難吸収性ポリフェノールの多彩な効用
〜「次世代機能製農林水産物」シンポジウム


2016年12月5日(月)、有楽町朝日ホールで、「次世代機能製農林水産物・食品の開発」公開シンポジウムが開催された。この中から、越阪部奈緒美氏(芝浦工業大学 システム理工学部)の講演「脳-消化菅軸を介した難吸収性ポリフェノールの生理作用の発現」を取り上げる。


ポリフェノール、「体脂肪の低減」や「血圧の低下」

植物性食品に含まれるポリフェノール類は健食ブームの現在、機能性成分として最も注目されているものの一つである。

さまざまな健康食品や機能性表示食品から摂取でき、その作用は多岐に及ぶ、と越阪部氏。

国内外で実施されている数々の疫学調査で、「摂取頻度と心血管系疾患リスクの減少」が報告されている。

また、ポリフェノール摂取により、「体脂肪の低減」「血圧の低下」「血管内皮機能の改善」「脂質代謝の改善」「耐糖能の改善」といったメタボリックシンドロームのリスクに多面的な有効性を示すことが確認されている。

ポリフェノール、1000種類以上特定

しかしこの20年近いポリフェノール研究の中で、どのような作用メカニズムでそれらの効果を発揮するのかは明らかとされていない部分も多い。

何よりポリフェノール類は体内に摂取されても生体利用率が極めて低いことも分かっている。

現在、ポリフェノールは1000種類以上が特定されている。

中でも紅茶の渋味であるテアフラビンやりんごやぶどうに含まれるプロシアニジンといったカテキン重合物、ベリー類に含まれるアントシアニンは特に吸収性の悪い「難吸収性ポリフェノール」であるが、生理作用を示すことも報告されている。

なぜこうした優れた生理作用を発揮するのか、そのメカニズムを解明することが求められている、と越阪部氏はいう。

ポリフェノールとの掛け合わせの研究は困難

一般的に、経口摂取された機能性成分(化学物質)は生体に対して何らかの生理学的変化を与える。

そのため、成分本体が消化管で吸収され、循環血流によって標的とする臓器に分布し、標的分子と相互作用することが必要であると考えられている。

しかし難吸収性ポリフェノールはそのほとんどが吸収されない以上、同等のメカニズムが起こることは考え難い。

また吸収されないからこそ消化管でバラバラになり、腸内細菌の働きを高めることは可能性として否定できない。

しかし、人の腸の中には腸内細菌が約1000兆個もあるといわれ、腸内細菌と分解されたポリフェノールとの掛け合わせを研究するのは、天文学的数字になるため特定は極めて困難であろう、と越阪部氏は指摘する。

ポリフェノール、交感神経を刺激

しかし越阪部の所属する研究チームは、最近、難吸収性ポリフェノール類が摂取後わずか2時間で血圧や心拍数を一過的に上昇させ、骨格筋の血流を増大させることを見出したという。

エネルギー代謝の顕著な増加も確認され、さらにこの変化は血中のカテコールアミンの濃度の上昇とともに起こることが認められたという。

なぜほとんど吸収されない物質の摂取によってこのような変化が起こるのか。越阪部氏のチームは、ポリフェノールの中でもより生体利用率の低い「プロシアニジン」でさまざまな検証を行ったところ、ポリフェノールが「交感神経を刺激しているのではないか」という仮説に到達したという。

例えば辛味成分であるカプサイシンや冷感を示すメントールといった強い刺激を有する食品成分は消化管に存在する受容器を媒介して知覚神経に認識される。

そのシグナルが脳の中枢に伝達され、その結果交感神経を刺激してエネルギー代謝を変化させることが報告されている。

難吸収性ポリフェノール、消化管に刺激与える

難吸収性ポリフェノールも強い渋み成分であるため、同等のメカニズムが類推されることから、以下のような試験を行った。

マウスにおいて知覚神経を完全に除去したモデルと、通常マウスのそれぞれにプロシアニジンを摂取させた。

結果、通常マウスには血圧や心拍数の上昇、骨格筋の血流増大など正常動物と同じ変化が見られた。

これに対し、知覚神経除去モデルマウスにはそのような変化が一切見られなかった。

同時に、自律神経を統合する視床下部における神経活動マーカーやストレスホルモンを測定したところ、難消化性ポリフェノール投与後には上昇することも確認されたと越阪部氏。

つまり難吸収性ポリフェノールは、消化管に吸収されるのではなく消化管に刺激を与え、その刺激はストレッサーとして認識され、交感神経を興奮させてさまざまな作用を発現させるのではないか、と解説。

運動ストレスのようなメカニズム

交感神経を興奮させることのネガティブな側面に注目が当たりがちだが、細胞や個体は低度の有害刺激に対し抵抗性を増すことで恒常性を維持する側面を持つことが知られている。

例えば温浴ストレス、運動ストレス、カロリー制限などがその一例であろう。私たちがホメオスタシスを維持するには低度の刺激が必要であるということだ。

まだ完全には解明されていないが、難消化性ポリフェノールが体に与える機能性のメカニズムも、消化管-脳軸を介してストレス反応を起こした結果起こされる、ある種の「運動ストレス」のようなメカニズムである可能性が十分考えられるため、引き続き解明に努めたいとした。


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