栄養学に関心のある医師が非常に少ない
医療現場の立場、つまり医師の立場から意見を述べると、残念ながら栄養学に関心のある医師は非常に少なく、機能性食品についてもほとんど興味はない、あるいは知らないという現状があることを頭にいれておいてほしいと近藤氏は最初に述べた。しかし、医師だからといって食品や機能性食品に興味がなくてもいいのだ、と片付けられる問題でもなくなっているのが現状という。
食品業界の人々が食薬区分を越えて医薬品ゾーンやグレーゾーンにはいってくることは非常に危険である。トクホ商品は非常にあいまいでグレーなところがあるといえるが、医者の捉えるトクホ商品と食品メーカーの理解するトクホ商品にも大きな隔たりがあると近藤氏は指摘する。
例えばコレステロール。医療の立場からはコレステロールを低下させる医薬を用いる。ソイステロールやフィブラート、プロブコール、スタチン、エゼチミブなどが有名で、これらは平均して15%〜25%までコレステロールを低下させる効果を持つ。
食の世界でのコレステロール低下作用はリノール酸、オレイン酸、食物繊維や大豆蛋白などが挙げられる。これらの成分のコレステロール低下のエビデンスはあるが、しかしこれらの成分を摂取するために食べることになる大豆油にしてもオリーブオイルにしても、食品である以上混合物であり単一成分を摂取することができない。そこが難しい部分であると指摘する。
抗酸化物質が非常に重要な効果
フレンチパラドックスという有名な話がある。こってりした食事を好むフランス人には心筋梗塞の罹患率が低いといわれている。1980年代頃から、その理由としてフランス人が好んで摂取する赤ワインに抗酸化物質(ポリフェノール)がありコレステロールの酸化を防ぐことが一因であるといわれるようになった。
ポリフェノールには多くの種類が存在していて緑茶にも含まれている。ジャパニーズパラドクスも存在し、諸外国にくらべて喫煙者が多いのに、日本人には虚血性疾患の患者が少ない。これは緑茶に含まれるポリフェノールのなかでもカテキンの作用といわれる。
こうした事例からもわかるように食品の中でも昔からよく摂取されている抗酸化物質は非常に重要な効果を持つことは明らかであり、医師もいま一度見直す必要があると近藤氏はいう。最近は鮭に含まれるアスタキサンチンによる抗酸化にも非常に注目が集まっている。
降圧剤では医薬ではARGが用いられるのが主流だが、食ではLTP(ラクトトリペプチド)やαリノレン酸により高圧効果を得ることができる。しかしこれも医薬のレベルではなく、商品の宣伝には疑問があるという。塩分を控えめにしたバランスのよい食事をすれば、肥満を抑え、血圧も低下することが多い。食は非常に重要であることに間違いはなく、非常に効果の高い機能成分もあるが、食が複合体である以上、それだけで効果を証明するというのは非常に危険であるとまとめた。
健康食品 -夢と科学の境界を越えられるか?-
日本学術会議 副会長 唐木英明
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科学・技術の発達とともに実証に基づく現代医学が広がる
心理学者マズローは人間の欲求を階層に分類している。1:生理的欲求(生きるために必要な食物、排泄、睡眠などへの欲求) 2:安全欲求(安定性欲求。安全に安心して生活したいという欲求)3:愛情欲求(所属欲求、社会的欲求。他人に認められ、尊敬されたいという欲求) 4:尊敬欲求(承認欲求。他人に認められ、尊敬されたいという欲求) 5:自己実現欲求(自己実現、自己成長したいという欲求)。
現代社会に生きる人間は、第一段階の衣食住の欲求はほぼ満たされ、第二段階についてもほぼ満たされているように見える。歴史的に見ると医療は魔術や呪術、生薬に始まり、伝統医療として伝えられてきたが、科学・技術の発達とともに実証に基づく現代医学が広がり、薬物や手術により多くの病気が治癒可能になり平均寿命も大幅に伸びた。
医療現場で心のケアが不十分
しかし未だに治療が不可能な病気も多くあり、医療がいかに発達しようとも何らかの原因で死を迎える事実は変わらない。病気や死の不安におびえる人の心のケアに対して現代医学があまり注意をはらっていないこともあり、第三段階の愛情欲求が満たされない人が多いという深刻な問題が日本社会の現状であるといえる。
健康、長寿、安全社会にもかかわらず、健康、生活、人間関係に不安がある現代の日本社会。この原因のひとつに、医師が時間をかけて患者の悩みを聞き、相談できる時間をとれない医療システムにもあるのではないかと唐木氏は指摘する。「3時間待ち3分診断」と揶揄されるように、医療現場において心のケアは十分なケアが行なわれていない。
人々の間で医療不信が広まっている
また科学技術に対する失望も多い。科学技術は人類の夢の多数を叶えてくれはしたが、それは不十分であることを我々は知ってしまった。かつて(今も)医師は患者に薬を処方し、患者は薬を多数処方するほうが良い先生だと勘違いし、薬で不安を解消する時代もあった。両者が「薬依存」の状態であったといえる。
しかし医療過誤や事故の報道、薬の誤薬問題なども多数報道されるようになり、人々のあいだでは医療不信が広まっている。医師がいなくても薬があればいい、副作用の恐れがある薬を飲むくらいなら、サプリメントでいい、何よりサプリメントの販売員は話を聞いてくれる、という理由から、患者や消費者が医師から健康食品へ目を向ける流れが自然に強調されていると指摘する。
深まる「感情による判断」と「科学による判断」の文化の対立
多くの人は科学的根拠ではなく、感情で動き「効く」と信じられれば科学を無視する。健康食品をめぐる「感情による判断」と「科学による判断」の文化の対立は深まる一方だ。そして科学分野へ失望してしまった現代人が、健康食品や代替医療といった未科学の分野への関心を寄せる傾向は、今後ますます高まるのは仕方がない側面があるのではないかとまとめた。
医療と健康食品における行動変容のチャレンジ健康食品 -新成長戦略としての食に関する将来ビジョンを踏まえて-
慶応義塾大学 医学部 東京電力先端医療科学・環境予防医学附講座教授 日本健康科学学会会長 信川益明
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高齢者の栄養ケア・マネジメント、医師や管理栄養士等の連携が必要不可欠
栄養ケア・マネジメントの実践においては、医師、管理栄養士等の連携が必要不可欠であると信川氏はいう。この連携した取り組みを行なうことで、特に高齢者に対する食や栄養のマネジメントが可能になるからだ。
認知症等の要介護状態にある高齢者及びに嚥下困難者に見られる低栄養状態を抱える高齢者にとっては、医療アドバイスに加えて栄養アドバイス、心のケアといったさまざまなケアが必要であり、医師以外の専門家の協力を得ることで初めて高齢者の抱える諸問題を改善できるからである。
臨床栄養師研修と資格者育成が重要
そのためにも栄養ケア・マネジメントの質の向上に務める臨床栄養師研修と資格者育成が重要であるという。この協力体制の重要性と効果を実証するために、日本を代表する近代的な大都市である新宿区で実証事業が行なわれた。新宿区には独居老人が多く、高齢者60歳以上の60%、70歳以上の72%が高血圧症であるという特徴もある。
まずは神楽坂にふれあいセンターを開設。だれでも利用できるオープンなセンターで、人とのふれあいやイベント、健康長寿トレーニングなどがすべて無料で受けられるといったサービスを行なった。セミナーは22回行われたが、落語や街歩きとったエンターテイメント的なものだけでなく、パソコンセミナーなどの知的欲求を満たす内容の講座も非常に人気が高かったという。
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