赤いお茶「サンルージュ」の効能と商品開発
〜農研機構 野菜茶業研究所シンポジウム

2014年2月5日(水)、東京国際フォーラムで、農研機構 野菜茶業研究所シンポジウム「赤いお茶、サンルージュの効能と商品開発」が開催された。従来お茶には抗酸化作用、抗菌作用、抗アレルギー作用などのさまざまな効能が知られてきたが、さらに抗疲労作用のあるお茶を作ろうと、国の産業技術プロジェクトの一環で「アントシアニン茶品種育成プロジェクト」が組織、高アントシアニン茶品種「サンルージュ」が開発された。ここではサンルージュの機能性に関する3つの最新研究報告を取り上げる。


ストレス耐性で注目の熱ショックタンパク質(HSP)

「サンルージュピューレの機能性解析」と題して、村上 明氏(京都大学大学院農学研究科食品生物科学専攻)が講演。村上氏は、サンルージュのお茶ではなく、サンルージュをピューレ状にしたものにどのような機能性が備わっているのか、その可能性についての研究報告を行った。

そもそも私たち人間は日常生活でさまざまなストレスにさらされている。しかし、体には生体防御機能が備わっていて適度なストレスには耐えることができる。そしてこのストレス耐性を高めることは、さまざまな疾病などを予防することにもつながるとされる。

私たちの肉体はタンパク質の集合体だが、タンパク質は基本的にストレスで変性する。しかしその変性を修復させ生体の恒常性を維持することもストレス耐性だ。

こうしたストレス耐性のメカニズムにはいろいろなものがあるが、近年注目を集めているのが「熱ショックタンパク質=HSP(ヒートショックプロテイン)」である。

HSPが発現することでタンパク質は変性することなく正常に機能する。このことから、体内でHSPの発現レベルを高く維持することが健康につながると考えられるようになっている。

マウス実験で、HSが優位に発現

村上氏らのグループは、サンルージュピューレが生体でHSPを増やすことに関与しないか調査を行ったと発表。マウス実験で、飼料のなかにサンルージュピューレを加えたものと、同じく抗酸化作用の高い「やぶきた茶」を飼料に加えたものを比較対照として調査した。

結果、サンルージュピューレを投与したマウスの肝臓細胞や小腸上部に明らかに優位なHSPの発現が見られたとした。

また線虫に「やぶきた茶」と「サンルージュ」の飼料処理をして30日間の生存率を測定したところ、通常21日程度の寿命の線虫が「やぶきた茶」では効果が見られなかったが、サンルージュでは29日まで寿命が延長したという。

いずれも研究段階であるが、サンルージュによってHSPが誘導されるメカニズムとサンルージュによって何が活性されているのか、今後も研究を続けていきたいとした。

サンルージュが筋萎縮に及ぼす影響

立花 宏文氏(九州大学大学院 農学研究院生命機能科学部門)は、「サンルージュピューレに筋萎縮抑制作用の可能性を発見」と題して講演。

お茶にはさまざまな生理作用が報告されているが、筋萎縮に及ぼす作用の研究はほとんどなされていない。しかし近年、ストレスによって被害を受けやすい部位として骨格筋が注目されている。

骨格筋に筋萎縮が生じると寝たきりになるなど生活の質が低下する。そこでサンルージュが筋萎縮に及ぼす影響がないかどうか、マウスを用いて調査したと報告。

そもそも筋萎縮はどうして起こるのか?最大の原因は「動かない」ことによるストレスで生じる。

マウスの後ろ足を10日間固定し「動かないストレス」を与えたところ、マウスの太ももに筋萎縮が生じた。そのマウスに通常食を与えた場合と、サンルージュを含んだ飼料を摂取した場合で比較すると、サンルージュを摂取させたマウスの太ももの筋肉の重量に増加が見られ、筋重量の低下の改善が観察されたという。

筋萎縮原因遺伝子Murf1という遺伝子が発現

しかしサンルージュがどのように筋重量の増加に貢献したのか?
マウスの足を縛り運動を制限すると、筋萎縮を引き起こす「筋萎縮原因遺伝子Murf1」という遺伝子が発現することがわかったという。

この遺伝子の発現量が多ければ多いほど筋萎縮は進む。しかしサンルージュを投与するとこの遺伝子の発現量が抑制されたことがわかったと発表。さらに、この抑制はサンルージュのアントシアニンである「デルフィニジン」という、サンルージュに特別多く含まれる成分が関与していることがわかったと報告。

実際、デルフィニジンを摂取させたマウスの場合、運動制限のストレスを与えて萎縮が完全ではないが抑制されたことも発表した。 今後はヒトにおいてもこの筋萎縮抑制作用が見られるのか検証する必要があるとした。

アントシアニンが豊富に含有

白井 展也氏(農業研機構 野菜茶業研究所)は「アントシアニンの体内動態とサンルージュの機能性」と題して講演。
茶葉中のカテキン類は、抗酸化作用、抗菌作用、脂肪燃焼効果、血圧上昇抑制などの生理効果が報告されているが、サンルージュにはカテキンに加え、アントシアニンが豊富に含まれている。

アントシアニンは抗酸化作用の他、眼精疲労抑制効果、血圧上昇抑制効果などの生理効果があることが報告されており、サンルージュにはカテキンとアントシアニンの両方の高い生理効果を有することが期待されている。

そもそも食品が口から摂取されると、口のなかや胃のなかで、アミラーゼやペプシンといった酵素により細かく分解されて小腸に送られる。しかしサンルージュのアントシアニンは胃の中で形を変えることなくそのまま小腸に送られて吸収されるという特徴が確認されていると発表。そのためさまざまな機能性が高く発揮されるのではないかという。

例えば血圧上昇の抑制効果についてと食後の脂質上昇抑制効果についてはマウスの実験で明らかな優位性が確認されているため、今後ヒト試験による研究結果が期待されるとした。


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