農薬など化学物質による内分泌かく乱作用最新報告〜平成22年「化学物質の内分泌かく乱作用に関する公開セミナー」
2010年12月15日(水)、東京大学山上会館で、環境省主催の平成22年「化学物質の内分泌かく乱作用に関する公開セミナー」が開催された。環境省は今後5年間の方向性として、「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応EXTEND2010」をまとめている。今回、基礎研究における中間報告が行なわれた。

哺乳類を用いた毒性実験の結果に影響を及ぼす実験動物の遺伝的要因解析
(財)残留農薬研究所毒性部 青山 博昭

ラット実験の結果をヒトに置き換えることは困難

化学物質の内分泌かく乱作用の研究で、さまざまな動物実験が行なわれている。その多くがラットによるものだが、遺伝学的組成において大きく2つに分けられる。

1つは近交系。兄弟同士で数十世代に渡って交配させているため、遺伝子型が全て同じで、同じ用量の化合物に対し均一な反応を示す特徴がある。またクローン的で、ヒトとの集団と明らかに異なる。そのため、化合物に対する反応結果をヒトに置き換えて考えることが難しい。

もう1つはアウトブレッド(あるいはクローズドコロニー)。親子兄弟のように似ているが必ずしも同じ遺伝子型ではなく、化合物に対する反応に個体差が出やすく、比較的ヒトの集団に近い。そのため、毒性試験ではアウトブレッド型を使うことが多い。

しかし、アウトブレッド型で気をつけなければならないのが、メンデルの法則と同様の現象が起こるという点。どうしても一定の確率で、劣性突然変異遺伝子関与の突然変異が発生する。

例えば、ある農薬の2世代繁殖毒性実験では、低用量群のラットの赤ちゃん13匹中3匹に、肺の異常が観察され、喘息、合指症などの合併症もみられたが、農薬の毒性反応ではなく、劣性突然変異によるものであることも推測される。

劣性突然変異か毒性影響か判断が難しい

さまざまな毒薬実験が行なわれ、異常が発生しても、それが劣性突然変異によるものか毒性影響か、判断することが非常に難しい。その点を十分考慮して何の影響で異常が発生しているのか見極めることが大切であると青山氏は指摘する。

内分泌かく乱作用については、まず動物実験を行なう前段階で先天奇形誘発突然変異遺伝子や、恒常性維持に関わるホルモン感受性遺伝子の同定などを行ない、遺伝子型診断方法を確立させることが重要であるという。

都市排水に由来したエストロゲン類の汚染と動態
京都大学 田中 宏明

ヒトから排出される女性ホルモン様物質、オスの魚類のメス化が懸念

2005年〜2009年、化学物質の内分泌かく乱作用に関する日英共同研究事業の研究テーマに「排水由来エストロゲン作用の削減効果の評価に関する研究」がある。

下水処理場から排泄されるさまざまな物質の中でも、ヒトから排出される女性ホルモン様物質がオスの魚類をメス化させることが懸念されている。

英国、とくにイングランドではいたる所で魚類の同体化現象が観測され、中には80%が同体という場所もある。特に下水処理場放流先の河川でこの現象が観測されていると田中氏。

下水処理に時間をかけ、オゾン処理するとエストロゲンが除去

ヒトの尿や使用された汚水中にエストロゲンが排泄されており、しかも下水処理過程でエストロゲン除去が行われていない。結果、河川の魚類が仔稚期にエストロゲンに曝露し、オスの魚類に不可逆な性かく乱が起こっていることがわかったという。

英国の下水処理場は、日本に比べエストロゲンが多い。晴天時は生物処理に時間をかけるが、雨天時は合流式下水方式でのバイパス処理のためではないかと推測されている。

エストロゲンについては、下水処理に長い時間をかける、さらにオゾン処理を加えることが大幅な削減につながると田中氏は指摘する。京都では織物の染色除去のために、下水処理に時間をかけ、さらにオゾン処理を行なっている。そのため、エストロゲン物質のEE2が全く検出されていないという。


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