機能性食品や栄養補助食品、医薬品との相互作用の検証が課題〜東京大学大学院農学生命科学研究科 記念シンポジウム
2010年12月11日(土)、東京大学弥生講堂で、東京大学大学院農学生命科学研究科 フードサイエンス棟竣工記念シンポジウム「食の安全を支える基礎並びに応用研究」が開催された。

食品機能成分の消化管吸収
東京大学准教授 大学院農学生命科学研究科 小林彰子

フラボノイドの消化管吸収のしくみを解析

近年、食の機能性研究が進み、機能性成分を強化した食品や栄養補助食品が数多く開発され販売、消費されている。しかしこれらの主成分の消化・吸収・体内への分布・代謝・排泄機構についてはまだほとんど解明されておらず、効果と安全性については不明な点が多々あるのではないかと小林氏は指摘する。

食品中の機能性成分は、経口摂取された後、消化管から吸収され、体内循環系に入り、さまざまな組織へ輸送され、機能を果たし、代謝変換された後、最終的には体外へ排出される。特に消化管吸収は摂取成分が体内へ入る第一のステップであり、機能性成分の効果・安全性に関わる最も重要な要素である。

小林氏を含む研究チームは、肥満細胞を抑制することで抗アレルギー作用を発揮することが期待されるフラボノイドの一種であるヘスペレチンに注目し、ヒトの結腸がん由来の細胞と人工脂質膜を用いたフラボノイドの消化管吸収のしくみを解析したと報告した。

食品と医薬品の相互作用、複雑で不明なものが多い

消化管の粘膜層は経口摂取成分が高濃度で到達するため、食品成分間の相互作用や食品と医薬品間の相互作用が最も起こりやすい所であると考えられている。また消化管は、多くの取り込み型、排出型のトランスポーター(400種類もあるといわれる)を発現し、これらが栄養・食品成分だけでなく医薬品をも基質とするという。

これまで消化管でのトランスポーターを介した食品と医薬品間の相互作用については解明が複雑で明らかなものが少なかったが、研究チームは、ラットを用いた抗インフルエンザ薬の毒性試験から、抗インフルエンザ薬とミルクとの同時摂取では消化管吸収が抑制される可能性を見い出したという。

さらに抗インフルエンザ剤が消化管に発現するオリゴペプチドトランスポーターの基質であることも分かり、抗インフルエンザ剤の消化管吸収において、ミルクのようなタンパク質を多く含む食品を同時摂取すると、消化管内で生じたペプチドにより吸収が抑制され、薬効が激弱する可能性が示唆されたと小林氏は発表した。

高齢者、医薬品の併用が多いため相互作用のリスク検証が必要

これは臨床においても同様ではないかと小林氏は予測する。特に2〜3時間おきに哺乳し、常に消化管内にペプチドが高濃度で存在する乳幼児においては注意が必要ではないか、と指摘。実際に絶食したラットと非絶食時のラットでは抗インフルエンザ剤を投与して比較したところ、絶食時のラットのほうが抗インフルエンザ剤の脳内濃度が十倍高い数値を指したという。

現在、機能性食品は用法、容量が定められている医薬品とは異なり、摂取に関しては消費者の自己判断に任せられているが、高齢者や生活習慣病患者は医薬品との併用が多いため、相互作用のリスクが多く伴う。食べあわせも含め、機能性成分の吸収率を向上させるための研究を今後も続けていきたいとまとめた。

医薬品・食品の吸収動態と相互作用
金沢大学・医薬保健研究域薬学系・薬物動態学研究室 玉井 郁巳

消化管動態、薬効や毒性を左右

医薬品の作用、副作用はその体内動態に左右される。さらに臨床現場での患者への医薬品処方については期待した薬効のみが得られるよう、患者に応じた医薬品の選択・調整が求められるという。

体内動態を左右する原因を大きく分けると3つ。1つは安定性を左右する薬物代謝酵素の状態、2つ目は細胞内外に薬物を移行するトランスポーターの状態、そして最後に血漿中のアルブミンや細胞内でのタンパク質など薬物結合性生体高分子の状態。

1990年代以降、これら各過程に関わる分析が進められている。結果、特に薬物代謝酵素の関連した薬物間や薬物と食品間の相互作用について解明されている。当初、薬物代謝酵素の影響は肝臓で生じると考えられていたが、飲食物の影響の出やすい消化管組織中にも一部の酵素が高発現していることが解明され、消化管動態が薬効あるいは毒性を左右することも明らかになってきているという。

フルーツジュース、医薬品服用で薬物変動

一方、細胞膜の透過を担うトランスポーターは薬物動態全般に影響するが、栄養成分と異なり生体異物である医薬品の消化管吸収は単純拡散によって進行すると考えられてきた。しかし、糖タンパク質のような細胞外への排出に働くトランスポーターが消化管などで異物の吸収・組織移行の障壁として働くことも明確になってきている。ただ、薬物トランスポーターや代謝酵素は種類も多く、個々の差も大きいため、ヒトにおいて実際に働いているメカニズムの解析は難しく十分でないと玉井氏。

フルーツジュースによる医薬品の服用が薬物変動を起こす臨床現象が観測されているが、メカニズムとして薬物代謝酵素の阻害、あるいは糖タンパク質阻害やそれらの発現変動が指摘されている。しかし、こうした分子のみでは、ジュースと医薬品の吸収過程での相互作用を十分に説明することができず、玉井氏は、そのメカニズムとして医薬品吸収に働くトランスポーターとして有機アニオントランスポーターの関与を推測しているという。

ヒトの小腸には有機アニオントランスポーターが発現していて、他にも様々な医薬品を基質として輸送している。これらの複数の有機アニオントランスポーターが医薬品の吸収に働くことが予測されているが、これらはジュースの成分によって活性阻害を受ける事から、医薬品の吸収性が低下し、十分な薬効が得られないことが懸念されているという。

医薬品の消化管吸収過程でのジュースとの相互作用機構がわかりつつあるが、ジュース間での作用の違いもあり、安全で有効な薬物療法を推進するためには、医薬品の吸収機構の全容解明が急務であり、同時に飲食物中の影響成分の特定が重要であるとまとめた。


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