「食べ物とがん」の因果関係とは 〜第9回
「ここまでわかった!食生活改善とがん予防」

2010年11月30日(火)、女性と仕事の未来館で、財団法人 東京顕微鏡院主催「第9回 ここまでわかった!食生活改善とがん予防」が開催された。氾濫する「食べ物とがん」の情報。より正しい選択のためにどうしたらよいのか、多くの参加者が熱心に耳を傾けた。

ここまでわかった!食生活改善とがん予防
国立がん研究センター がん予防・検診研究センター
予防研究部長 津金昌一郎

がん患者の増加、高齢者人口の増加も関係

巷に溢れる食べ物とがんの情報はすべてが正しいわけではない。当たり前であるがまずそのことをしっかり認識して欲しいと津金氏。

日本でがん患者数が増加傾向にあるが、平均寿命の伸びとも関係がある。乳がんや大腸がんなどある程度遺伝性があるものや若年性のものを除き、がん患者が増加しているのは国民全体が長生きになっていることの証明でもある。

津金氏は「食べ物とがん」の因果関係について、一般的にがんと関係があるとされる食品や習慣を個別に解説。まずはアルコール。飲酒習慣がある人はがんになりやすいのか。

これについては、毎日2合以上飲む、あるいは週に14合以上飲む人は、飲まない人に比べ1,3倍〜1,5倍がんになりやすい。また、お酒を毎日1合以上飲む、あるいは週に7合以上飲む人では、飲まない人に比べ1,1〜1,3倍がんになりやすいことがわかっている。

しかし、アルコールがガン細胞を大きくするかどうかは分かっておらず、アルコールが発がんに繋がるメカニズムは、あくまで可能性としてであり、アルコールに含まれるアセトアルデヒト、免疫抑制作用と葉酸代謝への影響、栄養不足などが原因ではないかと考えられている。

一方で、適度な飲酒は心筋梗塞や脳梗塞のリスクを下げる、代謝を上げるなど健康面にプラスになる面もあり、アルコール=がんと考えるのは間違い。飲めない人は無理に飲む必要もないが、適度な飲酒を楽しむことはむしろ健康に役立つ。

運動でインシュリン抵抗性や肥満が改善

次に運動。運動ががんを予防するのか?予防する可能性として、インシュリン抵抗性の改善、肥満解消、免疫機能の増強などが挙げられる。

しかし肥満でも痩せ過ぎでもがんリスクは同様で、肥満であれば内分泌系の影響から大腸、乳房、子宮体がんの可能性が高まり、痩せ過ぎだと免疫機能の低下や抗酸化物質の不足によるがんの発生リスクが高まる。

体型におけるがん予防法は、成人期での体重を適切な範囲で維持することであり、それぞれのライフスタイルにおいて必要があれば運動、あるいは肉体労働などをしている場合は適度な休息をすることが重要である。

塩の摂り過ぎは胃がんに

食事方法はどうであろうか。食事については、これを摂っていればがんを予防できるという唯一の食品、栄養素はいまのところわかっていない。

摂り過ぎるとがんのリスクを高める可能性のある食品中の成分、あるいは調理、保存の過程で生成される化学物質があるにすぎない。従ってリスク分散のために「偏らない食事」が重要である。

例えば世界的にみて胃がん患者は日本と韓国で圧倒的に多く、特に日本は米国の10倍もの胃がん患者がいる。

日本国内では秋田県に最も多く、最も少ない沖縄県の3倍の数の胃がん患者がいる。

これらのことからも塩分、塩蔵食品の摂取量が多い人ほど胃がんになりやすいことがわかってきている。そのメカニズムとしては胃酸による急性炎症が繰り返されること、慢性胃炎になること、さらに塩蔵の過程で発ガン物質が生成されることが可能性として指摘されている。

従って食塩、塩蔵食品の摂取はあくまで最小限にし、特に高塩分食品(塩からや練りウニなど)は週に1回以内にすることが望ましい。

野菜・果物、1日400gで脳卒中や心筋梗塞を予防

野菜・果物については予防効果が示唆されている。野菜・果物の中のさまざまな物質が生体内で発生した酸化ストレスを除去することや発がん物質を解毒する酵素の活性を高めることなどが指摘されている。

特定の野菜・果物を食べればがんにならないと断言することはできないが、野菜・果物は1日に400g摂取することで脳卒中や心筋梗塞をはじめとする生活習慣病の総合的な予防につながることは確実であり、不足しないように積極的に摂取することが望ましい。

加工肉や赤肉、摂取量多いほど大腸がん示唆

加工肉、赤肉については、特に欧米において摂取量が多い人ほど大腸がんになりやすいことを示唆するデータがいくつもある。発がんのメカニズムとしては、加工・保存の過程で発がん物質が生成されること、加熱調理の過程で発がん物質が生成されることなどが可能性として考えられている。

がんを予防するための食生活としては、発がんの可能性が高い、あるいは摂取量によっては要因として疑われているもの(アルコール、動物性脂肪、塩分食品、肉の焼けこげなど)は、絶対に口にしないということではなく、バランスを考えながら摂取することが大切であり、一方予防要因の可能性があると示唆される食物繊維、イソフラボン、カルシウム、ビタミン、緑茶などは不足しないように摂取する、という程度で十分である。

摂り方によるベネフィットとリスク

食べ物以外に、がん要因とされているものにもベネフィット(利益)の一面もある。例えば肥満は乳がん(閉経後)や糖尿病のリスク要因とされるが、閉経前の乳がんや感染症は予防要因になるとされている。カルシウム摂取過多は前立腺がんのリスク要因とされるが、大腸がん、骨粗鬆症の予防要因になるとされている。

紫外線は皮膚がんの原因になると示唆されているが、近年ではそのビタミンD生成効果から大腸がんの抑制の可能性が示唆されている。

がんを予防するために食生活や生活習慣を改善するのであれば、あくまでも他の病気への影響や人生の楽しみなどとのバランスを図り、過度にならないことが重要である。


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