有機農業、土地も人も健康な命の循環
〜『未来の食卓』上映会&有機野菜の集い


2010年10月8日、リフレッシュ氷川(渋谷区)で、日本有機農業研究会、東京都有機農業研究会が主催する「『未来の食卓』上映会&有機野菜の集い」が開催された。また、「どうなの?日本の有機農業」と題して、日本有機農業研究会理事の久保田裕子氏が講演した。


フランスのドキュメンタリー映画『未来の食卓』上映

国内では2009年の夏に公開されたフランスのドキュメンタリー映画『未来の食卓』。評判が評判を呼び、現在も全国で自主上映会が開催されている。

南フランスの小さな村、バルジャック村の村長が、反対者の多い中で、無謀にも「子供や高齢者の給食を有機農業のものに転換する」と宣言することから物語はスタートする。 値段の高いオーガニックの給食を村の財政でまかなえるのか、と初めは村中の大人たちが戸惑うが、給食や学校の菜園での野菜作りを通して自然の味を覚えた子供たちに巻き込まれて大人たちも少しずつ変化していく。

一見高価なオーガニックの食材であるが、それは結果的に食品の大量消費を遠ざけ、食物に対する感謝の心や、我々の命が循環して与えられていることへの気付きにもつながる。何よりも味のよいオーガニックの食材は、それをしばらく食べ続けることで人々の味覚や食習慣、最終的には生き方までを完全に変えていく力を持っていることがこの作品から伝わる。

フランスではこの作品の公開後、オーガニックブームが起こり、多くの人が自分の食生活を見直し始めているという。現在、続編が制作中である。

どうなの?日本の有機農業
日本有機農業研究会理事 久保田裕子氏

食の安全・安心、政策に二つの方向性

地球環境の危機、資源・エネルギーの危機、食料の危機、食の安心安全の危機、世界同時不況の波……。これらの問題すべてが世界の食卓、そして日本の食卓の危機の原因となっている。

グローバフードシステムからローカルフードシステム(地産地消)へ、生産性至上主義から環境調和型へ、科学的根拠主義から予防原則へ移行することが求められているが、現実的にはグローバルフードシステム、生産至上主義、科学的根拠主義から脱却できずに食の問題は世界規模で拡大する一方である。

国学院大学経済学部教授で、日本有機農業研究会の理事を務める久保田裕子氏は、食の安全・安心のための政策として二つの方向性があると指摘する。

ひとつは、食の安全を阻害する危険要因を規制する政策である。危険要因を特定し、リスクの度合いを評価し、それを人の健康・安全に影響が出ないまでに最小限に抑えていく方法で、現在の食品安全基本法と食品安全委員会の仕事に当たる。

食品添加物、次世代への影響が懸念

例えばよく知られているように、指定された食品添加物は安全性試験や有効性評価の結果に基づいて、必要に応じて使用基準が定められている。

人が一生涯にわたって毎日摂取しても全く影響がない量を一日摂取許容量(ADI)として定め、このADIに安全係数をかけて最大使用量などが定められているため、国内で販売されている食品に使用基準の上限量が添付されていた食品があったとしても、ADIを下回る量しか摂取できないようになっている。

従ってその食品を食べ続けたとしても安全性に問題がないということになるが、これらの安全性試験は所詮動物実験であり、人間の心へ及ぼす影響や次世代に与える影響などまでは評価できないのではないか、と久保田氏はいう。

「注意欠陥・多動性障害」の子供は激増しているし、子供の暴力事件も2009年度の調査では3年連続増加で過去最多、自殺者については11年連続で3万人を超えている。いまや幼児の14%が食物アレルギーを罹患しており、これらが我々の食生活と無関係だと断言できる証拠もない。

生産段階から、危険要因がない方式で行う

もう一つの政策は、そもそも生産段階から、できるだけ危険要因が出ないような生産方法をとっていくものであり、例えば、BSE問題では肉骨粉などを食べさせず、放牧など自然の摂理に沿った牛の飼育をする、農作物であれば合成農薬や化学肥料を使う必要のない有機農業で栽培する、そのような生産方法が可能になるような条件整備をするための政策であるという。

2006年には「有機農業の推進に関する法律」が施行されており、この法律では「有機農業の推進」を国家及び地方公共団体の責務としている。同法の「基本理念」では、有機農業は「農業の自然循環機能を大きく増進し、農業生産に由来する環境への負荷を低減するもの」であり、生物多様性の保全に資するものであること、また「安全かつ良質な農産物に対する消費者の需要に対応した農作物の供給に資するもの」であると記されている。

2007年、「有機農業推進基本方針」制定

これまで民間で地道に進めてきた有機農業がようやく公認されたといえる、と久保田氏。そして、この法律ではこのような有機農業に農業者が容易に取り組め、また、消費者が有機農業により生産される農産物が容易に入手できるよう、生産・流通・消費それぞれの側面において、有機農業推進のための総合的な施作を講じるとしている。

2007年に、国は「有機農業推進基本方針」を定め、それに基づき現在は都道府県、市町村の段階で「推進計画」の策定やその実施が進められている。

推進すべき有機農業とはどのようなものか。有機農業について表現の仕方はさまざまだが、共通することは「生きた土」であるかどうかだと久保田氏。良質で完熟した堆肥を入れることでできる微生物・土中小動物(ミミズなど)が豊かに生息している健康な土であることが、健康な植物を育て健康な家畜を育てる。

有機農業は健康な生命が循環する農業

このような土から育まれた健康な農産物や畜産物を食べることによって、人々ははじめて健康ないのちを獲得できる。有機農業は健康の輪が幾重にも描かれるような生命の循環する農業であり、それは地域の自然に根ざし、生きとし生けるすべてのものと共存する農業だと久保田氏。

日本では有機農業という言葉を用いて取り組みが始まったのは1971年であり、すでに30年以上経過した現在、多くの実績や成果もあがっているという。この30年の歴史を辿ると、日本の有機農業は生産者と消費者が相互に協力し、共に有機農業の発展をめざしている、という特徴があると指摘する。

自然の循環に沿い、環境汚染を引き起こさない

具体的には産直や共同購入方式のことであるが、消費者が積極的に有機農業運動に加わり有機農業の発展を担ってきている。海外から安価な農産物が大量に輸入されているなかで、生産者に「適正な価格」を払い続けるためにも、消費者側にはさらなる農業と食への知識が必要になってくるという。

有機農業は食の安全の問題だけでなく、身近に食べ物を育む農業があることの安心感、その農業が地域の自然循環に沿ったもので環境汚染を引き起こさないことへ貢献していること、さらには生産者と消費者のつながりをつくりだす暮らしにつながることにまで、我々は考えを拡大するべきであり、毎日の食事、身近な食卓から農業や地域を見渡す視線が我々消費者にはよりいっそう求められている、と久保田氏はまとめた。


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