感染症と体内時計、朝食(和食)の役割
〜食事健康サミット2020


2021年1月20日(水)、web配信による「食事健康サミット2020〜新しい感染症に負けないための日本型食生活の活用」から、柴田重信氏(早稲田大学先進理工学部教授 早稲田大学先端生命医科学センター長)の講演「感染症と体内時計」を取り上げる。


体内時計、朝食や朝日などの刺激で保たれる

「体内時計」は2017年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことで少しずつ知られてはいるが、まだ新しい研究分野で、今さまざまな研究が行われている。

現時点で体内時計の研究からわかっていることは、体内にはさまざまな場所に「時計遺伝子」が存在しており、それぞれ多様な働きをしながら我々の健康に関わっていることである、と柴田氏。

例えば、皮膚の過敏症や骨関節症、高血圧症、あるいは花粉症などのアレルギー症状も症状が出やすい時間帯というものがある。

これは、アレルギー症状と関係しているT細胞やB細胞といった免疫細胞の中にも時計遺伝子が含まれていることと関係している。

花粉症は「モーニングアタック」といわれるように朝に症状が出やすい。これはIGE抗体からヒスタミンが出やすい時間が朝であり、これも細胞内にある時計遺伝子による。

外から異物が入ってくると自然免疫や獲得免疫が刺激されるが、そこから分泌されるさまざまなサイトカインは体内時計と密接に連動していることもわかっている。

そして体内時計は時計遺伝子だけでなく、朝食や朝日などによる刺激によっても保たれている。特に朝食の役割は大きく、首より下の体内時計は朝食によって毎朝リセットされている部分が大きい、と柴田氏。

朝にアレルゲン物質を摂ると発症しやすい

ではさまざまな食事や食材をいつ食べるのか。食べる時間を意識すると、時計遺伝子にどのような影響があるのか。

例えば、水溶性食物繊維は腸内では有益な腸内細菌の餌となり短鎖脂肪酸の産生を促す。この短鎖脂肪酸はさらにIGAやムチンを産生するため、アレルギーにも効果が期待できる。

そこで、ラットを「朝食時摂取群」「夕食時摂取群」に分類し、それぞれ水溶性食物繊維であるイヌリンを豊富に含む菊芋パウダーを朝食、または夕食に摂取させた。

その結果、朝食に摂取したラット群は夕食に摂取するラット群よりも、短鎖脂肪酸やイヌリン、IGA産出量が増大し、また唾液中のIGA値も朝食摂取群の方が多く検出できた。

また、健康な高齢者男女30人をランダムに「朝食時摂取群」「夕食時摂取群」に分類し、菊芋パウダー5g/日を2週間摂取してもらう調査を行った。

その結果、朝食時に菊芋パウダーを摂取した群の方が便通が良くなり、その日24時間の血糖値がより低値を示した。特に昼から夜にかけての血糖値の低値(セカンドミール効果)などが示された。

腸内細菌そのものは時計遺伝子を持っておらず、またどのような腸内細菌叢を所有しているかは個人差が非常に大きい。

しかし、朝食で水溶性食物繊維を摂取した場合の方が、腸内の代表的な善玉菌はより増加し、悪玉菌はより減少傾向になることも示され、「いつ摂るか」について意識することは重要、と柴田氏。

さらにマウス試験で、アレルギーを発症させたマウスにいつアレルゲンを与えると症状がひどく出やすいかを調査した。その結果、朝にアレルゲンとなる物質(この場合は卵白)を食べさせた方が症状が出やすいこともわかった。

体内時計が乱れると感染症リスクが高まる

また、マウスをインフルエンザに感染させた場合、朝に感染させた方が肺炎や体重減少がより起こりやすく、致死率も高まった。

一方、最もよくないのは「時計遺伝子を持たない」マウスで、この場合は時間にかかわらず、インフルエンザの発症率や致死率が高くなった。

つまり、私たち人間も、体内時計が乱れた状態(不規則な睡眠や食事など)では感染症のリスクが高まる可能性が十分にあり得る。

では、体内時計を整えるにはどうしたら良いのか。一般的には睡眠や食事を大切にすることだと知られているが、ある小中学生7235人を対象に調査を行った。

その調査では「和食の朝食」を摂取しているグループは「洋食の朝食」や「口に入ればなんでもいい」「食べない」グループと比較して、「早寝早起きをしている」「体力に自信がある」「就寝前のスマホの利用を制限している」といった項目の割合が高かった。

また同じ調査で、朝食からどれくらいタンパク質を摂取しているかを調べたところ、和食の朝食グループが一番タンパク質をしっかり摂取できていることもわかったという。

体内時計や整えるには朝食(和食)が望ましい

和食は炭水化物・脂質・タンパク質の割合を適正に保ちやすいという特徴があるのではないか。

体内時計や時計遺伝子を整えるために朝食が不可欠であることは間違いない、それには和食が望ましいのではないか、と柴田氏。

コロナ感染拡大で非常事態宣言が発令された昨年の4〜5月。「あすけん」という食事サポートアプリが行った約3万人の調査でも、「朝食重視派と夕食重視派では夕食重視派の方が太りやすい」「夕食重視派の方が睡眠が遅くなる」などの結果が得られている。

また最低でも10時間程度の絶食時間がある方が健康を維持できるという調査結果もあるという。

最新の体内時計研究から分かる免疫に関する知見とは、「早朝はウイルス感染や抗原侵入に注意が必要な時間である」、「朝食を利用すると(特に和食)健全な体内時計と健全なライフスタイルが維持しやすい」とまとめた。


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