれば誤同定の問題は解決するであろうと合田氏。それにしても、採取される天然系基原においては誤同定品の発生や混入が起こりやすいことは間違いない。受け入れ側の検査体制(形態、遺伝子分析、成分調査)には今のところ厳格な取り決めがないため、ある程度ガイドラインを決めて遵守させる必要があるという。

原材料の基原違いについては、あきらかに意図的な(悪意のある)ものも存在していると合田氏は指摘する。その理由として、類似した機能性を持つ他の食物エキスや、安価な化合物を添加したほうが、生産コストが低価格で済むからではないかという。

健康食品の問題、大きく4つに分類

一例としては、ビルベリーのアントシアニンエキスを標榜しながら、カシスエキスの方が多く含有されているといったケースである。とくに錠剤やカプセル形態だと、偽物か本当に表示通りの成分が入っているか、消費者は全く見分けることができない。合田氏の調査によると、ビルベリー、イチョウ葉、ブラックコホシュを原材料と表記する商品で、それらのエキスがほとんど入っていない例も散見されたという。

健康食品の分析調査からわかることは、
@基原が本当にあっているかどうかの問題
A意図的な混合物が含まれる可能性の問題(表示と原材料が一致すべきなのにしていない)
B含有量の問題
C保存劣化の問題、という4つに大きく分類できるという。

医薬品との品質の差が顕著

@とAについては先述の通り、GAP農場生産の原材料の調達や、輸入側の検査体制を厳格化することで解決できる。
Bについては健康食品はあくまで食品であり、いわゆる「有効量」が存在しないため、含有量が極めて少なすぎて何の効果も発揮しない、何のために摂取するのかわからないような商品について、取り締まる必要があるのかどうかの問題になってしまうと合田氏は指摘する。 Cについては、錠剤カプセルの崩壊性(胃の中でどれくらい溶けて消化されるのか)について調べたところ、使用期限内ギリギリのものについては、ほとんど崩壊しないものがみられたという。

医薬品であれば、製品設計時及び品質管理工程において崩壊性の検定を要求されるが、健康食品は必ずしもそれが要求されない。国民生活センターの報告によると、18種類の健康食品のうち7品目、つまり39%が崩壊性の適合性検査に適合せず、医薬品として規格が守られている製品との品質の差が顕著であるという。

より安全性が高く品質の良い健康食品を流通させるためには、原材料の基原の保証方法を確立させること、悪質な間違いについては行政的措置をとる体制を確立させること、安全性の担保のためにも、成分含有量の規格化(上限値、下限値)を行うべきである。錠剤・カプセル型の健康食品については、機能性を考えるのであれば使用期限内での崩壊性を保証する試験は医薬品レベルで実施すべき、と合田氏は指摘した。

健康食品の安全性確保について
厚生労働省 医薬食品局 食品安全部
健康食品安全対策専門官 岡崎 隆之

治療効果を謳う広告や過剰摂取による健康被害

内閣府の消費者委員会のアンケート調査によると消費者の約75%が健康食品を利用したことがあるという結果が示されている。健康食品が消費者の健康維持に重要な役割を果たしていることは厚生労働省も認識しているという。

しかしながら「健康食品」には法令上の定義がなく、広く「健康の保持増進に資する食品として販売されるもの全般」を指しているため、その取扱いについて議論や対応などが随時行われ、その都度アップデートされている。さまざまな議論がなされているが、最も大切なことは安全性の確保と岡崎氏はいう。

とくに錠剤やカプセル状の食品は、食品中の特定成分を抽出・濃縮しているため、通常の食品からの摂取量と比較し、高容量摂取することが可能である。そのため、食品であるにも関わらず治療効果を謳う過剰広告や過剰摂取による健康被害の問題も報告されているという。

2つの協会がGMPに関する認証機関の役割果たす

記憶に新しいところでは、平成15年度のアマメシバの粉末、平成16年度のシンフィツム(いわゆるコンフリー)による健康被害である。一部のアガリスク製品に発がん促進作用が認められたという報道もあった。

また、コエンザイムQ10については医薬品としても用いられるため、一日の摂取量が医薬品の摂取量(30mg)を超えてはならないという評価がなされたこともある。大豆イソフラボンについても一日の摂取目安量の評価結果が示されている(30mg)。

厚生労働省としては、健康食品の安全確保の取組みとして「GMP(適正製造規範)ガイドライン」に基づく錠剤、カプセル状等食品の「考え方」及び「自主点検ガイドライン」を平成17年2月に通知し、事業者の自主的な取組みを推奨している。

さらに平成20年7月、健康食品の安全性確保に関する検討会での報告書で、「当該事業者以外の第三者による客観的立場」による確認の必要性が記載され、その結果として現在国内では2つの協会がGMPに関する認証機関の役割を果たしていると岡崎氏。

平成21年、健康食品認証制度協議会が設立

さらに、第三者認証の実施にあたっては、学識経験者、消費者、製造事業者等からなる「認証協議会」を組織した。同協議会が認証機関の指定や認証基準の設定などを行うとともに、認証機関の指導監督などを実施することで、認証機関の認証行為が適切になされることを担保する観点から適当とされている。

これらを受け、平成21年7月には健康食品認証制度協議会が設立、原材料の安全性確保に関する認証機関に対する認証制度が制定され、一つの認証機関が指定されていると岡崎氏はいう。

また消費者への啓発も重要と厚生労働省は考えている。健康食品の安全性に関する問題や健康食品一般に関する知識の普及啓発を行い、消費者の理解を促進していくことが重要とし、平成23年には「健康食品の正しい利用法」というパンプレットを作成した。

アドバイザリースタッフの養成についても積極的に推進しており、一定の水準を確保できるように養成団体と連携して取組みを進めている。また健康食品の安全性や有効性については独立行政法人 国立健康・栄養研究所のホームページで、代表的な健康食品素材をリスト化して情報を随時掲載・更新しているため、こうしたデータベースを広く国民に浸透させ利用してもらいたいとした。


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