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2022.11.21超高齢社会における口腔機能の改善を目指した食品開発食品開発展2022

鶴見大学歯学部 前教授 ドライマウス研究会代表 斉藤一朗

老化のはじまりは口から起こると考えられている、と斉藤氏。口が老化しているのに体は若い、とか口は若いのに体の老化は進んでいるということは基本的にありえない。口の状態を見れば、全身の健康状態がほぼわかると言っても過言ではないほど相関関係にある、と斎藤氏は話す。

口の役割は決して「食べる」だけでない。消化器としての働きだけでなく感覚器としての役割も備えており、話す、味わう、笑う、歌う、噛み砕く、飲み込む、表情を作る、時に息を吸うなど実に多岐に渡り、体のさまざまな機能の中でも最後まで維持したい機能だと言えるのではないか。口の機能が衰えはじめると全身の機能がドミノ倒しのように衰えていく。さらに人生のあらゆる楽しみまで失われてしまうのだ。口の老化のサインは歯周病や唾液の分泌量の低下だけでなく、まずは口元の状態から確認することができる。上唇の上にシワできはじめる・唇が薄くなる・左右の鼻から口角に向かって法令線が深くなる・口角から顎に向かってできるシワ(マリオネットライン)が深くなる・口角そのものの下垂する・顎がたるむ・そして首の皺が深くなり皮膚もたるむ、と下へ下へと老化が広がっていく。首の皺は特に気になってから手入れをするのでは手遅れで、日頃から食事をするときに姿勢を正し嚥下機能を活性させておくことや、猫背・前傾姿勢をできるだけ減らす意識を持つしかない、と斎藤氏。口元の皺やたるみの原因は紫外線や肌の乾燥による部分もあるが、顔の筋力の低下や噛み合わせの悪習慣が原因になっているケースも多いという。近年はようやく口元の老化が全身に多大な影響を及ぼすことが知られるようになり「オーラルフレイル」という言葉が用いられるようになってきた、と斎藤氏は説明。

「オーラルフレイル」に注目が集まるのは「フレイル」そのものが初期のフレイル状態であれば「健康な状態」に戻すことのできるギリギリのラインを示しているからだ。口元も同じで、全身に老化が起こってから何か対策し、元に戻すのは難しいが、口元のフレイルを深刻化させないようにすることで、全身のフレイルや老化を予防することは可能だ。オーラルフレイル対策としては、歯のメンテナンスも重要であるが、まずは咀嚼を重視して欲しいと話す。昭和初期の日本人の咀嚼時間は平均すると66分(1食あたり22分)だったと推定されるが、現代は30分を切ってしまい特に幼少期において咀嚼時間が少ないことは全身の発育に悪影響であるし、高齢者にとっても咀嚼不足は認知機能の低下などに直結する。認知症リスクは脳の血流が悪いことでリスクが高まるが、咀嚼をすれば簡単に脳の血流は良くなる。また全世代において、記憶学習能力の差も脳の血流の差だとも考えられており、特に子どもにおいては学力と咀嚼力は密接に関係している。さらに感染症のリスクも咀嚼によって分泌される唾液などによって左右される部分がある。元気な赤ちゃんは唾液の分泌が盛んであるし、動物も健康であれば口や鼻先が湿っている。食べこぼしが起こったり、むせたり、噛めない食品が増えたらオーラルフレイルはかなり深刻化しているサイン。日頃から噛みごたえがあって美味しいものを選んで欲しいとアドバイス。口に限らず全身の筋肉は使わない部分から衰えていくことを忘れてはならない、咀嚼機能もその一つだと斎藤氏。

オーラフフレイルの予防のために「口腔ケア」の需要も増していて、日本国内だけでまもなく1000万円市場になることも報道されているという。実際、オーラルフレイルとほぼ同義と考えて良い「口腔機能低下症」は2018年4月から保健収載され、これに伴い歯科医はオーラルフレイルの診断や予防に関する情報発信が以前よりしやすくなったが、それでもオーラルフレイルの対処法は非常に乏しいのが現状だという。特にエビデンスのある対処方法は非常に少なく、まさにこの分野で機能性表示食品が登場することが望まれていると話す。

超高齢化社会において、糖尿病や認知症、ストレスによる精神的な疾患は増え続ける一方であるが、糖尿病でも口腔内はドライマウスになり、ストレスでもドライマウスになるという。特にストレスがかかったときに人は誰でもドライマウスになり唾液の分泌量が著しく減少することはほとんどの人に経験があるはずだ。そのときに口腔内の善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れやすくなる。腸内細菌に注目が集まるが、それは口腔内の細菌叢(口腔内フローラ)からはじまっているもので、口腔内にも悪玉菌と善玉菌、日和見菌の700種類1000億個の細菌が生息しているという。口腔カンジダや口唇炎、口角炎なども口腔内フローラのバランスが崩れることによって起こっていることが最近わかってきている。また口腔内で悪玉菌が増えると連動して腸でも悪玉菌が増え、潰瘍性大腸炎になってしまうことや、誤嚥性肺炎や肝障害の原因になる場合もあると解説。いずれにせよ口腔内の環境を整えることで予防できる疾病はあまりに多い。口腔機能の維持や改善についてエビデンスがある機能性表示食品が難しいのは、唾液の中にあるIGA抗体濃度だけを指標とするには不十分であるということが日本抗加齢学会や消費者庁から意見が上がっていることも関係しているだろう。とはいえ、ある種の乳酸菌やコエンザイムQ10などの素材に口腔内フローラを整える働きがあることは少しずつ確認できている段階で、近い将来必ず口腔内環境の維持や改善を表記できる機能性表示食品は登場するのではないか、と話した。

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