「食」関連トピックス
毎日を元気に生きる栄養と食べ方の秘訣
〜オーソモレキュラー特別講演会

2015年8月30日(土)、有楽町朝日ホールで、オーソモレキュラー特別講演会「毎日を元気に生きる栄養と食べ方の秘訣」が開催された。オーソモレキュラーとは最新の栄養療法のことであるが、これまでの西洋医療による治療に加え、西洋医療では根治できなかった症状に対し、栄養療法を用いることで健康を取り戻している人が増えている。

病院食の味気なさ

当日、食育のスペシャリストである服部幸應氏が「食育とダイエット」と題して講演。

健康になる食事とはどんな食事か。栄養バランスの整った食事なのか、よく噛んで食べる食事なのか、食べ過ぎない食事なのか。考え方はいろいろあるが、服部氏は「食べる環境」こそ重要ではないか、と話す。

昭和60年代の話しだそうだが、骨折で入院した友人を見舞いにいったところ、病室に16時に食事が運ばれてきたため、驚いた服部氏は「これは遅めの昼食なのか、早めの夕食なのか」を尋ねたところ、「夕食だと」教えてくれたという。

その配膳時間にも疑問を持ったが、その食事内容についても、お世辞にも「おいしそう」には見えず、実際、骨折以外で問題のない友人はその食事には手をつけず、差し入れや持ち込みの食事を食べるから、配膳された料理は食べていいよ、と半ば強引に押し付けられたという。

生まれてはじめて食べる病院食のなんともいえない味気なさに驚いた服部氏。当時新聞でコラムの連載を担当しており、そこにその病院食の味気なさ、また16時という時間の異常さについて思わず書いてしまったという。

するとたまたまそのコラムを読んでいた当時の女子医大の理事長が、同じく新聞内のコラムで「私もそう思う。一緒に現状を変えていければ」と応じてきたそうだ。

病院食の健全化に関する試み

これをきっかけに、その女子医大の理事長だけでなく他の病院関係者やメディアなども巻き込んで、病院食の健全化に関する試みを服部氏が中心となって行ったところ、1年後には3,600件の病院が夕食の時間を18時に改善できたそうだ。

それまで16時が主流だったのは、単純に労働時間と労働組合が19時終業にこだわっていただけだったということもわかったという。

またこのプロジェクトを通して「なぜ病院食が美味しそうに見えないのか」いろいろな角度から考察を行った所、3つの理由がわかったという。1点目が照明。病院の蛍光灯の下では赤いお肉も茶色く見えるし、元気なはずの病人の顔色もいつまでたっても青白くしか見えない。

食事が美味しそうに見えること、美味しそうだから食べたいと思うことは、体内でセロトニンやドーパミンを増やし免疫力を高めることにもつながる。感情的な「快」の刺激がなければ体内の重要な免疫機能やホルモンはうまく働かないということだ。

照明や音、臭いといった「食べる環境」が重要

2点目が臭い。個室でない限り入院病棟には4〜6人の患者がいて、それぞれの薬の臭いや体臭、またトイレにいけない人についてはカーテンをしていてもその場で用を足したりしている。

これらの臭いのある部屋ではやはりどうがんばっても美味しく食べることはできないし食欲も湧かない。もちろん個人差があるにしても、臭いのストレスはストレスホルモンコルチゾールを増やす一方で、免疫力を低下させるという。やはり食べる部屋と寝る部屋、用を足す部屋は一緒であってはならない。

3点目が音。グツグツという音やジュージューといった食欲を誘う音、それに伴って漂ってくる美味しそうな香りはセットで食欲をそそる。これらの音や温度感、香りも重要な食のファクターであるが、病院食にはこれらが欠けている。

実際、いまから30年ほど前に米国ノースキャロライナ州のある病院で次のような実験が行われたという。18階建ての入院病棟を左右に分断し、片方は間接照明と白熱灯で美味しさを演出した病院食を提供、もう片方はいつも通りの蛍光灯で病院食を提供、どちらのほうが入院期間が短縮できるか、という実験だ。

結果は間接照明グループのほうが約3週間で退院する患者が続出したのに対し、蛍光灯グループは平均4週間で退院するという結果になったそうだ(病状や病歴は左右ともバラバラで、単純に食事時の照明に変化をつけただけ)。

それくらい、照明、音、臭いといった「食べる環境」は重要であるということだ、と服部氏は解説。もちろんそこには「家族との会話」も含まれるであろう。

17年前に服部氏らは政府に「食育」を提案

これらの経験を踏まえ、いまから17年前に服部氏らは政府に「食育」を提案した。それまで日本の教育は「知育、徳育、体育」の3本柱でやってきたが、それがうまくいっていないのは「食育」が抜け落ちているからだ、と服部氏は訴えたという。

服部氏が子どものころは、食育とは家庭のなかに当たり前にあるものだったという。朝起きたら元気よく挨拶をして家族のいる「ちゃぶ台」にお行儀よく座わり、皆が揃わなければ食事を食べることができなかった。

お箸の持ち方がおかしければ、祖父母に注意され、食べ方が汚かったり、欲張ったり、残したりすれば、父にも母にも叱られた。自分の家だけが特別に厳しかったのかといえばそんなことはなく、どの家庭の子どもたちもそのように教育されていたという。

そしてどの家庭にも「みっともない食べ方をすればその家庭そのものの恥になる」という共通の思いがあり、食育という言葉がなくとも自然に食育が行われてきたという。しかし、社会背景の変化とともにそのような考え方や躾は家庭から失われてしまった。

日本の成人女性の痩せ過ぎが問題

いま、子どもたちに「食事の風景」を題材に絵を描かせても、「TV、ゲーム、一人の姿、単品の食事、お菓子」そんな絵ばかりがでてくるという。服部氏が学校をまわり箸の持ち方を指導しても「余計なお世話だよ」と小学生に言い返されてしまう始末だそうだ。

環境を無視した病院食では食欲が湧かないどころか免疫力が低下し、治るはずの病気も治らないことを先に指摘したが、小学校、幼稚園、家庭、特に一人暮らしの食卓はそんな病院食となんら変わりがないのではないか。食べる環境について今一度見直してほしいと訴える。

もうひとつ、世界の七不思議の一つともいわれていることに日本の成人女性の痩せ過ぎ問題があり、これについても警鐘を鳴らさなければならない、と服部氏。栄養失調の母親からは栄養失調の子どもが生まれるし、胎児期に栄養失調だった赤ちゃんは将来成人病になりやすいといったエビデンスも多数発表されている。

また数年前まで服部氏はミスユニバースの審査員をしていたが、BMI値で適正値といえる22〜23の女性を選んでも落とされる始末で、痩せ過ぎの18以下の女性でないとミスユニバースになれないという事実に驚愕したという。

先進国38カ国のなかで、日本女性の平均BMI値は最も低く18.7ともいわれるそうだが、これはアフリカのザンビアの女性の平均値と同じで栄養失調を意味しているという。

ミスユニバース日本代表も栄養失調以下でなければ選ばれない、という状況は大問題で、そのことを関係者に訴え続けた結果、2年ほど前からBMI22くらいの女性が選ばれるようになってきたという。いずれにせよ、日本女性は痩せ過ぎや偏食が問題で、そのような女性たちが将来母親になって急に食育ができるかといっても、難しいのではないかと指摘する。

「食べ方」の教育が食育

また不妊に悩む女性が増えているが、この問題の背景にはやはり痩せ過ぎや誤った食環境の問題も潜んでいるのではいか、と指摘。子どもを育てるにも、家族の健康を守るためにも、そして自分自身が健康に生きるためにもやはり食を整えることからはじめるしかない。子どものためではなく、すべての女性は自分のために食育を考え実践してほしいと訴える。

食育を英訳する際に「food education」と訳す人がいるがこれは間違いで「eating education」が正解だという。つまり「食べ物や栄養」よりも「食べ方」の教育が食育であり、この食育は学校でではなく家庭のなかでおこなわれなければならない。

「食育」という言葉を一人歩きさせず、一人ひとりの家庭で、食卓で、今夜の夕食の照明や会話といったところからはじめてほしいとまとめた。

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