働き世代に広がるアルコール依存症
身体への影響、依存からの脱却法
〜第8回 人生80年代の健康づくり

2010年10月28日(木)、女性と仕事の未来館(東京都)で、財団法人東京顕微鏡院/医療法人社団こころとからだの元気プラザが主催する、シリーズ 働き盛りから始める、人生80年代の健康づくり「第8回 静かに広がる、働き世代のアルコール問題!〜依存症にならないために」が開催された。会場では働き盛りの男女が熱心に講演を聴講していた。

アルコールの及ぼす身体への影響
慶応義塾大学看護医療学部 加藤眞三

飲み過ぎなければ酒は百薬の長

酒は百薬の長であるが、過ぎては害であるということは1980年代から科学的に証明されている。過度な飲酒が原因と考えられる病はたくさんあり、飲み過ぎて食事をあまりとらないと寿命は短くなることは既に明らかとなっている。

しかし適量、つまり一日一合程度であれば、死亡率は飲酒をしない人よりも低いというデータもあり、やはり飲み過ぎなければ酒は百薬の長になるのだと、加藤氏は解説する。適量とは人により異なるが、おおよそビールで1、2杯、日本酒で1、2合、ウイスキーでシングル3杯程度という。

アルコールの問題点は特にビールなどが高カロリーであるにもかかわらず、ビタミンやミネラルなどがほとんど含まれず、いわゆるエンプティカロリーである点と加藤氏は指摘する。

肝脂肪、2000年には25%を越える

メタボリックシンドロームとアルコールの関係は、近年の研究課題だが、適度な飲酒は2型の糖尿病の発症リスクを低下させる、メタボリックシンドロームそのもののリスクを低下させる、といったデータも出てきている。しかし一方で、逆の報告もあり、まだはっきりしとした関連は判っていないという。

かつては、調査対象が入院患者や浮浪者に及んだ事から、アルコール依存症の患者は低栄養の傾向が強いと考えられていたが、近年はアルコール依存症患者でも収入が十分ある場合は、一日の摂取カロリーを十分に満たしている傾向が強いというデータを併せて発表した。

特に日本国内では肝脂肪と判断される人が増加傾向にあり、全国の人間ドックでも肝機能障害は異常頻度の第一位で、1984年にはドックを受ける全体の10%以下だった肝脂肪が、2000年には25%を越えたという。

適度な飲酒は心血管系疾患による死亡を減少

また、心血管系疾患とアルコールの関係で、適度な飲酒は心血管系疾患による死亡を減少させ、冠動脈疾患の患者も減少させることが判っている。これはアルコールによる血管拡張作用やリラックス作用との関連と考えられているという。

しかし無茶飲みをした場合は、高血圧がもたらされ、動脈疾患の患者の死亡を増加させることが判っている。適度な飲酒であれば、脳卒中の死亡リスクも低減させるが、大量飲酒(エタノール60g/一日)では、脳卒中の死亡リスクは増大することもわかっている。つまり、飲む量によって健康への影響が左右されることを今一度肝に銘じなければならないと加藤氏。

増える女性若年層の飲酒量

近年の日本の飲酒状況としては、フランスやアメリカが89年頃から国民一人当たりの平均飲酒量が減少傾向にあるのに対し、日本では70年代から上昇し続け、89年頃から今日まではだいたい横這い傾向である。しかしながら若年層の女性の飲酒量は増えており、これは同年大の男性をしのぐ勢いであることも発表した。

世界がん研究基金では「がんを予防するための提言」を2007年に発表しているが、ここでも飲酒するとしても男性はエタノールとして一日平均20〜30g(やはり日本酒一合相当)、女性では10〜15g以内に留めることを推奨している。

また、アルコールを摂取する際には低栄養になったり、逆に栄養過多になりすぎたりしないよう十分配慮しながら、それでも食事と共に楽しむほうがよいと加藤氏。アルコールも食事も、多くの人が自分の好きなものを好きな量を自由に摂れるようになったのは、人類にとってごく短い歴史であり、自分自身でコントロールすることを学べば、アルコール依存症やアルコールが引き起こす病、そしてメタボリックシンドロームとも無縁で、百薬の長として楽しむことができるとまとめた。

依存にいたるプロセスと予防方法
独立行政法人国立病院機構 久里浜アルコール症センター 樋口進

TVCM、若年層女性の飲酒量の増加に拍車

先の加藤氏が指摘したように、樋口氏も若年層女性の飲酒量の増加について指摘する。樋口氏はこの原因を若い女性タレントやモデルを使用したTVCMや、甘いお酒などアルコールの種類が増加したことと関係しているのではないかと分析。しかし妊娠などのことを考えると、適量を楽しむ、ということをしっかり理解してほしいと指摘。

というのも飲酒を楽しむレベルから少しずつ酒量が増え、最終的に依存症になるまでのステップは想像以上にあっというまであり、しかも一度依存症になってしまうともう元には戻れないという恐ろしい点があるからだと樋口氏は述べる。

アルコール依存症、再発率が非常に高い

まったく飲酒しなかった私たちが、たまに飲む程度になり、習慣的(週に1回以上)飲むようになり、連日飲酒する、連日・時に大量飲酒をする(日本酒3合以上)、そして常習的に大量に飲むというまでのステップは、気をつけていなければあっという間で、せめて常習的に大量に飲む前段階(これをプレアルコホリズムという)で、現状に気づき酒量をコントロールするようにしなければ、依存症になりかねないという。

一度依存症になるとその後は専門治療を行ない、後の人生では飲酒しない、できない、してはいけない、という選択をせざるを得なくなる。というのも、アルコール依存症は再発率が非常に高く、長期に断酒していても、再飲酒すればほどなくコントロールできない状態に戻ってしまうからであり、アルコール依存症患者が生涯断酒を続けなければならない理由はここにあるという。

日本国内でのアルコール依存症80万人を越える

アルコール依存症の具体的な症状とは、大切にしていた家族、仕事、自分の健康などよりも飲酒をはるかに優先させるような状態で、酒量や飲酒そのもののコントロールができない、離脱症状がみられる、アルコールが自分の健康を害していることを理解しているのに止められないなどの症状がある。肉体的な離脱症状には、手が震える、発汗、寝汗、睡眠障害、落ち着かない、不安、てんかん、幻聴、幻視などのさまざまな症状がある。

実際、依存症患者の脳は萎縮傾向にあることがわかっており、しかしながら断酒すれば回復することもわかっている。現在日本国内ではアルコール依存症は80万人を越えていて、またアルコール依存症の疑いがある人は440万人を越えているという。

依存症のリスク因子、遺伝的要素やストレス

アルコール依存症はとくに自分の健康を害し、生活そのものがコントロールできなくなるという恐ろしさがあるが、家族や同僚など周りの人にも多大な迷惑をかけるという側面もあり、実際アルハラ被害者(アルコールハラスメント)は1400万人を越えているという。依存症の治療には専門治療が原則で、治療の目的は断酒の継続であるという。

入院治療が主体であるが、外来治療も可能で、心理社会的治療や薬物治療も補助的に行なうことがあるという。同じように飲んでいても、依存症になる人と、ならない人がいる理由は現在のところ解明されていないが、アルコール依存症には遺伝的な要素もあり、アルコール依存症患者のうち、父親もアルコール依存症だったという人は35%、父親はそうではないという人は6%と大きな違いがあることがわかっていると樋口氏。

また飲酒後に顔の赤くなる人は依存症になりにくい、というデータもあり、依存症のリスク因子は、ある程度酒に強く、遺伝的要素があり、また脳が多動傾向で、ストレスやこころの病気をかかえている傾向にあるということがわかってきていると述べた。依存症にならならいためにも、自分の飲酒量をできるだけ正確に把握し、自分の飲酒量の目標や目安を作り、毎日の飲酒量をできるだけ記録するなどコントロールすることが重要であるとまとめた。


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