食品のホメオスタシス維持機能の評価法を開発〜第6回シンポジウム「次世代の食品機能性と自然免疫」

平成29年3月24日(金)、笹川記念会館にて「戦略的イノベーション創造プログラム第6回シンポジウム 次世代の食品機能性と自然免疫」が開催された。この中から、稲川 祐之氏(自然免疫制御技術研究組合 研究開発本部長)の講演「食品のホメオスタシス維持機能多視点評価システムの開発〜疾患動物モデル及び健常人での有用性検証」を取り上げる。


ホメオスタシスの維持、従来の方法では検査しづらい

稲川氏らの研究グループはこれまで健康維持の観点から食細胞(マクロファージなど)の機能を評価してきた。

この経験から、体を健康に保つ機能とは「ホメオスタシス維持機能」であり、これには食細胞群が重要な役割を担っていることを見出した。

こうしたことから、食品や運動によりホメオスタシス維持機能を評価する方法を開発することを目標に研究開発を続けてきた、という。

というのも、ホメオスタシスが維持されているかどうか、従来の方法では検査しづらい。

病院での生化学マーカーは医療機関で採取し、専門の検査会社や病院が必要で専門技術が必要、測定のハードルも高いという問題があるからだ。

しかもホメオスタシスとは日々の体調変化と同様に繊細に揺れ動くものであり、いちいち病院で専門的に測定しているのではタイムラグも生じる。

微量血液で測定できるシステムを構築

そこでホメオスタシスを簡便に評価する装置を開発するため、また最終的には「リアルタイムで簡便に、そして安価で誰でも測定できる」ことを目標にシステム開発を行ってきた。

実際には、微量血液で測定できるシステムの構築を平成27年までに終了した、という。

このシステムの開発の背景には生活習慣病の原因を考えることにあったという。現代病ともいわれる生活習慣病は、過食や偏食、運動不足や環境汚染、慢性的ストレスや睡眠不足といった多岐にわたる原因が複雑に絡み合っている。

いずれも初期には自覚症状が薄いが、深刻化すると生活の質を著しく低下させるという共通点があり、どんな生活習慣病もまずは生体内の異物の増加によって引き起こされる、という共通点がある。

日々微妙に変化するホメオスタシスの測定が可能に

例えば、アルツハイマー型認知症であればアミロイドβ、高血圧症や動脈硬化であれば酸化LDL、肌の老化や血管の炎症ではAGE sなどが異物とされる。

これらの生体内異物を「作らせない」「溜めない」「排泄する」という自然免疫力を測定できれば、ホメオスタシスが正しく維持できている、と判断できるのではないか、という観点からシステムが開発されたという。

実際に、開発されたシステムにおいて、「作らせない」については好中球活性評価によって、「溜めない」については酸化LDL検出評価によって、「排泄する」については食細胞貪食能評価によって可能にした。

これにより、日々微妙に変化するホメオスタシスを3方向から、医療機関に行かず、一度に測定することが可能となったという。

各システムのプロトコールを確立

現在はこのシステムの有用性を評価するために疾患動物モデルや健常者・疾患者の血液で測定を行なっており、各システムのプロトコールの確立を進めている。

その結果、健常な人336名のデータを取得することができ、このシステムの暫定基準値を求めることもできているという。

また疾患モデル動物で、このシステムを使用する実験では、記憶力の低下したアルツハイマー型マウスにおいて、好中球活性の亢進や酸化LDL、食細胞貪食の増加が見られ、従来の生化学パラメーターとの相関解析で各視点がそれぞれ異なる相関を示している。

高血圧ラットでは好中球活性亢進、酸化LDLの増加が見られたといった研究結果を踏まえ、疾患=ホメオスタシス異常状態において、生体内異物に基づく三視点評価がそれぞれ異なるパラメーターとして利用できる可能性も示唆されているという。

機能性表示食品のエビデンス根拠で利用できる可能性

またこのシステムでは、食品の機能性成分を摂取した際のホメオスタシス変動による摂取効果の測定も期待されていて、将来的にはこのシステムが機能性表示食品や健康食品全般のエビデンス根拠として利用できる可能性も秘めている。

直近では、さらに好感度な検出能力を持つ同装置の進化版により、疾患患者やモデル食品として玄米によるヒト介入試験の評価も予定されているという。

自然治癒力や免疫力という従来測定不可とされていたものが測定できるようになれば、食による健康作用の評価もしやすくなり、今後の実用化と幅広い活用が期待される、とまとめた。


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