乳幼児のアレルギーや感染症、腸内フローラが関与 〜第19回腸内フローラシンポジウム
2010年10月29日(金)、ヤクルトホール(東京都港区)で、「第19回腸内フローラシンポジウム 腸内フローラとこどもの健康」が開催された。出生直後から形成される腸内フローラがその後の免疫機能の構築やアレルギー、感染防御機構に関わることが近年明らかになっている。また、腸内フローラがメタボリックシンドロームや精神発達にも関与することが報告されている。腸内フローラの重要性を改めて考察するシンポジウムとなった。

Bifidobacterium breveと栄養:未熟児と小児癌患者の管理上の重要な要素
順天堂大学大学院プロバイオテクス研究講座 山城雄一郎

赤ちゃんは授乳などで善玉菌を得る

子宮内は無菌状態で、胎児の腸管も無菌だが、分娩がはじまると、口腔鼻咽頭を通して、外界にあるさまざまな菌を腸管へ侵入させていく。

正常分娩であれば産道を通過する際にも母体との接触を通して母体由来のビフィドバクテリウムなど、いわゆる善玉菌を得ることになる。もちろん、分娩後も抱っこや授乳などの接触で善玉菌を赤ちゃんは獲得していく。

母乳にもビフィズス菌があると考えられているのは、それが母体から分泌されているからではなく、乳頭に存在しているからだということがわかっていると山城氏。主に外界と母体との接触を通して様々なビフィドバクテリウムを獲得した赤ちゃんの腸内は、フローラとして腸管に定着していく。生後24時間以内に定着は始まり、一ヶ月で大部分が定着、三ヶ月で安定していくという。

未熟児の多くは悪玉菌が腸管に侵入・定着しやすい

しかしながら未熟児の多くは帝王切開での出産となるため、手術室やその後収容される保育器、そして医療スタッフから菌を獲得するため、環境の雑菌や悪玉菌までもが腸管に侵入してそれがそのまま定着しやすいという一面があるという。

未熟児のなかでも1500g以下の未熟児の腸管は、そもそも免疫を含む防御機能が未熟であり、出産時の様々なストレスや腸管の雑菌などの侵入に過剰に反応し、未熟児特有の疾患である懐死性腸炎や脳室内出血などの発症を招くリスクがとても高いという事実がある。

山城氏たちの研究班は、500g未満の未熟児に対して、生後数時間以内からチューブを介してビフィドバクテリウムと良質な栄養を連日投与したところ、懐死性腸炎や脳室内出血の発症を抑制する結果を得ることに成功したという。

ビフィドバクテリウムと良質な栄養は未熟児を感染症の主たる病因のバクテリア転移から防ぐと考えられると報告した。

ビフィドバクテリウム投与で良好な結果

癌治療のなかでも化学療法は、小児、成人にかかわらず激しい副作用で患者を苦しめるが、その副作用のなかに口内炎などを含む粘膜炎が挙げられる。抗癌剤は皮膚や粘膜のバリヤ機能を低下させるため、腸内の細菌群に悪影響を及ぼすからである。

これは癌治療の妨げになるだけでなく、粘膜炎由来の高熱などで致命傷になることも多く、山城氏は医師として、このような苦しみの多い治療をなんとかする方法を模索。粘膜炎などの経口摂取障害の軽減を目的に小児癌患者にビフィドバクテリウムを投与したところ、良好な結果を得ることができたという。

今後は大人にも癌治療時の免疫低下時にビフィドバクテリウムと良質な栄養を投与する試みを行ない、ビフィオバクテリウムと栄養の重要性についてあらたな発表を行ないたいとまとめた。

幼児期の腸内細菌叢と健康
Yvan Vandenplas Universitair Kinderziekenhuis Brussel

母乳と人工乳における成分の差はオリゴ糖

人工乳(調整乳)はとても進化しているが、完全母乳のレベルには及ばない。

その証拠に人工乳で成長する人工栄養児は、母乳栄養児よりも感染や牛乳アレルギーなどを高頻度に起こしやすいことがすでに報告されている。

人工栄養児における出生後一年間の医療費も母乳時に比べて著しく高額であり、見過ごせない問題であるとイヴァン氏は指摘。

母乳と人工乳における成分の差は特にオリゴ糖にあり、これは母乳において3番目に重要な成分であるそうだが、人工乳にも牛乳にも豆乳にも存在しないものであることがわかっている。

オリゴ糖、善玉菌の餌になる

オリゴ糖はプレバイオティクスであり、プレバイオティクスとは、大腸に共生する細菌の増殖や活性を通じて、肉体の健康を向上させる難消化性の食品のこと、善玉菌の餌にもなっている。

母乳にはプロバイオティクスも含まれているが、プロバイオティクスとは、行きた状態で腸に到達する微生物で、これも肉体の健康増進に不可欠であることがわかっている。

子供は、まだ未熟だというだけでその免疫系はわずか一年で10億を越える病原菌に絶えず曝露されているという。特に免疫系の弱い子供(未熟児なども含む)は、気道感染、中耳炎、胃腸炎など感染に対してさまざまな症状を引き起こすことになる。

腸管も非常に重要な免疫器官であるが、この免疫器官の力を高めるためにも、赤ちゃんを母乳で育て生後直後から腸内環境を整えることが非常に重要だとイヴァン氏はいう。

プロバイオティクス添付の人工乳、複数研究で
健康増進効果が報告

母乳に含まれるプレバイオティクスには、オリゴ糖の他にビフィズス菌も多く含まれる。これらのプレバイオティクスを混合したものを添加した人工乳を乳児に与えたところ、母乳と同等までのレベルではないが良好な結果が報告。

またアトピー性疾患のリスクを持つ乳児にプレバイオティクスを投与したところ、皮膚炎の発症頻度が減少することも報告もされている。

特に生後6ヶ月までに行なわれたこれらの介入が、2歳の時点での健康状態に対し有益的に作用することが示されている。

プロバイオティクスが添付された人工乳においても、複数の研究により健康増進効果が報告されていて、プレバイオティクスとプロバイオティクスの併用による乳児の健康増進効果もいくつか報告されている。

しかしこれらの実験件数や報告データがまだまだ少ないため、今後データの蓄積を行なうことが重要であるとイヴァン氏。

母乳、赤ちゃんや乳児のゴールデンスタンダード

いずれにせよ、母乳には完璧な状態とバランスのプレバイオティクス、プロバイオティクスが含まれており、この母乳の栄養が赤ちゃんや乳児にとってのゴールデンスタンダードと位置づけられる。

人工乳をゴールデンスタンダードに近づけることはもちろん可能であろうが、日常的に多様な食事を摂取した母親から与えられる母乳を上回る完全栄養はなさそうであるとまとめた。


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