アンチエイジング、カロリー制限と抗酸化が
焦点〜第5回慶応義塾生命科学シンポジウム

2013年12月4日、慶応義塾大学ミタキャンパスで、第5回慶応義塾生命科学シンポジウム「食と医学フォーラム〜食・運動・ごきげんでアンチエイジング!」が開催された。この中から、坪田 一男氏(慶応義塾大学 医学部眼科学教室教授・SFC研究所ヘルスサイエンスラボ 共同代表)の基調講演を紹介する。


カロリー抑制で、体内の遺伝子が発現

「アンチエイジング」といってもここ数年は孤独死や認知症などのニュースが多く「長生きしたくない」という人も少なくない。しかしアンチエイジングとは単に長く生きるというだけでない。死を迎えるその日までのすべてのプロセスとQOLが充実したものであることを目指すものである。

老化による不調を予防しながら健康に長寿を実現するというのがアンチエイジングであり、右肩下がりではなく、右肩上がりで人生の終末を迎えられるようにしたい、それが正しいアンチエイジングの考え方であると坪田氏。

アンチエイジングは今や科学となり、さまざまな分野で多数の研究が行われている。アンチエイジングを実現するための医学的仮説として、「カロリーリストリクション(カロリー制限)」と「酸化ストレス」の2つが主流になっているという。

カロリーの抑制と長寿との関連については、体内で遺伝子の発現が変わるためで、インスリンホルモンやサーチュイン遺伝子にも変化が生じることが分かってきている。

平均寿命120歳も近い将来夢ではない

慶応大学ではエビデンスに基づいたアンチエイジング研究を行っているが、医学的にも長寿に貢献することが認められているアクションは「正しい食事」「運動」「ごきげん」であるという。この3つの研究を科学的により深めることで平均寿命120歳も近い将来夢ではないという。

この中で最も重要なのが「食事」で、ホルモンや神経の伝達物質の発現に影響を与えるだけでなく、食べる時間によっても体内物質の発現に影響を与えることが解明されつつある(時間栄養学)。また微量栄養素のビタミンやミネラルを過不足なく摂取することは「酸化ストレス」を抑制することになる。

また、カロリーを制限した食事のほうが微量栄養素を摂取しやすく、「カロリス仮説」と「酸化ストレス仮説」を結びつける新たな仮説の誕生を予感させるという。

カロリスを続けると体内のケトン体が増える。ケトン体は脳の中で糖に代わりの栄養素として働き、酸化した目を改善する方向で働くという。このようにカロリスと酸化ストレス仮説の繋がりが見いだせると坪田氏は解説。

適度な「カロリス」「運動」「ごきげん」が大事

アンチエイジングには、「カロリス」「運動」「ごきげん」の3つが大事だが、やりすぎには弊害がある。極端なカロリスは栄養不良を引き起こす。

十分な栄養を考えた「カロリス(日本の腹八分目の考え方=オプティマルニュートリション)」が必要で、「運動」のやりすぎも突然死や疲労骨折に注意が必要となる。「ごきげん」のやりすぎについても、極端な楽観主義だと過剰投資や甘い人生予測で苦しむことがあるかもしれない。

経済的な豊かさも実は「ごきげん」と比例していて、年収600〜800万レベルであるほうが「ごきげん」でいられることも疫学調査でわかっている。それ以上の年収になると不安や心配が増えたり、睡眠不足になったりすることが多くなると坪田氏。

面白くない時でも笑顔でいると脳は「ごきげん」状態に切り替わる。「ごきげん」は長寿だけでなく、成績や生涯年収の向上につながるという疫学データもある。

ただ楽しい、「ごきげん」だけというのではなく、成績や収入にも良い影響を与え、そして健康で長寿であるという幸せのあり方を追求することは人類史上初めてのことである。旅行やスポーツ、そして食といった産業にも良い影響を与えることが期待されるとした。


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