肥満のリスクをコホート研究から分析
〜北海道大学イノベーション・フォーラム

2013年8月6日(火)、コクヨホールで、北海道大学イノベーション・フォーラム in Tokyo 「いまこそ "家・めし"〜ちょっと未来の健康生活」が開催された。この中で、「いつまでも元気でいる秘訣-コホート研究からわかること」と題して玉腰 暁子氏(北海道大学大学院医学研究科 予防医学講座公衆衛生学分野)が講演した。 


「肥満」は死亡リスクを高める

肥満については医学的にはBMI値(身長からみた体重の割合)で判定される。一般的にBMI22が標準とされ、18.5未満が痩せ、25以上が肥満とされる。

1997年以降、20〜60代男性の肥満の割合は右肩上がりで増加、メタボリックシンドロームという言葉とともに、とくに中高年男性の肥満が社会問題となった。その一方で女性は男性と異なり、40〜60代の女性の肥満の割合は1997年以降ほぼ横這い。とくに20代の女性では、2009年以降急激に「痩せ」の割合が増加している。

コホート研究とは、ある特定の要因の影響を受けている集団と、受けていない集団とを一定期間追跡し、研究対象となる疾病やリスクの発生率を比較するもので、健康や長寿に関しても「肥満である人」「肥満でない人」など分類し、数10年追跡した研究データがあると、玉腰氏はデータを紹介。

例えば、全死因のリスクは、「肥満である人」「肥満でない人」と比べてどれくらい高いのか。平均10年以上の追跡研究によると、男性の場合はBMI値が30以上になると死亡リスクは1.36倍になり、女性の場合も1.37倍になることが示されているという。つまり「肥満」は死亡リスクを高めるということだ。

肥満は「運動習慣の有無」よりも「生活習慣」が大きく関わる

しかしこのコホート研究から明らかになったことは「痩せ過ぎ」にも問題があるということ。BMI値が18以下になると死亡リスクは男性で1.78倍、女性で1.61倍にもなり、この数値は「肥満」よりも「痩せ」のほうが問題であることを示している。もちろんこのデータはタバコの影響や病気による体重減少の影響は差し引かれたものである。

運動については、1日の運動時間が30分未満だと、虚血性心疾患に陥るリスクが1.3倍以上に、脳梗塞のリスクが1.2倍になることが示されている。しかし「肥満」になるかどうかは、運動時間だけが関係しているわけではなく「生活習慣」によるところも大きいという。

とくに「食べるスピード」と「食べる量」が非常に重要で、「早食いで毎食満腹まで食べる」集団と「ゆっくり食べて毎食お腹一杯までは食べない(腹八分目程度)」集団を比較したところ、「早食いで毎食満腹まで食べる」集団は、肥満になるリスクが男女ともに3.2倍以上高くなることが明らかになったという。

つまり肥満になるかどうかは「運動習慣の有無」よりも「食べ方」を中心とした「生活習慣」が大きく関わっているのではないかと玉腰氏は指摘。

肥満が死亡リスクを高めることに間違いはないが、すべての人がそうした情報だけを鵜呑みにして不要なダイエットに励む必要はないともいう。

65歳以降、肥満は死亡リスクとしては大きな影響はない

肥満の死亡リスクを年齢別に分析すると、65歳以降で「肥満は死亡リスクとしては大きな影響はない」こともコホート研究から分かっているという。

例えば、BMI値が30以上でも、65歳以上の男性の死亡リスクは1%以下、女性ではBMIが30%以上でようやく死亡リスクが1%を超える程度で、むしろ65歳以上ではBMI値が16未満だと死亡リスクが男性で1.7倍、女性で2.5倍に高まるという。

おそらく高齢者は、痩せすぎることで体の抵抗力が弱まることが問題と推測される。もちろん、高齢にさしかかったからといって無理に太る必要はないが、BMI値が25〜27くらいまでなら、高齢者の場合、無理にダイエットをする必要はなさそうだ。

しかしながら、このようなデータは、現在のところ75歳以上のものがほとんどない。今後ますます高齢者の観察と分析が重要になると玉腰氏。

「配偶者のいない男性」、40代以上で死亡リスクが1.3倍高まる

また、死亡リスクということでは肥満だけでなく「社会性」も大きく関与することがコホート研究から明らかになっているという。例えば昭和55年、高齢者は子ども夫婦と同居している割合が50%を超えていた。

平成22年では、高齢者の54.1%が単身または老夫婦のみで生活していて、子ども夫婦との同居の割合はわずか17%となっている。高齢者で一人暮らしの男性の17% は「2〜3日に1回程度しか他者と会話せず(メールや電話も含む)」、「一週間に1回程度」という人の割合も11.3%になる。「友人とめったに会わない」高齢者は死亡リスクが男性で1.3倍、女性だと1.5倍以上になるというデータもある。

また「配偶者のいない男性」は40代以上で死亡リスクが1.3倍高くなり、女性も1.1倍ほど高くなる。「つながり」という観点で分析すると、「40代以上で仕事がない」と死亡リスクは1.3倍になるというデータを玉腰氏は提示した。

「他者との付き合い」が健康寿命に関与

近年は社会的背景から高齢者が働かざるを得ない状況が多く、若年層の仕事不足が深刻化しているが、どの世代でも「仕事」があることや、仕事でなくても「生き甲斐」があることが死亡リスクを低減させる。運動や食生活と同じくらい「他者との付き合い」が健康寿命に関与するということである。

病気は、水や空気といった外部環境、遺伝的要因だけでなく、社会的要因、心理的要因、生活習慣といったさまざまなリスクが絡み合い発生する。何か一つだけ気をつけておけば良いということでもなく、すべてにおいてバランスを取りながら、いかに「楽しく生きるか」がとても大切なことだと玉腰氏は解説した。


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