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「毎日食べても飽きないいのちの料理」を食のテーマに
〜西本願寺連続公開講座「食といのち」

2010年10月2日(土)、千葉県幕張メッセで、西本願寺連続公開講座「食といのち」が開催された。講師には日本で最も予約が取れないレストランと称される銀座にあるイタリアンレストラン「ラ・ベットラ・ダ・オチアイ」のオーナーシェフである落合務氏が招かれ、イタリア料理や料理人という観点から考える「食といのち」について講演した。


世界で増える飢餓人口、一方で食品の大量破棄

世界では8億人を超える人々が飢餓や栄養不足で苦しんでいる。その一方で、日本国内では食品の大量破棄、偏食、食習慣の乱れ、それを起因とする生活習慣病の増加など、食を取り巻くさまざまな問題が起こっている。

特に東京についていえば、一日に6000トンもの食べ残しが破棄されているという現状があり、これはバングラデイッシュの50万人の一日分の食料に相当する量だという。結婚式の披露宴でも豪華な食事が振る舞われるが、平均して30%は食べ残されているそうだ。飽食になっているせいなのか、食べることが「いのちをいただいていること」という認識が希薄になってしまっているのかもしれない。

TVなどで食べるシーンをみていても、「いただきます」や「ごちそうさま」をしっかりいったり、手をあわせて「いただく」シーンは少なくなってきているのではないかと指摘する。毎日の食事の根底には、食物を摂取して栄養補給することや、漫然と食欲を満たすことだけでない、いのちのめぐみと大きなおかげがあるということをわれわれは再認識すべきだと訴える。

スタートはフランス料理から

イタリア大統領が授与する勲章にOSSIという勲章がある。イタリア文化に継続的発展に貢献した外国人に贈られる勲章だ。落合シェフはこの勲章を2005年に受賞している。しかし落合シェフの料理のスタートはフランス料理からだった。ホテルニューオータニでの修行中に、フランス本国で本格的にフレンチを学びたいという思いを募らせるも、なかなか実現せず、資金稼ぎのために、チョコレートケーキで有名なトップスへ転職する。

トップスのオーナーは当時フランス料理で有名なレストラン「グラナーダ」のオーナーでもあり、落合氏はオーナーにフランス行きを支援してもらえるようになった。渡仏した落合氏は三ツ星レストランを食べ歩く旅を続け、本場のフランス料理のレベルの高さや盛りつけのセンスなどに感銘を受け、再渡仏を心に誓っていたそうだ。しかし、帰国直前、飛行機の都合で滞在せざるを得なかったイタリアで落合氏の運命を変える出来事が起こった。それはイタリア料理の平凡さであったという。

イタリア料理の「飽きない、いのちを続けさせるパワー」を実感

フランスでは毎食毎に豪華なものを選んで食べ歩いていたこともあったのでその反動という一面もあったかもしれないが、イタリアではそれなりのハイレベルのレストランに行っても、びっくりするような盛りつけやサービスに出会うことがなく、味についてもそれほどの衝撃を受けなかったという。フランス料理はそのボリュームや濃厚な味付けになかば辟易しながらも、勉強だという理由で食べていたのに対し、イタリア料理はまったく飽きることがなく、翌日にはしっかりお腹が空いた状態で4日間を健康的に過ごすことができたという。

その時に落合氏は大切なことに気づいた。「食とは本来こういうものではないか。飽きることのない料理。毎日の料理。イタリア料理にはいのちを続けさせるパワーがある」。これをきっかけに、落合氏は「毎日食べても飽きないいのちの料理」を自分の食のテーマに据えた。考えてみるとフランス料理の起源もイタリアである(1533年頃、フランス国王アンリ二世がイタリアのメディチ家の女性カトリーヌ・ド・メディチと結婚したときに持ち込まれた)。そして落合氏は再びイタリアへ渡り3年間の修行をした。

イタリアでは家庭料理・家庭の味を大切にする

イタリアでの修行中にも、イタリア料理の伝統のなかに続く「いのち」について気づかされることが多かったという。例えば、イタリア料理といえば「マンマの味」という言葉がよく知られているが、イタリア男は100%マザコンであり、どの男性に「美味しいレストランを紹介してくれ」と頼んでも「だったらうちのマンマのごはんを食べにこいよ」といわれてしまうのだという。

それほどまでにイタリアでは家庭料理・家庭の味を大切にしており、それはイタリアからフランスに嫁いだカトリーヌがイタリア料理をフランスに持ち込んだ時代と変わらず、今も母から娘、義母から嫁へと脈々と続いているようだ。また、この伝統があるからか、レストランでは奥さんが厨房をしきり、ホールは亭主が担当するという家族経営レストランも多いという。日本とは真逆である。

食前食後には必ずお祈りをしてから食事をいただく

イタリアでは「木曜のニョッキ」という言葉があるそうである。ニョッキとはジャガイモと小麦粉で作る団子状のパスタである。これはキリスト教の教えに基づき、金曜日は肉食を避けるか断食をする習慣があるため、その前日にあたる木曜日には腹持ちのよいニョッキを食べて金曜日に備えようという風習のようで、いまでもこの風習を守り続けているひとはかなり多くいるようだという。

ほかにも、イタリアでは東京のようなスーパーマーケットではなく、いまでもマルシェ(市場)での買い物がベースとなるため、やはり旬の食材しかほとんど食べないという点や、食前食後には必ずお祈りをしてから食事をいただき、そして祈りで終わる点、またシエスタ(昼寝)の文化を大切にしているが、これはしっかり消化させて次の食事を美味しくいただくためであり、料理人はシエスタをすることが必要不可欠であることを教えられた、といったエピソードなどを紹介。イタリア人は人生のなかで食べることを非常に重視していると当時に、食に対する敬意や意識も非常に高いのだ、と落合氏は教えてくれた。

イタリアから帰国後、一年半「閑古鳥が鳴く」状態も

また、落合氏はいまでは予約が取れないレストランのオーナーシェフとして、知らない人がいないほど超有名シェフであるが、イタリアから修行を経て帰国後に任されたイタリアンレストランでは一年半もの間「閑古鳥が鳴く」状態で、この期間に2回も胃潰瘍になったそうだ。仕入れた食材、いのちの食材を来る日も来る日も無駄にしなければいけなかったことについて、これほど辛いことはなかったという。

近年はメディアでの活動も増え、毎日は行けなくなってしまったというが、いまでもシェフ自ら市場への買い出しをできるかぎり行っているという。食材はいのち、いのちである食材を自らの目で確かめ、そしてお客様に安く美味しくベストな状態で食べてもらいたいという。もちろん市場とはお店の近くにある築地市場。買い出しの後には感謝の気持ちから自然に本願寺に頭を下げるのが習慣になっているという。

ラベットラとはイタリア語で「台所」という意味であるが、わたしたちのいのちも毎日の食が生まれる台所によって続いていること、そしていのちを続かせてくれる毎日の食こそ最も大切にしなければならないものなのだと再認識させてくれた。

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