生活習慣病予防で、新たなバイオマーカーを〜第13回「脂質栄養シンポジウム」
2011年1月29日(土)、花王ホールで、第13回「脂質栄養シンポジウム」が開催された。これまで医薬品のバイオマーカーが注目を集めてきたが、今回は生活習慣病のバイオマーカーにフォーカスを当てた研究発表が静岡県立大学の合田 敏尚氏より発表され、生活習慣病の一次予防に新しい可能性が示された。

食事研究の最新バイオマーカーの栄養学
静岡県立大学食品栄養科学部 合田 敏尚

新たなバイオマーカーの開発が重要

バイオマーカーといえば、これまで生体情報を定量化するために必要な指標とされてきた。血圧、血糖値、中性脂肪、コレステロール値などが代表的なバイオマーカーである。

近年、科学技術の躍進により様々な因子の変化パターンをバイオマーカーにしようという動きがみられる。特に食品はさまざまな成分の複合体であるため新たなバイオマーカーの開発が重要視されている。

メタボリックシンドロームは脳や心血管疾患の発症の根底に必ず潜んでいると考えられている。一般的に、高血圧や高血糖、脂質異常などが一つのバイオマーカーとなり、医薬品を投与して脳卒中や心疾患、糖尿病合併症などを予防するか、その前段階の治療を行なうのが主流となっている。医薬品のバイオマーカーは疾患罹患後の診断、治療効果の測定に重点を置いている。

疾患罹患前に第一次的予防が可能に

しかし不健康な生活をしているだけでもすでに内臓脂肪型肥満は始まっており、その人の体内(血液から)を分析するとアディポサイトカイン分泌の異常、代謝異常が起こっており、これがひとつのバイオマーカーとなることが考えられるようになったと合田氏はいう。

このサイトカインの異常がみつかれば、この段階で食事指導、栄養指導ができるため、生活習慣病の第一次的予防が可能ではないかと、研究や解析などを広めているという。

糖尿病、一次予防の新たなバイオマーカーとして「断続的な食後高血糖の指標」など

現在、個人の栄養・代謝状態と疾病リスクの評価で開発が期待されるバイオマーカーとして、肥満関連代謝異常リスクに「インスリン抵抗性と炎症の進展」、糖尿病・糖代謝関連リスクに「食後高血糖と炎症の進展」、抗酸化関連に「酸化障害と炎症の進展」があるが、さらに実用的なバイオマーカーの探索が必要とされている。

例えば糖尿病発症リスク評価の血糖関連指標では、従来「空腹時の血糖」「食後2時間後の血糖」「糖化ヘモグロビン」などであったが、一次予防のために期待されるバイオマーカーは「断続的な食後高血糖の指標」「短期的な等化の指標」「高血糖により促進される炎症の指標」などがあるという。

短期的な食後高血糖でもサイトカインの遺伝子発現が変動

実際これらの指標が有効かどうかは、マウス実験で完了している。これまでの指標では長期に渡る高血糖により変動するサイトカインにばかり注目が集まっていたが、短期的な食後高血糖でもサイトカインの遺伝子発現が変動していることが解明されている。また、臨床研究でも、2型糖尿病患者で動物実験と同様の結果がでている。

さらに、一般の健康的なヒト(40?60歳男性)を対象に行なった試験でも、空腹時の血糖値とサイトカインレベルの関連が解明されているという。

食事は5パターンに分けられる

健康なヒトを対象に行なった研究からわかったことは、一つ一つの栄養素がどのように健康と関連しているか、ということよりも食品群で考えた方が分かりやすいということだったと合田氏。

「和食+野菜パターン」「アルコール(簡略)パターン」「魚介類パターン」「間食・乳類パターン」「洋食+野菜パターン」という5つに分けると、我々の食事パターンはこのいずれかに当てはまることがほとんどという。

単体の栄養素より、食事パターンのほうが健康を大きく左右

この分類で、「和食+野菜パターン」と「洋食+野菜パターン」のグループに属するヒトは、脂肪細胞から分泌されるタンパク質アディポネクチンの濃度が上昇し(肥満になるほどアディポネクチンの分泌量が低下する)、インスリン抵抗性も下がることが判明している。

つまり、食事パターンはメタボリック症候群リスク因子およびサイトカインと関連していることが判る。また単体の栄養素が健康を大きく左右するというより、食事パターンのほうが関連するこのではないかと合田氏。また「間食・乳類パターン」のグループもインスリン抵抗性が上がりやすいという。

慢性疾患リスクごとにバイオマーカーを明確にする必要がある

これらの実験で、代謝性疾患のリスク評価指標としての利用が期待されるバイオマーカーには、インスリン感受性関連アディポサイトカインにはアディポネクチン、レプチンなどが期待され、食後血糖関連炎症サイトカインにはIL-Iβ、インスリン抵抗性関連アディポサイトカインにはIL-6などが期待されるという。

同様に代謝星疾患の慢性炎症のリスク評価指標として利用が期待される実用的なバイオマーカーとして、酸化障害関連の指標にはγGTP、インスリン抵抗性関連指標にはALTがあげられるとした。

今後の課題として、慢性代謝疾患の一次予防の有効性の評価の根拠として、最低限必要とされる生体指標であるバイオマーカーを慢性疾患リスクごとに明確にする必要があると合田氏は指摘。

また食事の質的評価のために、食事のパターン化などによる食事要因の数量化と、バイオマーカーを統合した統合健康指導の開発を図りたいとまとめた。

生活習慣病の第一次的予防のバイオマーカーに基づき、栄養指導、食事指導、生活指導を行われるようになれば、医療費負担の軽減やQOLの向上なども期待できる。薬剤+食事といった混合治療の道も開けるであろう。


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