健康・医療制度の見直し・改善を〜日本学術振興会 先導的研究開発委員会「食による生体恒常性維持の指標となる未病マーカーの探索戦略公開シンポジウム」

2018年7月20日(金)、東京大学において先導的研究開発委員会「食による生体恒常性維持の指標となる未病マーカーの探索戦略公開シンポジウム」が開催された。この中から、江崎 禎英氏(経済産業省 商務サービス政策統括調整官)の講演「健康・医療情報を活用した予防政策の実現〜クオリティデータの重要性」を取り上げる。


現在の社会制度、現実とミスマッチ

今や、平均寿命が男性でも80歳を超え、女性は90歳に近づこうとしているが、人生の最後の瞬間までどうすれば幸せに生きられるかを考えることは非常に重要である。

超高齢化社会を迎えた日本の将来に、不安を煽るような報道も多いが、そもそも人間の肉体は120歳まで生きるように設計されている。

長寿の実現が可能となった現在の社会は、平和で安全ということでもあり、本来であれば、誰もが願う理想の社会のはずではないか、と江崎氏。

かつては乳幼児死亡率も高く、戦争や感染症で命を落とす人が圧倒的に多く、平均寿命を下げていたが、今はガンも含む生活習慣病で亡くなる人の方が圧倒的に多い。

しかし、現在の日本の社会制度は、戦後の復興や経済成長期に設計されてしまったため、制度と現実がマッチしていない。

求められる「生涯現役社会」の構築

例えば、国民皆保険制度は世界に誇れる制度であることに間違いないが、結核に代表される感染症が死因の上位を占めていた時代に整備されたものである。そのため、それを現在もそのまま継続するのはやはり無理がある。

経済成長・先進医療の普及や導入は、感染症で亡くなる人を極限まで減らす一方で、自立して生活できないお年寄りを大量に生み出している。

今、日本の社会に求められているのは「生涯現役社会」の構築である、と江崎氏。

現在、医療費の1/3は生活習慣病に使われてしまっているが、生活習慣病患者にそれを使うことより、重症化予備軍の人に行動変容を起こす具体的なアプローチのほうが必要ではないか。

生活習慣病の原因、「食べ過ぎ、運動不足、ストレス」

「予防」によって医療費を削減できると考える人が多いが、実はこれはあまり効果がないと江崎氏。なぜなら予防に力を注げる人は健康意識の高い人で、今現在医療費を使用していない人ばかりであるため、医療費には何の影響も与えないからだ。

しかし、生活習慣病が重症化しそうな人、というのは、だいたい「忙しい」人が多く、自分の健康に無関心である経営者や管理職の人が多い。

そうでない場合もあるが、いずれにせよ健康への意識や関心が薄い予備軍に対し、ウエアラブルなどによって生活習慣指導や場合によっては介入を行う仕組みを整備すれば医療費は一気に削減できる。

感染症であれば、原因が特定でき、症状を根治できるので医療費をかける意味がある。生活習慣病の原因は「食べ過ぎ、運動不足、ストレス」であり、これに効果的な医薬品は存在しない。

しかし、重度の糖尿病患者であっても食事と運動の介入によるコントロールを数ヶ月行うだけで、症状は随分と改善することがわかっている。

フランス、認知症の医薬品の保険適用をやめる

本当に必要な医療費をどこにどう使うかを見極めることも大切である。例えば、フランスでは認知症の医薬品には効果がほとんど期待できないため、保険適用をついにやめる決断を下した。

これは大きなニュースになっているが、非常に現実的である。同様に、老化も遅らせることはできるが止めることはできない。

どんな症状が予防できるもので、どんなん症状が予防できないものなのか、予防できないものには医療費をかけても良いが、予防できるものはやはりクオリティデータを構築し、指導と介入で積極的に予防すべきだ、と江崎氏。

時代に合わなくなった制度を改善

時代に合わなくなった制度を改善する、古い価値観を変えていくことがイノベーションである。例えば、高齢者=65歳以上というのも少しずつ変わってきており、高齢者=75歳と考えられるようになってきている。

実際に、75歳、あるいは85歳まで多くの人が現役であると想定してみると、高齢化で起こる問題の多くは解決する。

日本の高齢化のスピードは世界でも注目されている。しかし、今一人一人がイノベーションを起こし、「生涯現役」を実現できれば「日本は良い国だ」と世界に賞賛され、お手本となる国になるであろうと江崎氏。

まずは「生活指導」にも手厚いサービスや制度を与えるだけでも変わる。新たな産業を生み出すことにもつながる。超高齢化にあるべき社会経済システムと価値観を再構築できれば、日本の未来は決して暗くはないとまとめた。

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