放射能汚染と食のリスク 現状と対策
〜第3回「食の安全・安心財団」意見交換会

2011年6月27日(月)、ベルサール汐留で、第3回食の安全・安心財団 意見交換会「放射能汚染と食のリスク 現状と対策」が開催された。今回で3回目となる放射能汚染に関する意見交換会で、会場は満席となるほど多くの人々がつめかけた。

農産物における放射線モニタリングおよび出荷制限等の仕組みと現状
経済産業省 原子力安全・保安院 課長補佐 大谷壮史氏

食品の出荷制限、摂取制限に係る初動の概要

大谷氏はまず食品の出荷制限、摂取制限に係る初動の概要について解説した。
3月11日の大地震と津波の襲来に伴い東京電力福島第一原子力発電所の全給水機能が喪失したことが発覚。原子力緊急事態宣言が発出され、内閣府に原子力災害対策本部がすぐさま設置された。

翌日には1号機〜3号機までで相次ぎベントを実施、および水素爆発の発生により放射性物質の大気中への放散が確認された。3月17日には厚生労働省より都道府県知事に対し、@原子力安全委員会により示された「飲食物摂取制限に関する指標」を食品中の放射性物質に関する暫定規制値とすること、A暫定規制値を上回る食品については食品衛生法に該当するものとして、食用に供されることのないように対応することを、速やかに通知した。

3月19日には、暫定規制値を上回る食品の検出が相次いで報告され、21日には原子力災害対策本部において原災法に基づく出荷制限の指示の発出を検討、福島、茨城、栃木、 群馬の各知事に対し、ほうれん草、かきな、原乳の出荷を当面停止するように指示を出した。これが一連の流れで、政府は食の安全に関する対策をすみやかに行ったことを強調した。

食品の出荷制限・摂取制限の設定や解除

原子力災害対策特別措置法(原災法)は原子力の緊急事態が発生した時に内閣総理大臣がその緊急事態宣言の発出を行うことによって速やかに対応していくことが規定されている。

今回もこの緊急事態宣言の発出により、ほぼ同時に災害対策本部が設立され、緊急事態応急対策実施区域が設定された。災害対策本部は「飲食物の摂取制限等に係る措置」と「住民の避難等に係る措置」の2項目をメインに原子力安全委員会の助言をベースに、現在もそれらの措置を行なっているという。

食品の出荷制限・摂取制限の設定や解除については、原子力安全委員会の助言をベースに関係都道府県に災害対策本部が指示を出すことになっている。その指示に基づき、各都道府県は食品中の放射性物質に関する検査の実施を行い、食品衛生法に基づく個別の食品の出荷制限、摂取制限を実施していくという。

厳しい数値を基準値としている

食品中の放射線物質に関する暫定規制値については、原子力安全委員会の助言をもとに災害対策本部が厚生労働省に指示を出し、食品衛生法に基づき、食品中の放射性物質に関する検査の企画立案や暫定規制値の設定を行い、食品安全委員会が健康評価の実施を行う流れになっている。厚労省は農水省や消費者省とも連携しているという。

原災法上の出荷制限の指示にあたっては食品衛生法上の暫定規制値が基準となっている。食品衛生法上暫定規制値は原子力安全委員会が定めた「飲食物摂取制限に関する指標」を採用している。当該指標は、ICRPで勧告されたレベルを基準とし、例えば放射線セシウムについては暫定規制値の食品を1年間摂取し続けた場合に、5mSv/年となるように策定されているという。

いずれにせよ、現状では十分厳しい数値を基準値としているので、安全性には問題ないことを理解して落ち着いた行動をとってほしいという。また事故から3ヶ月が経過し、問題となっている放射性物質のほとんどが放射性セシウムのみになっている。この3ヶ月で対策本部は各都道府県に計42回の指示を出しているが、これからもしっかりと安全対策を行っていく、と大谷氏はまとめた。

放射能と健康影響〜放射線とのつきあい方
(社)日本アイソトープ協会 常務理事 佐々木康人氏

確定的影響、それぞれ「しきい値」を採択

放射能や放射性物質が健康にどのような影響を与えるのか、それについては「しきい値」の考え方で科学者や専門家の間で意見が対立している。その前に、まず放射線の健康影響について、2つの種類があることを理解してほしいと佐々木氏。

まず一つ目が「確定的影響」。これは放射線を浴びたことによる身体的症状、徴候が確実に現れることであり、1グレイ以下では起きない、また現れる症状ごとに「しきい値」があると考えられている。

具体的な症状としては、脱毛、やけど、倦怠感、吐き気、そして最悪は致死に至るケースであり、ICPRも症状に応じて、それぞれの「しきい値」を採択している。身体的症状が明確に現れることからも理解されやすい。

線量に比例してリスクが増加すると仮定

もう一つが「確率的影響」。これは、将来ガンが発生するリスクが高まるかも知れず「まったく影響がない」とは断定できないという立場に基づいている。これについては被ばく集団と非被ばく集団の比較で検討するしかなく、被ばく者個人でさえも、被ばくによってガンになったと認知することができないというやっかいな問題もある。

100ミリシーベルト以下を低線量というが、この場合、線量に比例してリスクが増加すると仮定しているため「しきい値」は存在しない。なぜこちらの確率的影響のほうに「しきい値」の考えを採択しないかというと、100ミリシーベルト以下でのデータが存在しない、という単純な理由からである。つまりここはブラックボックスになっていると佐々木氏は指摘する。

確実に身体的影響がある「確定的影響」については「しきい値」を認めることができるが、将来のリスクについて語る場合の「確率的影響」についてはあくまで推論、仮定の話であるために「しきい値」の考えを持ち込むことができない、そもそもデータもないということである。

多くの科学者が「しきい値あり」を支持

しかし、現在おおかたの科学者はこの放射性物質について「しきい値あり」の考えを支持しているようである。それでもこの「しきい値」は学術的コンセンサスにはなっておらず、国際機関等はより安全な立場で「しきい値なし」の理論を採用し続けているという。

いずれにせよ、非常に大きな集団(1億人レベル)が被ばくしなければ低線量被ばくによるガン増加の観察は無理である以上、現在の科学ではこの重要なことがわかっていないのだ、ということをしっかり報道すべきであると佐々木氏。

低線量被ばくした際にガンとの関係が指摘される問題がDNAの損傷についてである。これについては、通常ヒトの細胞には修復機能があるので、損傷した細胞がそのまま損傷したままで生き続けることは非常に少ないと考えられている。それでも大量に被ばくした場合(1Gy以上)は損傷した細胞がそのまま生き続け、損傷した状態で増殖を繰り返すことで複数の遺伝子に突然変異が起きてガンになる可能性があることは、さまざまな動物実験でも明らかとなっている。

放射線治療では得られる利益のほうが多いという理論から高線量を照射

ICRPをはじめとし、国際的学術機関が「しきい値なし」の立場をとるのには放射性物質と人類の関わりに関する歴史的背景もあるという。1985年にレントゲン氏にX線が発見し、すぐさま医療現場で広く利用されるようになったが、翌1986年にはX線を原因とした皮膚炎に関する報告が続々と上がり、防護のための3原則(距離、時間、遮蔽)が提案されたという。

1925年にはICR(現ICRP)が発足し、耐容線量を勧告するようになる。1954年には職業被ばく(医療従事者)者の最大許容線量を1.5rem/y(年間150ミリシーベルト)と定めた が、一般の人については、より安全を担保するために、その1/10の量である年間20ミリシーベルトという数値を定めた。

なぜ1/10かというと、ちょうどその頃に世界各国で核実験が繰り広げられており、その影響を一般の人々に与えるべきではないと抑止させるためであったこと、そして広島、長崎に投下された原爆の後遺症として、白血病患者が多く報告されたことが影響しているという。

職業被ばくの線量は生涯線量が1000ミリシーベルトを超えないというかなり高い量で規定されているが、これは「しきい値」の考えがベースとなっており、確定的影響が起こらない範囲で制定されているという。

また医療現場において、治療目的で使用される放射線についても、確率的影響を心配するより、得られる利益のほうが多いという理論から、計画被ばく(職業上の理由の被ばく)で定められている線量限度も適用されていない、つまり非常に高い数値の線量を浴びることになるという。


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