転倒、骨折予防のための栄養と運動機能のアセスメント

2011年6月8日(水)、東京ビックサイトで開催された健康博2011で、慶応義塾大学医学部スポーツ医学総合センター講師の岩本潤氏が「転倒、骨折予防のための栄養と運動機能のアセスメント」と題して講演。高齢者の介護問題や寝たきり問題などについて、予防方法や食事指導について解説を行なった。


要介護の原因、転倒骨折や関節疾患が第2位

転倒などで骨折し、要介護や寝たきりの高齢者が増えている。日本人の平均寿命は男性が約79歳、女性は83歳。日本は世界でも有数の長寿国だが、平均寿命から7〜8歳引いた年齢が、いわゆる健康寿命の平均年齢といわれる。

健康寿命とはまさに健康(自分のことは自分でできる状態)である年齢で、最後の7〜8年は介護や入院などを必要とし、健康とはいえない状態で過ごす老人が多いというのが事実である。介護が必要となった要因を分析すると、心疾患が27%、認知症が18%程度だが、実は転倒骨折や関節疾患によるものが18%を超えており、心疾患に続く第2位の要因であることは意外に知られていないと岩本氏。

骨の問題で重要なのは骨粗鬆症の予防である。生活習慣病でいえば、高血圧3970万人、糖尿病820万人、脂質異常症680万人いると報告されているが、それよりも患者数が多いのは骨粗鬆症で1100万人、生活習慣病とはされていないが、危惧すべき問題である。

フィンランド、デンマーク、オーストラリア、カナダ、アメリカなど複数の先進国では骨粗鬆症の発生率は減少傾向にあるが、やはり対策と予防でそれなりの効果が期待できるのではないかと岩本氏は分析する。

骨粗鬆症になりやすいタイプの人

女性の骨粗鬆症については、閉経後、女性ホルモンが急激に減少することで発症の確率がぐっと増えてくる。例えば背がちじんだ、背中が曲がってきた、背骨や腰が傷む、ささいなことで骨折した、などあれば骨粗鬆症を疑った方がよいと岩本氏。

また骨粗鬆症になりやすいタイプの人もいる。家族に骨粗鬆症の人がいる、痩せている、コルチステロイドの服用者、過度のアルコール摂取者、閉経の早かった人、カルシウム・ビタミンD不足、運動不足、喫煙者などが罹患しやすい傾向にあるという。

介護高齢者の3〜4割以上が低栄養状態

特に骨を強くするためにはビタミンKとビタミンDの摂取が不可欠である。骨粗鬆症の人のなかで、一番多い骨折部位は大腿骨近位部(股関節)、次に手首、背骨(腰)だが、レタスを1日に1回以上摂取する人は1日に1回以下しか摂取しない人に比べて、大腿骨近位部骨折のリスクが45%低いことが報告されている。つまりビタミンの摂取が骨粗鬆症リスクの低減と密接に関わることが明らかとなっている。

しかし、近年は高齢者の低栄養が問題となっており、厚労省の調査によると介護を受けている高齢者の3〜4割以上が、タンパク質・エネルギーの低栄養状態であると報告されているという。

タンパク質の摂取が骨量と筋肉量に影響

確かに食べ過ぎはメタボリックの心配もあるが、納豆や魚の油などの高タンパク食材につては高齢者だからこそ積極的に補って欲しいと岩本氏はアドバイス。骨粗鬆症の予防にカルシウムの摂取が大事なことは知られているが、最近ではタンパク質の摂取が骨量と筋肉量に影響を及ぼすことも明らかになっており、骨はカルシウムだけでなく、骨容積の50%はタンパク質で構成されていることもわかっている。

そのため、適切に良質なタンパク質とカルシウムを摂ることが特に高齢者の骨と筋肉量を維持するのに不可欠である。カルシウムについては特に日本人は慢性的なカルシウム不足であるため、高齢者に関わらずすべての世代で意識して摂取すべきであるという。

また、納豆はビタミンKやマグネシウムが豊富で、カルシウムが骨に吸着するのに役立つ。また乳製品に含まれるカルシウムは体内に吸収されやすく、食材の特性も理解したうえで、バランス良く栄養を摂ることが骨粗鬆症の予防にも役立つと岩本氏はまとめた。


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