口蹄疫はいかに発生し、波及したのか
〜日本学術会議 口蹄疫の感染経路を検証


2010年8月25日(水)、東京大学で、日本学術会議主催の公開シンポジウム「口蹄疫発生の検証およびその行方と対策」が開催された。今年3月、国内で10年振りに宮崎県で発生した口蹄疫。23万頭の家畜を殺処分する事態に至ったが、原因解明についてはまだ不十分。シンポジウムでは口蹄疫の感染経路や対策など最新研究が報告された。

黄砂によって輸送される病原性物質-アレルゲンと口蹄疫ウィルス- 
筑波大学北アフリカ研究センター 磯田博子・森尾貴弘

磯田氏・森尾氏は黄砂の中の生物分析研究を行なっている。
タクラマカン砂漠やゴビ砂漠といったアジアの中心から発生したダスト=黄砂は、毎年春になると海を超えて日本へやってくるだけでなく北米・南米、さらにはアフリカなどにも飛び、地球全体を循環し影響を与えていることが既に研究されている。

このダストがどのようなものを運んでいるかというと、中国国内では細菌(バクテリアやカビ)だけでなくバイオエアゾールなどが地上10mの地点でも地上0mの地点でも見つかっており、これは6000m離れたアフリカ大陸に運ばれて採取された黄砂ダストのなかにも同じ性質の同じ細菌が見つかっているため(DNAレベルで確認済み)、非常に遠い距離でも黄砂ダストのなかにある様々な微生物や病原菌、粒子などが運ばれてくる事が確認されている。

特に近年、黄砂現象が日本でも頻繁に発生しているが、黄砂現象発生期にアレルギー症状の悪化を訴える患者数が増加傾向にあり、黄砂付着アレルゲン物質の存在が指摘されている。

黄砂由来のアレルゲン物質の検索を研究チームでは行なっているが、大気汚染物質と黄砂との反応生物が多くあることがわかり、黄砂そのものが問題というよりは黄砂に付着している様々なアレルゲン物質が、そのアレルゲン作用をより強く助長していることが考えられるという。

環境省の発表によると、2009年に比べると2010年は特に国内における黄砂量、黄砂の発生回数が多かった。黄砂付着口蹄疫ウィルスの長距離輸送ももちろん指摘されているが、黄砂による口蹄疫ウィルス感染ルートの有無はまだ断言できる段階ではないという。

黄砂試料からウィルスを分離したり、分子遺伝学的手法を使ったりして、研究チームでは黄砂付着口蹄疫ウィルスの検出を実験したところ、沖縄、つくば、福岡で採取した黄砂サンプルのなかに口蹄疫ウィルスが含まれているのは確認されているが、量の観点からすると抽出そのものがまだ不十分で、黄砂が直接的な原因とは断言できない状況にあるという。

黄砂のリスク評価を正確にするために、抽出方法をもっと進化させること、また抽出できたウィルスであってもそのウィルスの持つ感度、特異性の保証を行なうこと、検出されたウィルスの感染性の評価などをしっかりと研究しながら最終的な発表をしたいとまとめた。

黄砂の長距離輸送と宮崎県内での口蹄疫発生の気象的特性
筑波大学北アフリカ研究センター 真木太一

気象庁によると2009年から国内では黄砂が異常に増えており、メディアでもその影響が頻繁に取り上げられている。タクラマカン砂漠やゴビ砂漠からやってくる黄砂は12-13日をかけて地球を一周するメカニズムもよく知られるようになってきた。日本にはわずか2日程度で運ばれてくるという。

黄砂を顕微鏡で分析すると表面が非常に凸凹した特殊な構造をしていることが判っている。

アルカリ性の砂である黄砂が雨や水蒸気などの水分を含み、非常に粘度の高い状態で日本まで到達した時、そしてこのなかにウィルスが入っていた場合、それは十分に生命力を維持したまま病原菌が輸送さる可能性は高いと真木氏は指摘する。

90年代になってから、口蹄疫は世界中で報告されており、特に東アジアで蔓延状況にあるといえる。モンゴル、ロシア、韓国では2000年に発症しているがこれは黄砂由来であることがすでに指摘されている。マスコミでは風の影響と鳥の影響をあまり取り上げていないが、それらの影響はかなり高いのではないかと真木氏はいう。

3月26日の水牛の口蹄疫発生について、九州全域及び宮崎で観測された3月16日の黄砂、そして3月21日の黄砂が原因ではなかったかと推測されるという。

特に3月21日に観測された黄砂は全国67カ所で観測されており、非常に強いものであったことがわかっている。宮崎では今回で2回目の口蹄疫発生となるが、宮崎に発生しやすい理由としてその地形と気象状況から、黄砂が舞い降りる傾向が強くあることが挙げられると真木氏は解説する。

九州7県でも宮崎は黄砂の発生日数が多い県だが、宮崎県が九州山地の風化側に位置し、冬春季の晴天日には北西風が多いという気象特性に由来しているからではないかと分析。また宮崎県内での春季・夏季の時期による口蹄疫伝搬の状況について考察すると、季節風による移動方向が関係していることも考えられる。

これらの状況からさらに推測をすると、まず3月の段階で黄砂による長距離輸送によるウィルスが原因となり口蹄疫が水牛に発症、4月以降の発生・蔓延原因は3月の原因と異なり、土、砂埃や微小物質等に付着したウィルスの風による拡散、伝搬ではないかと真木氏。というのも、都農町、川南町、高鍋町と南方へ伝染していった経路を分析するとそれは春季の北西風による伝染が考えられるからという。

いずれにせよ口蹄疫発生の際、予防・防除指導を畜産農家に事前に行なっていなかったことは被害拡大を助長した。防風林の有効利用や石灰散布、発生後もヘリコプターや飛行機を使って薬剤を散布すれば、比較的少ない殺処分になったのではないかという。実際、韓国では大型薬剤散布機での対応で少ない殺処分で済んでいるという。

会場からは、口蹄疫はそもそもそ病気が発症している動物によって確認をすることができるが、タクラマカン砂漠やゴビ砂漠にはそのような発症中の家畜がたくさんいるのか、それが日本まで飛び火しているのか、という疑問の声もあがった。

真木氏によると、黄砂とはタクラマカン砂漠やゴビ砂漠からくるダストだけではなく、モンゴルや韓国などいろいろなエリアのダストを巻き上げながら日本に広がり通過しているため、どこかで発症していればそれが世界中に広がりかねない循環システムがあるという。

大気中で構成成分や物質を複雑化しながら広がる黄砂の分析は、現状難しく、黄砂が今回の口蹄疫の直接的原因だとはもちろん断言することはできないが、かといって、その可能性がゼロであると断言することもできないと真木氏はまとめた。



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