味や痛みと密接に関係するイオンチャンネル
〜ソルトサイエンス・シンポジウム2016


2016年10月12日(水)、品川区立総合区民館「きゅりあん」で、「ソルトサイエンス・シンポジウム2016」が開催された。この中から、富永 真琴氏(自然科学研究機構 教授)の講演「温度・痛みを感じる体のしくみ〜カルシウム・ナトリウム透過性チャネルの多彩な働き」を取り上げる。


活動電位が発生

皮膚には温度を感じる温度感受性TRP(Transient Receptor Potential)チャネルというものがある。これは細胞の膜にあるタンパクで、特定のイオンを選択的に透過させることのできる通路のような構造になっている。

細胞は通常、イオンの行き来はしていないが、温度を感知すると開くイオンチャネルがTRPで、これが開くことで細胞膜の外にある陽イオン(ナトリウムイオンやカルシウムイオン)が細胞内に流れ込むと富永氏。

このようにTRPが開き、陽イオンが細胞内に流れ込むと電位差が崩れ、これに反応してナトリウムチャネルが開き、活動電位というものが発生する。その電気信号が脳に届くことによって、熱い、冷たいといった温度の感覚を引き起こすのだ、という。

痛みと温度を感じる知覚は密接な関係

1997年以降TRPチャネルの研究が盛んになり、現在は11のチャネルが温度を感じるチャネルとして機能していることがわかっている。面白いことは、これらの温度に反応するTRPチャネルが、実は全く異なる刺激でも活性するということで、それがなんと「味」であると富永氏。

むしろ最初にTRVチャネルを特定したのは、温度のチャネルではなくカプサイシンの受容体としてであった。辛いものを食べると口の中が熱く感じるが、これに着目してTRVに熱刺激を加えたら熱刺激でも活性化することがわかりTRVが温度の受容体であることがわかってきたという。

味の中でもいわゆる5味は舌の味蕾でキャッチされるが「辛い」は味蕾ではなく、細胞のTRPの中でもTRPV1という部分に作用し、辛いということを感じるという。

しかし、舌以外にあるTRPV1は辛味ではなく痛みとしての受容体として存在する。いずれにせよ、痛みを感じる知覚と温度を感じる知覚には密接な関係があるといえよう。

42℃以上は痛みの感覚に

また、人が心地よいと感じる温度は40〜42℃だが、42℃を超えるとそれは痛みの感覚に変わる。その理由はまだ明らかにされていないが、一定の温度以上や以下では「痛い」と感じるチャネルが「辛い」を感じるチャンネルと同じであるという。

温度を感じるためのTRPチャネルが温度以外の刺激によって活性する。

では、冷たい方はどうか。ミントなどに含まれ清涼剤として用いられることの多いメントールはTRP8というチャネルで感知される。

25〜28度の温度で活性化するチャネルでもあり、メントールそのものが冷たくなくてもTRP8チャネルがメントールをキャッチして活性することで冷たいように感じているという。

これは入浴剤のメントールも同様で、入浴中は湯の温度を感知しているため冷たいとは感じない。しかし入浴中に脂溶性のメントールが皮膚に浸透し、これがTRP8を活性することで湯船から出た後に25〜28度の温度を感知しているように錯覚するため「ひんやり」を感じるのだという。

温冷を刺激するチャネルに反応

TRPチャネルはヒト以外の生物に共通するものも多くある。例えば、多くの防虫剤には昆虫のTRPV1を活性する物質を含んでいて、昆虫はそれを痛み=熱さと感じて近づかないのだという。

TRPV1チャネルは痛みのチャネルであると同時にわさびに含まれるアリルイソチオシアネアートという辛味物質でも活性するチャネルであることがわかっている。

わさびで冷たさを感じるかはともかく、他にもオリーブオイル、オレガノ、ミョウガ、玉ねぎ、にんにく、生姜、タイム、わさび、シナモン、山椒、胡椒などのすべてがTRPチャネル=温冷を刺激するチャネルに反応しているという。

イオンチャネルの解明はこれから

他にもTRPV4というチャネルは温感情報だけでなく皮膚のバリア機能との関係や適切な環境温度の選別に関わっている。

また、TRPV2というチャネルは温度依存によって起こる生理応答に重要で感覚神経や視床下部に関係。さらに膵臓とインスリン機能にも重要に関与しているという。

また免疫と温度受容体の関係はあまり注目されていないが、免疫細胞がサイトカインを産生するには細胞内のカルシウム濃度が上がる必要があり、TRPチャネルがカルシウムの取り込みには欠かせないことから免疫と体温チャネルの関係も推測できる。

私たちの体のメカニズムとして温度に左右される事象はたくさんあり、それは味や痛みとも密接に関係していることがイオンチャネルの研究によりわかってきている。

イオンチャネルの解明はまだこれからだが、新しい発見があれば入浴剤のように身近な商品などにも応用できることがまだまだ増えるであろう、と語った。


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