アルコールの有害な使用を低減するために
〜「飲酒と健康に関する講演会」

2012年11月15日(木)、国立がんセンターで、「飲酒と健康に関する講演会」が開催された。2010年のWHO総会では「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略」が採択され、本年から再スタートする「健康日本21」等でも、飲酒と健康に関する関心が昨今高まっている。

WHOの「アルコール飲料とその世界戦略」
国立病院機構 久里浜医療センター院長 樋口 進

高齢化が進んでも、アルコール消費量は増加傾向に

わが国の国民1人当たりの年間平均アルコール消費量は2005年頃からやや減少傾向にある。とはいえ、ここ50年という長いスパンで調査すると大きな変化があるとはいえず、世界的にみると摂取量は決して少ない方ではなく中レベルという状況だ。

多くのヨーロッパ諸国と比べると消費量こそ少ないが、米国やカナダとは同レベル、またアジアの新興大国の中国やインドに比べるとはるかに高いレベルにあるといわれる。

日本で年間アルコール消費量がやや減少傾向にあるのは高齢化が原因と考えられている。しかしながら、ヨーロッパの先進諸国も同様に高齢化社会であるにも関わらず、なぜか消費量は増加傾向にある。その、原因は明らかではない。従って今後日本で、高齢化が進んでもアルコール消費量は増加傾向の可能性も十分あり得ると樋口氏はいう。

この50年、世界各国で女性の飲酒率が上昇

また、この50年の飲酒率の変化をさらに細かく分析すると、世界各国で女性の飲酒率が上がっていることが明らかになっていると樋口氏。日本も同様で、男性の飲酒率は1950年以降大きな変化がないにも関わらず、女性の飲酒率は男性を凌ぐ勢いで上昇、とくに若い女性の飲酒率の上昇がここ数年注目されている。

日本ではアルコールによって生じる問題は健康面だけでなく、社会的問題が多い。代表的なものが飲酒運転と自殺、そして家庭内暴力とアルコールハラスメントである。

飲酒による自身の健康被害だけでなく、他者の飲酒による悪影響の被害も甚大で、1年の酒税で得られる金額のおよそ3倍以上のコストが他者の飲酒による悪影響の被害額として計算される程だという。

WHOで、アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略が採択

2010年5月に開催されたWHOの総会では、「アルコールの有害な使用を低減するための世界戦略/Global Strategy to Reduce the Harmful Use of Alcohol」が採択された。

この戦略では、加盟各国がそれぞれの実情に応じて、有効なアルコール問題対策をとることを政策として勧告することを提示している。

もちろん、これにはWHO自らが行う対策についても明示している。 日本でも、この戦略が与えた影響は大きく、現在国会で議論されている「アルコール関連問題対策基本法(仮)」も多分にこの影響を受けていることが推察されると樋口はいう。

アルコール政策については有効性が高いと評価できるような対策が現在のところ国内にはほとんど見受けられないとも樋口氏は指摘する。酒類の需要と供給に関する規制はほとんどなく、広告規制は自主基準のみでスポンサーの制限もなく、酒類は24時間365日いつでも購入できるというのが実情である。

我が国が現行の法的枠内でできる対策としては、広告宣伝の自主規制をさらに強化すること、とくに若い女性をターゲットにした自主規制を強化すること、販売価格を適正化すること(WHOではアルコール度数の高い酒類の酒税を高くするように指導しているが、国内ではビールの酒税が一番高いという矛盾がある)、酒類の責任ある販売指導などではないか、と樋口氏。最も有効的な政策はやはり国民の賛同があれば酒類の入手規制を行うことであるが、現実は難しいという。

マスメディアを活用したイメージ戦略で活路

しかし若年層の飲酒問題については、飲酒可能年齢の引き上げなどについても検討の余地があると樋口氏。ただ、規制を強化すれば、酒類の闇マーケットの活発化など別の問題も危惧される。

有効といえるアルコール政策がなかなか見つからない中で、日本には世界的に珍しい事例が一つあるという。それは2003年に福岡で起こった飲酒運転事故である。この事故は3人の幼い子どもたちの命が一瞬にして奪われるというショッキングな事故であったため、連日報道が加熱した。

実はこの事故が起こったことで、飲酒運転に関する法律が変わったり厳しくなったりということはない。しかしこの事件の後に飲酒運転そのものや飲酒運転による死亡事故が激減している。これは日本ならではのことと世界的にも評価されている。

したがって、マスメディアを活用したイメージ戦略には活路を見出せるかもしれないと樋口氏。いずれにせよ、国民・政府・製造業者・販売業者、と利害関係が複雑に絡み合っているため、今後も十分な協議と相互理解が必要であるとした。


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