桑の葉茶の機能性評価
〜「次世代機能製農林水産物」シンポジウム


2016年12月5日(月)、有楽町朝日ホールで、「次世代機能製農林水産物・食品の開発」公開シンポジウムが開催された。この中から、亀井 飛鳥氏(公益財団法人神奈川科学技術アカデミー 未病改善食品評価法開発プロジェクト)の講演「桑葉を例にした食品の機能性評価〜動物からヒトへ」を取り上げる。


減少し続ける桑畑

桑は日本では古くから蚕の餌として栽培され、養蚕によって日本の質の高い絹糸が盛んに生産されてきた歴史がある。

製糸業の発展に大きく貢献し、明治以降は国内の織物産業にとどまらず、世界各国にも重宝され輸出産業にも大きく貢献した。

特に明治期の産業としては主要なものであり、群馬県を中心に当時は桑畑が拡大傾向にあった。

しかし化学繊維が安価かつ大量に出回るようになったり、第二次世界大戦などがあったことから、養蚕業は縮小の一途を辿り、現在桑畑は減少し続けている、と亀井氏。

桑の葉、お茶として親しまれてきた

平成20年の農林水産省の発表によると、桑園の面積は桑畑最盛期の昭和5年当時と比べ、約1/350まで縮小しているという。

しかも、その桑畑が養蚕業に利用されているのは、全面積の約50%にも満たないという。

そもそも蚕の餌として使用される以前から、桑の葉はお茶として日本人には親しまれてきた歴史がある、と亀井氏。

すでに鎌倉時代から健康茶として親しまれていたという記録も残っており、臨済宗の栄西が記した「喫茶養生記」という書物には桑の葉の効果・効能について記されているという。

脂質代謝改善作用や抗炎症作用

亀井氏の所属するチームは、この桑の葉の機能性に着目し、機能性評価を行った。

主にマウスを使った動物実験では、桑葉を摂食させた後、肝臓の遺伝子発現を解析した。

その結果、脂質代謝改善作用や抗炎症作用、酸化ストレス抑制作用などがあり、それらのメカニズムを、国際ジャーナルにも発表してきた。

また、これらの基礎研究を元に、ヒトにも同様、あるいは異なる機能性を示す可能性がないかを研究する方法を模索したという。

ただ、食品評価、特にヒトに対して同等であるかを評価することは非常に難しいという。

食品のさまざまな機能性について、動物実験をすることはそれほど難しくない。

例えば、モデルマウスを作り、標的とする臓器や血液の遺伝子解析などを行う方法が主だが、ヒトの場合、同等の評価試験が求められても組織を採取することができなかったり、個人差の問題があったりする。そのため、動物実験と同等の評価をすることは非常に難しい。

血中コレステロールが低下傾向に

また、食品の摂取効果は長期的に少しずつ起こる変化がほとんどで、期間を定める試験で、血中成分や遺伝子の変化などを捉えるのは極めて困難、と亀井氏。

そこで動物実験でもヒト試験でも採取できる「血液」に注目し、食品を摂取することで血液中に変動して発現する遺伝子を食品機能性マーカーとして活用することを検討したという。

40名の被験者を対象に桑の葉茶を1日3回(1回2g)、2ヶ月間毎日摂取でどのような結果が得られるのか、二重盲検法によって調査実験を行った。

その結果、「血中コレステロールの低下傾向」や「腸内細菌叢の変化」が見られた。

この試験から、食品の機能性を評価するにあたり、動物実験と同様のヒト試験を行うことは非常に難しい。しかし、血中の遺伝子マーカーでは応用できるものが多く、この手法を活用する可能性は十分にあるといえるという。

桑の葉茶で、復活の可能性も

養蚕の終焉は「桑の葉茶」などの健康食品への転換で復活する可能性が十分ある。

またこのヒト試験が十分にできるようになり、エビデンスが確立されれば機能性表示食品などへも応用できる、と亀井氏。

健康食品としてポジションを確立させるためには安全性評価や機能性評価が正しく行われることが何よりも重要である。

しかし、桑の葉に限らず、これまでヒトでの評価が難しいとされていた成分も血中遺伝子を評価マーカーとして活用することを検討することが有効である可能性は十分にあるとした。


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