カビ毒の汚染実態とリスク評価
〜「第84回食と環境のセミナー」

2013年10月24日(木)、日本橋社会教育会館で、「第84回食と環境のセミナー」(主催:一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター)が開催された。この中で、小西 良子氏(麻布大学 生命・環境科学部 食品生命科学科)が「カビ毒の汚染実態とリスク評価」と題して講演した。


輸入品のカビ毒に注意

カビ毒は食品汚染物質のなかでも有害性が高いが、食品添加物などと比べあまり知られていない。カビ毒の原因となるカビは土中に生息しており、さまざまな農作物に付着・増殖し、毒素を発生させながら食品を汚染していく。

葉物の野菜や根菜だけでなく木の実や果実などからカビ毒が検出されることも多く、昆虫が媒介している。他にもカビ毒に汚染した農作物を食した家畜の肉や乳、チーズなどの加工品が汚染されているケースも少なくないと小西氏は解説。

しかし、日本にはカビ毒発生の原因となるカビ類はほとんど生息していないという。沖縄や九州の一部で見つかっているが、汚染を拡大させる強力なものではなく、国産の農作物のカビ毒については比較的安心して良い、と小西氏はいう。

その一方で、輸入食品には十分注意しなければならないという。今や、日本の食糧自給率は40%以下となり、ほとんどの食べ物を輸入品に頼っている。そのため、輸入食品のカビ毒検査がどのように行われているのか、十分な対応かなど消費者が理解する必要がある。

輸入者に厳しい措置

現在、輸入食品の検査体制は、国が行う無作為のモニタリング調査が第一関門と小西氏。多種多様な輸入食品の食品衛生状況など幅広く監査される。モニタリング検査により輸入食品の安全が保たれるが、検査で法違反が判明した場合や法違反の可能性が高い場合は、輸入者に検査命令が下る。

そうなると、輸入者は輸入のたびにロット全ての検査が求められ、かつ検査結果が判明するまで輸入が不可となる。また、検査にかかる費用は輸入者の負担となる。そのため、輸入者は最初からできるだけ質のよい食材を輸入せざるを得ない。一度下された検査命令はなかなか取り払われることがなく、輸入者はその後も輸入が難しくなるのが一般的だという。

アフラトキシン類、DNAを損傷

カビ毒検査の中でもとくに「アフラトキシン類」については厳しく行われている。DNAを損傷する発がん性物質であることが科学的に明らかとなっているからだ。

2004年、ケニアでアフラトキシンの大量摂取により317名中125名が亡くなった。古いトウモロコシの粉を食べたことが原因だった。ケニアやアフリカ諸国では日本の米とおなじような感覚でトウモロコシの粉を食べるが、多少古くても貴重なため食べてしまう。しかし運悪くカビ毒が大量発生していると、死を招くことがある。

2006年頃からトウモロコシのアフラトキシ違反増加

日本でのアフラトキシンの規制は1971年から開始している。アフラトキシンはナッツ類、穀類、香辛料、豆類、牛乳やチーズなど、あらゆる食品に含まれる可能性がある。  

そのため、モニタリング検査ではどのような食材でもチェックされる。近年では、2006年頃からトウモロコシのアフラトキシンの違反が増えている。

トウモロコシの汚染は2000年初期より増えているが、環境問題と密接に関係しているのではないかと小西氏。日本はトウモロコシの輸入のほとんどを米国に頼っており、他の国から買うことはない。そのため、トウモロコシがアフラトキシンに汚染されていても米国から買うしかない、というのが現状である。

この他、2013年9月時点で検査命令が下されている品目としては、全輸出国の落花生及びその加工品、ピスチオ、ミックススパイス、ミックスナッツ、乾燥いちじく、イタリアの栗、インドのケツメイシとひよこ豆、オーストラリアの綿実とその加工品、スペインのアーモンドとその加工品、中国のホワイトペッパー及びその加工品、花椒及びその加工品、米国のとうもろこし(粉を含む)、モロッコのセイヨウニンジンボクの果実及びその加工品など。

食品に寄生するカビ毒は7つほど

カビ毒は300種類ほどあり、なかでも食品に寄生するカビ毒はわずか7つほどしかないという。日本ではアフラトキシンの検査のみ厳しく、それ以外のカビ毒に対しては検査がされていない。基本的に死に至るような重篤な症状になることはないからである。

カビ毒そのものも年々変わってきている。温暖化、干ばつといった異常気象が毎年起こり、アフラトキシン汚染は中国やアメリカを中心に拡大傾向にある。

日本では規制されていないデオキシニバレノールというカビ毒はカナダやオーストラリアの小麦に、オクラトキシンAというカビ毒はヨーロッパのワイン用ぶどうに、拡大が予測されている。これは異常気象や干ばつで植物そのものの抵抗性が低下していることと関係しているという。

植物の免疫系、ファイトアレキシンが関与

近年の異常気象や環境汚染で、植物の免疫系が弱くなり、少しのカビ毒でも汚染されるケースが少なくないという。植物の免疫系は、ファイトアレキシンといわれる物質が関わっている。ファイトアレキシンの分泌量が多いほど、植物は高い抗菌作用を発揮し、少ないほどカビ毒やその他の病気にやられやすいというという。

カビ毒による健康被害を避けるには輸入国が監視を強化することや、生産国が農業規範を守ることが大前提となる。我々が無意識に行っている環境破壊や大気汚染がめぐりめぐって食物のあり方を変えていることを知らなければならないと小西氏は指摘した。


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