食品の「抗酸化力表示」、普及への課題
2011年6月7日(火)、東京ビックサイトで開催の健康博2011セミナーで、「食品の「抗酸化力表示」普及の課題と問題点」と題して、3名の専門家が最新の動向を報告した。食品の抗酸化力表示は、新たな機能性表示として、健康食品業界でも期待が高まっている。しかし一方で、課題も多く、本格的導入に向けての検討事項が挙げられた。


ここ数年、アメリカでスーパーフルーツブーム

国際栄養食品協会 副理事長
潟Oローバルニュートリショングループ 代表取締役 武田 猛

武田氏は主に欧米における抗酸化力表示の現状についての報告を次のように行なった。

欧米諸国の中でもアメリカの抗酸化力表示は拡大しており、とくにポリフェノールについては提供側も販売側も表示したがる傾向が強い。

商品そのものにポリフェノールの含有量を表示するだけでなく、販売促進のために商品の周辺をベリーなどの果物でディスプレーしたり、ベリーのイラストを入れたPOPを添付したりすることによって、商品がベリー由来のポリフェノールを豊富に含んでいることを暗に訴求するような工夫が図られている。というのも、アメリカにおいてここ数年「スーパーフルーツブーム」が起こっており、そのスーパーフルーツを代表するものが各種ベリーであるから。

消費者がORAC値(抗酸化力を数値化)を意識

このスーパーフルーツの人気を決定づけた指標がORAC(Oxygen Radical Absorption Capacityの略)。食材や健康食品がもつ活性酸素除去力、つまり抗酸化力を数値化するために使われるもので、欧米ではORAC値が高いほど抗酸化力が高いということが多くの人々に認識されつつある。

アメリカでは1日の必要摂取量3500ORACが通説となり、消費者も食品や健康食品のORAC値を非常に意識するようになっている。例えば、ベリー類のマキベリーは8687ORAC、ブルーベリーは1346ORACというように抗酸化力が比較され、消費者の購買の際の指標として機能しはじめている。

欧州では「抗酸化」に関する表示が却下

しかし現在欧州では、栄養・健康表示に申請された「抗酸化」に関する表示はほとんどが却下されている。というのも欧州食品安全庁(EFSA)が、「抗酸化作用が生理的に有用であるという根拠がない」と主張しているためで、申請されたカロテノイド、ビタミンC、コエンザイムQ10、などすべて却下されているのが現状である。

唯一ポジティブ評価がされているのがビタミンEであり、ビタミンEを豊富に含むオリーブ油はEFSAから初めて科学的にも認められた抗酸化成分とされている。

現在、欧州ではORAC値の商品表示のガイドラインがないものの、各商品にはORAC値の表示や比較が打ち出されているパッケージが急増している。しかし、FDAからもクレームがないという不思議な状況が続いてる。

抗酸化力表示への動き、世界中で広まっている

独立行政法人 国立健康・栄養研究所 食品保健機能プログラム
食品分析プロジェクト 研究員 竹林 純

竹林氏は抗酸化力の測定方法とその意味について次のように解説した。
抗酸化力の表示を明確に行なおうという動きは、欧州だけでなく世界中で広まっているが、測定方法については幾つかある。

そもそも抗酸化力を測定するには、食品から抗酸化物質を取り出し、抽出された液体(あるいは物質)を試験管の中に入れるところまでは共通である。

しかし、そこからはフリーラジカル(活性酸素)との直接的反応を評価する直接的分析法と、フリーラジカルによる酸化反応抑制を評価する間接的分析方法に分かれる。これは人間の運動能力に例えると、跳躍力で走り幅跳びの数値か、棒高跳びの数値か、というほどの差があり、出てきた数値の比較が難しいという側面がある。

いずれにせよ、各分析方法で測定された数値は抗酸化力の一面を現すものにすぎず、抗酸化力も食品の持つ機能の一つにすぎないということが、抗酸化力測定の大きな課題となっている。

ORACの数値と健康状態の相関が不明確

例えば、「健康日本21」では1日の野菜を350g、果物を200g摂るよう奨励しているが、そこから摂取できる抗酸化物質はおよそ4600ORAC。しかし、実際にはORAC値では測定されないカリウムや食物繊維などの機能性成分が健康に多く寄与している。

また、4600ORACのなかで、どのレベルから実際に疾病予防に効果があり、どの数値から健康に効果があるのか、あるいは効果がないのか、また有害に転じることはないか、などORACの数値と健康状態の相関が明確でない。

つまり、抗酸化力の測定値も抗酸化力の一面を表しているだけで、健康維持に必要な抗酸化物質の総量、過不足については不明、抗酸化力の高さが健康によい食品とも限らず、抗酸化機能そのものについての研究が途上である。

とはいえ、厚労省の調査でも多くの消費者が「抗酸化機能性食品を利用したい」と答えている。そのため測定方法からの研究が今一度求められている。

抗酸化力表示のメリットとデメリット

東京デリカフーズ
経営企画室 薬学博士 有井 雅幸

有井氏は抗酸化力表示のメリットとデメリットを次のように解説した。
メリットについては、野菜など商品に付加価値が付き差別化が図れること、農家にこだわりの生産者が増え、市場の活性化が期待できる。

また、消費者の抗酸化成分への知識が深まり、自身に必要な食材や食品を選ぶことが可能になる。さらに、バランスのとれた献立の実現も考えられるなど。しかし、抗酸化にとらわれて過ぎ、逆にバランスが崩れることも予測されるなど、デメリットもある。

栄養機能表示の認可も大事

また、抗酸化に限らず、主要栄養素(ビタミン、ミネラル)や美味しさ(糖度等)の表示についても必要で、栄養成分表示は認められているのに、栄養機能表示が認められていないことの改善も行なわなければ根本の解決にならない。

さらに、抗酸化力のみ表示した場合、食品としての必要性について誤解を与える可能性が高い。食品中の抗酸化力が、摂取後の体内抗酸化力に反映するとはいいきれず、機能性にみならず、栄養面を捉えることも模索すべきである。

米国ではORAC表示で、健康状態が良好化

いずれにせよ抗酸化力表示に関するニーズは高まっている。消費者も科学リテラシーを高め、抗酸化力を正しく理解する必要がある。米国ではORAC表示を行ない、それを基準に消費者が商品を選ぶようになったことで健康状態は良好化していることが評価されている。日本でも、表示の問題点ばかりを強調するのではなく、表示の実現に向けて可能性を積極的に模索していくべきである。


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