HACCPで「食の安心・安全」を食卓に、
原料から最終製品まで全工程を管理

2011年1月25日(火)、東京主婦会館プラザエフで、「食の安全・安心〜食卓につながるHACCP」が開催された。食品企業関係者や一般を対象にHACCPのこれまでと今後のあり方について(財)日本食品分析センター テクニカルサービス部 副部長 植田浩之氏が講演、多くの聴講者が熱心に耳を傾けた。

食の安全・安心につながるHACCP
(財)日本食品分析センター テクニカルサービス部 副部長 植田浩之

HACCP、「安心」訴求ではなく「安全」を追求

「食の安全・安心」が注目を浴びているが、「安全」と「安心」は全く違うものであることを一般消費者にはしっかりと認識してほしいと植田氏。

「安心」とは心配でない状態で、感情ベースであり、個人差が大きい。「安全」とはある程度事実に基づく、危険ではない状態であるが、完全に証明することはできない。「安全」か否かはリスク(危険度)とベネフィット(利益)のバランスによって評価される。

食品添加物についても危険かどうかは一言ではいえない。より少ないリスクで利益を得ることのできる安全係数をベースに客観的に「安全」を保障しているが、HACCPも同様、「安心」を訴求するものではなく「安全」を追求するものであるという。

クレームで多いのが毛髪、虫、包材などの混入

食品企業に寄せられるクレームのなかで、最も多いものは異物の混入。原材料由来や製造過程混入によるもので、毛髪、虫、包材の破片など。安全に関わるようなものは少ないという。

その他、包装不良、日付ミス、なども多い。腐敗・変敗、食中毒は最も少ないが、食品企業が食の安全を保障するために最も気をつけなければならない点であるという。

この2年、食中毒による被害が減少

食品の安全を損なう要因である危害要因は、生物学的要因(細菌、ウイルス、寄生虫など)、化学的要因(アレルゲン、ヒスタミン、カビ毒、キノコ毒、植物毒、過剰な食品添加物、残留農薬など)、物理的要因(金属片など)の3つに大きく分類される。

国内における食中毒発生状況については、2006年度は事件数1491件、患者数39026人、死者数6名であった。ここ数年、いずれも減少傾向にあり、2009年は事件数1048件、患者数20249人、死者数0であった。2009年に食中毒発生が激減したが、2010年も事件数はわずか814件、患者数は15752人、死者数は0で、この2年は食中毒による被害がとても少ないという。

これはHACCPの普及も関与しているかもしれないが、一番の要因は2009年から大流行した新型インフルエンザの影響であると植田氏は分析している。インフルエンザが猛威を振るったため、一般レベルで十分な手洗い・消毒などが普及したことから食中毒の発生が激減したのではないかという。

食中毒の発生状況を分析すると、最も多いのが細菌で、食品企業の作業現場や家庭で混入・発生するもの。

次いで、多いのがウイルスで、多くはノロウイルスだが、よく知られる二枚貝より従業員や人(家庭内)からの感染が多いという。 食品企業としては、勘や経験ではなく、化学的・技術的な管理によるHACCP方式を導入し、緻密に安全管理することが重要である。

HACCP、原料から最終製品までの全工程を管理の対象に

HACCPとは国際的な食品衛生管理の方式で、絶対に食中毒を起してはならない宇宙食の衛生管理方法としてNASAで考案されたのが始まり。

1993年以降、ヨーロッパをはじめ世界中へ広がり国際的な信頼を得ているシステムだが、従来の管理との大きな違いは、これまでは最終製品の抜取検査のみを行なっていたが、HACCPでは全ての製造過程、原料から最終製品までの工程を管理対象とし、重要管理点を連続して観察する点にある。

例えば、加熱工程では食中毒菌が死滅しているか、冷却工程では加熱でも死滅しない芽胞菌(胞子)の増加がないか、など観る。金属探知工程では金属異物が混入している可能性がある製品は排除していく、など重点管理を集中的に連続して行う。もちろん、整理整頓、清掃洗浄、害中対策など一般的な衛生管理も平行して行う。

家庭でもHACCPの重点管理の考え方を取り入れてほしい

食品が私たちの口に届くまでには、原料になる作物の栽培、家畜の飼育、食品の製造、販売といくつもの事業者が関わっている。より多くの企業がHACCPを取り入れた衛生管理を行なうことで、安全、安心のリレーをしなければならないと植田氏はいう。

そして安心、安全の最終ランナーはなによりも家庭であると植田氏。細菌やウイルスの発生、付着、増殖はHACCPでの重点管理だけでは防ぎきれない。

例えば、せっかくきちんと冷蔵管理された食品をスーパーで購入したにも関わらず、買い物の途中で寄り道をしたせいで、食品が腐敗することもある。冷蔵庫の詰め込み、肉と魚を分類して保存していない、肉汁、魚汁のもれなども食中毒の原因となる。

安全な食品を購入した後の家庭での管理、調理、食べ方が最終的には食品の安全に大きく関係していることを認識し、家庭でもHACCPの重点管理の考え方(調理・食事の前に手を洗ったか、温め直すときは十分に加熱しているか、タオルや布巾は清潔か、野菜はよく洗ったか、食材を切るごとに包丁は洗っているか、調理器具の消毒は十分されているか、など)を取り入れてほしいとまとめた。


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