医療サイドからみた健康食品、現状での
有効な使い方 〜第21回健康食品フォーラム

2010年10月25日(月)、東京都全社協・瀬尾ホールで、「第21回健康食品フォーラム〜医療からみた健康食品の位置付け」が開催された。「生活習慣病予防と健康食品の役割」「健康食品 --夢と科学の境界を越えられるか?--」など、医療サイドから各演者により健康食品の果たす役割について講演が行われた。会場には業界関係者が多数来場し、活発な意見が交わされた。

医療からみた健康食品の位置付け
お茶の水女子大学大学院 生活環境教育研究センター教授 近藤和雄

栄養学に関心のある医師が非常に少ない

医療現場の立場、つまり医師の立場から意見を述べると、残念ながら栄養学に関心のある医師は非常に少なく、機能性食品についてもほとんど興味はない、あるいは知らないという現状があることを頭にいれておいてほしいと近藤氏は最初に述べた。しかし、医師だからといって食品や機能性食品に興味がなくてもいいのだ、と片付けられる問題でもなくなっているのが現状という。

食品業界の人々が食薬区分を越えて医薬品ゾーンやグレーゾーンにはいってくることは非常に危険である。トクホ商品は非常にあいまいでグレーなところがあるといえるが、医者の捉えるトクホ商品と食品メーカーの理解するトクホ商品にも大きな隔たりがあると近藤氏は指摘する。

例えばコレステロール。医療の立場からはコレステロールを低下させる医薬を用いる。ソイステロールやフィブラート、プロブコール、スタチン、エゼチミブなどが有名で、これらは平均して15%〜25%までコレステロールを低下させる効果を持つ。

食の世界でのコレステロール低下作用はリノール酸、オレイン酸、食物繊維や大豆蛋白などが挙げられる。これらの成分のコレステロール低下のエビデンスはあるが、しかしこれらの成分を摂取するために食べることになる大豆油にしてもオリーブオイルにしても、食品である以上混合物であり単一成分を摂取することができない。そこが難しい部分であると指摘する。

抗酸化物質が非常に重要な効果

フレンチパラドックスという有名な話がある。こってりした食事を好むフランス人には心筋梗塞の罹患率が低いといわれている。1980年代頃から、その理由としてフランス人が好んで摂取する赤ワインに抗酸化物質(ポリフェノール)がありコレステロールの酸化を防ぐことが一因であるといわれるようになった。

ポリフェノールには多くの種類が存在していて緑茶にも含まれている。ジャパニーズパラドクスも存在し、諸外国にくらべて喫煙者が多いのに、日本人には虚血性疾患の患者が少ない。これは緑茶に含まれるポリフェノールのなかでもカテキンの作用といわれる。

こうした事例からもわかるように食品の中でも昔からよく摂取されている抗酸化物質は非常に重要な効果を持つことは明らかであり、医師もいま一度見直す必要があると近藤氏はいう。最近は鮭に含まれるアスタキサンチンによる抗酸化にも非常に注目が集まっている。

降圧剤では医薬ではARGが用いられるのが主流だが、食ではLTP(ラクトトリペプチド)やαリノレン酸により高圧効果を得ることができる。しかしこれも医薬のレベルではなく、商品の宣伝には疑問があるという。塩分を控えめにしたバランスのよい食事をすれば、肥満を抑え、血圧も低下することが多い。食は非常に重要であることに間違いはなく、非常に効果の高い機能成分もあるが、食が複合体である以上、それだけで効果を証明するというのは非常に危険であるとまとめた。

健康食品 -夢と科学の境界を越えられるか?-
日本学術会議 副会長 唐木英明

科学・技術の発達とともに実証に基づく現代医学が広がる

心理学者マズローは人間の欲求を階層に分類している。1:生理的欲求(生きるために必要な食物、排泄、睡眠などへの欲求) 2:安全欲求(安定性欲求。安全に安心して生活したいという欲求)3:愛情欲求(所属欲求、社会的欲求。他人に認められ、尊敬されたいという欲求) 4:尊敬欲求(承認欲求。他人に認められ、尊敬されたいという欲求) 5:自己実現欲求(自己実現、自己成長したいという欲求)。

現代社会に生きる人間は、第一段階の衣食住の欲求はほぼ満たされ、第二段階についてもほぼ満たされているように見える。歴史的に見ると医療は魔術や呪術、生薬に始まり、伝統医療として伝えられてきたが、科学・技術の発達とともに実証に基づく現代医学が広がり、薬物や手術により多くの病気が治癒可能になり平均寿命も大幅に伸びた。

医療現場で心のケアが不十分

しかし未だに治療が不可能な病気も多くあり、医療がいかに発達しようとも何らかの原因で死を迎える事実は変わらない。病気や死の不安におびえる人の心のケアに対して現代医学があまり注意をはらっていないこともあり、第三段階の愛情欲求が満たされない人が多いという深刻な問題が日本社会の現状であるといえる。

健康、長寿、安全社会にもかかわらず、健康、生活、人間関係に不安がある現代の日本社会。この原因のひとつに、医師が時間をかけて患者の悩みを聞き、相談できる時間をとれない医療システムにもあるのではないかと唐木氏は指摘する。「3時間待ち3分診断」と揶揄されるように、医療現場において心のケアは十分なケアが行なわれていない。

人々の間で医療不信が広まっている

また科学技術に対する失望も多い。科学技術は人類の夢の多数を叶えてくれはしたが、それは不十分であることを我々は知ってしまった。かつて(今も)医師は患者に薬を処方し、患者は薬を多数処方するほうが良い先生だと勘違いし、薬で不安を解消する時代もあった。両者が「薬依存」の状態であったといえる。

しかし医療過誤や事故の報道、薬の誤薬問題なども多数報道されるようになり、人々のあいだでは医療不信が広まっている。医師がいなくても薬があればいい、副作用の恐れがある薬を飲むくらいなら、サプリメントでいい、何よりサプリメントの販売員は話を聞いてくれる、という理由から、患者や消費者が医師から健康食品へ目を向ける流れが自然に強調されていると指摘する。

深まる「感情による判断」と「科学による判断」の文化の対立

多くの人は科学的根拠ではなく、感情で動き「効く」と信じられれば科学を無視する。健康食品をめぐる「感情による判断」と「科学による判断」の文化の対立は深まる一方だ。そして科学分野へ失望してしまった現代人が、健康食品や代替医療といった未科学の分野への関心を寄せる傾向は、今後ますます高まるのは仕方がない側面があるのではないかとまとめた。

医療と健康食品における行動変容のチャレンジ健康食品 -新成長戦略としての食に関する将来ビジョンを踏まえて-
慶応義塾大学 医学部 東京電力先端医療科学・環境予防医学附講座教授 日本健康科学学会会長 信川益明

高齢者の栄養ケア・マネジメント、医師や管理栄養士等の連携が必要不可欠

栄養ケア・マネジメントの実践においては、医師、管理栄養士等の連携が必要不可欠であると信川氏はいう。この連携した取り組みを行なうことで、特に高齢者に対する食や栄養のマネジメントが可能になるからだ。

認知症等の要介護状態にある高齢者及びに嚥下困難者に見られる低栄養状態を抱える高齢者にとっては、医療アドバイスに加えて栄養アドバイス、心のケアといったさまざまなケアが必要であり、医師以外の専門家の協力を得ることで初めて高齢者の抱える諸問題を改善できるからである。

臨床栄養師研修と資格者育成が重要

そのためにも栄養ケア・マネジメントの質の向上に務める臨床栄養師研修と資格者育成が重要であるという。この協力体制の重要性と効果を実証するために、日本を代表する近代的な大都市である新宿区で実証事業が行なわれた。新宿区には独居老人が多く、高齢者60歳以上の60%、70歳以上の72%が高血圧症であるという特徴もある。

まずは神楽坂にふれあいセンターを開設。だれでも利用できるオープンなセンターで、人とのふれあいやイベント、健康長寿トレーニングなどがすべて無料で受けられるといったサービスを行なった。セミナーは22回行われたが、落語や街歩きとったエンターテイメント的なものだけでなく、パソコンセミナーなどの知的欲求を満たす内容の講座も非常に人気が高かったという。

また提供する食品にも配慮し、医療関係者、料理関係者、関連企業が協力することにより、医学、健康面を含めた消費者のニーズに答えるような食事やお弁当を提供することを実践したという。健康を支える科学と調理技術の統合を実現させ、レシピの開発にも力を注いだ。お弁当には食品機能解説カードを添えて、利用者が食に対する興味を高めることに非常に役立ったという。

エビデンスを蓄積する環境をつくることが大切

これらの実証実験は非常に好評であり、多くのメディアにも取り上げられるに至ったが、今後どのように継続して、実際の社会に展開していくかは一つの課題となっている。いずれにせよ各専門家や団体の協力が必要不可欠であることは明確である。

医療・健康食品に関してはリスクゼロの場合でしか対応できないと考えるのではなく、医薬品の効用や食経験を意味あるエビデンスと捉えて、各自が情報を得た上で健康や症状改善の為のメニューを選択できるような環境づくりが大切であると信川氏はいう。

試してみて結果をみて判断する行動様式が、国民性として欠けている面があるが、想定どおりではない時に、国民やマスコミが行政の責任を問うのではなく、エビデンスを蓄積する環境をつくることも大切であり、消費者、企業、マスコミなどの関係者がそれぞれを理解する努力も必要だとまとめた。

生活習慣病予防と健康食品の役割
日本生活習慣病予防協会 理事長 谷田体重科学研究所 所長 池田義雄

食事療法と運動療法で5%以上の減量を

メタボリックシンドロームを2型糖尿病に、さらには新血管病へと進展させないための最も有力な手段は、食事療法と運動療法による5%以上の減量であることは明らかである。

健康で自立した生活を維持することで、快適な生涯を過ごしていくためにも、体重、体脂肪、内臓脂肪等の「体組成計」によるセルフチェックとケアも欠かせない。20代前半の体重と比較して1割以上の体重増加は危険が予知される肥満レベルだと捉えていいだろうと池田氏はいう。

メタボリックシンドローム予防のための生活習慣、「一無、二少、三多」

メタボリックシンドローム予防のための生活習慣は、「一無、二少、三多」である。一無は禁煙を、二少は少食(腹七〜八分目)、少酒、そして三多は多動(積極的に運動する)、多休(十分な休養と睡眠)、多接(多くの人、物、事に接しよい趣味を育み創造的な生活をする)ことである。これらは肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常賞のいずれにおいても予防のための基本の養生法となる。

これらを進めていく中で、食欲調整、栄養素の吸収や合成の抑制、あるいはエネルギー消費の促進などにかかわる補助的手段としてサプリメントに関心が集まっている。しかし多種多様な効果の期待できるサプリメントに過大な期待をかけ、自己判断に基づいた使用が、結果的に有害事象を招いているかもしれない点にある。

一口20回の咀嚼、3白(白米、食塩、砂糖)を摂り過ぎない、食物繊維をたっぷり摂る

飽食の時代において、肥満にならないためには、若いときから「入るを制して出ずるをはかる」対策が肝要であり、これは近年有効仮説として取り上げられる事の多いアンチエイジングの方法、カロリスにも共通する。

少食の目安は腹七分〜八分で、穀類、一汁、三菜、果物、乳製品で構成するのが良いという。加えて一口20回の咀嚼、3白(白米、食塩、砂糖)を取り過ぎないことや、食物繊維をたっぷり摂ることなどを日々心がけ、これを継続的に実践することが、ドクターサプリを考える前になされるべきアドバイスであることを肝に銘じて欲しいとまとめた。

医療からみた健康食品の位置づけ
(医)丹羽クリニック 丹羽正幸

健康食品、医薬品や漢方との併用で治癒効果増が期待

丹羽氏自身は漢方歴42年、健康食品(ビタミン、ミネラル)の使用も21年に及ぶという。健康食品は病気の治療に果たす役割として考えた場合、健康食品だけでは治癒は不可だと丹羽氏は考えるが、症状を緩和し、医薬品と併用することで治癒が可能になる場合もあり、また漢方薬と併用することで、免疫力・抗酸化力、代謝改善、栄養改善などがおこり体質を改善する効果が期待できるという。

また健康食品を種類分け、分類分けすることも重要であるという。まずは医薬品に近いもの(ビタミン、ミネラル、メラトニン、ルティン、コエンザイムQ10、クルクミンなど)、そして漢方薬に近いもの(メシマコブ、クロレラ,高麗人参、ウコンなど)、次に代謝に関与するもの(醗酵食品、乳酸菌、納豆など)、と分類することができ、これらの性質を見極めて使用することで、とくに医薬品に近いものは臨床に使いやすいのではないかという。

良質な健康食品とは、身体に生理作用があり、服用することで主成分の血中濃度が上昇し、服用の増加に応じて効果があり、病気を改善させる可能性があり、病気を予防する効果も期待でき、結局は医薬品と同等、またはそれ以上の効果があるもの、と丹羽氏はいう。

丹羽氏の経営するクリニックでは適正な指導と患者のもとに、糖尿病の緩和を漢方薬やその他のサプリメントで改善している症例を持つ。難治性疾患、有病者、健康維持、抗加齢と健康食品を摂取する理由はそれぞれ異なるが、健康食品の利用方法もそれぞれ異なることを認識して欲しいとまとめた。

パネルディスカッション

現状、協力体制を目指す地域は少ない

丹羽氏が解説したように、医師であっても健康食品や漢方薬を非常に積極的に学び利用している医師も少なからずいる。丹羽氏が所属する新宿区医師会はそうした試みがしやすい場があり、新宿区医師会は比較的オープンだということも紹介した。

日本医師会や東京都医師会とは考え方が違う部分もあり、先に信川氏が解説したふれあいセンターの解説にも新宿区医師会からのバックアップも非常に大きかったと述べた。いずれにせよ、新宿区のような協力体制を目指す地域は現状少なく、薬学、医薬、そして健康食品業界が手を結び、協力していく方法はまだ見えてこない。

広い視野で食品や植物の機能性を評価する姿勢も大切

医薬品を取扱う専門家からは以下のような意見がでた。前立腺ガンには西洋では医薬品として「ノコギリヤシ」が第一に処方提供される。しかし、アメリカと日本では「ノコギリヤシ」がサプリメントとして扱われているという現実がある。エビデンス、科学的証明、ヒト試験、日本人での臨床という話しが後を絶たないが、広い視野で食品や植物の機能性を評価する姿勢も大切ではないか。

管理栄養師たちを管轄している人物からは、管理栄養師の非活用について指摘があった。管理栄養師は毎年2万人以上の受験者がいて、合格者は8000人程度、これは医師の合格者数とほぼ同じで非常に難解な試験であるといえる。

管理栄養師をもっと活用すべき

しかしながら、医師はほぼ100%近く医療現場に就職できるのに対して、管理栄養師のほとんどは病院や医療現場に就職することができず、まったく関係のない仕事に従事している人も少なくないという。医師が栄養のことを勉強する時間がないのであれば、やはり管理栄養師を活用すべきだと意見が出た。

新宿区のように医師会とそれ以外の関係団体が協力をしてエビデンスを蓄積していく方法は他の自治体や行政も見習うべきではないだろうか。


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