放射線セシウムと食のリスク〜汚染稲
わらによる牛肉汚染の状況と対策
〜第4回 食の安全・安心財団 意見交換会

2011年8月3日(水)、ベルサール半蔵門で、第4回 食の安全・安心財団 意見交換会「放射線セシウムと食のリスク〜汚染稲わらによる牛肉汚染の状況と対策〜」が開催された。3月11日の震災から5ヶ月が経過したが、ここにきてセシウム汚染牛問題が顕著化。専門家からの報告と意見交換会が行われた。

牛肉・稲わらからのセシウムに関する状況と対応にいて
農林水産省 生産局畜産企画課長 原田 英男

農水省、粗飼料の暫定許容値を設定

牛肉のセシウム汚染についてはその原因が牛肉の餌となる稲わらにあることが判明している。3月11日の震災の8日後、3月19日には、農林水産省は東北と関東の各県に「原発事故後に刈り取った乾牧草の給与や牛の放牧を制限するよう」すみやかに指導した、と事故後の農水省の初動について原田氏は説明。

3月22日以降、特に福島県では農水省の通知を受けて「開放された保管場所では乾草や稲わら等をシートで覆うなどして保管するよう」各生産者に指示を出していたという。

4月14日には農水省は東北・関東の各県に対し「粗飼料の放射性物質の暫定許容値」を通達し、6月には保管牧草について、放射性物質の濃度に応じた処分方法を指導するなど、放射性物質が暫定許容量を超えないようにするための措置、あるいは超えてしまった場合の措置と、多角的に対策を行ってきという。

しかし、7月8日東京都が独自に行ったモニタリング検査の結果、福島県産(南相馬市)の牛肉から暫定規制値を超える放射性セシウムが検出され、一連の事案の皮切りとなってしまった。

肉用牛は牧草を餌としているが、この飼料作物を与えることによる畜産物の放射性物質汚染を防ぐために、農水省は「粗飼料の暫定許容値」を設定し、東北・関東の各地域に通達している。

また雌牛や子牛は別途高めの基準で設定を行うなどきめ細やかな対応も行っているという。この暫定許容値については状況に応じて数値を変えている。4月22日以降は、牧草の汚染状況を確認するためのモニタリング調査も定期的に実施していることも併せて報告。

このモニタリングを繰り返し行うことで、暫定許容値を下回った地域は牛の放牧や粗飼料利用が可能になるという仕組みをとっていると報告した。

収集時に汚染された土を巻き込みやすい

東京都で発覚した南相馬市の農場から出荷された、規制値を超える放射性セシウムを検出した肉牛について、なぜこのような汚染牛が出てしまったのかについて当該農場を立ち入り調査したところ、飼料のなかでも特に稲わらから75,000Bq/Kgを超えるセシウムが検出され、この稲わらは秋に刈りとられ田に放置されていたものであったが、事故後に収集したものであったことが判明したという。

このことから原発事故後にも水田に放置されていた稲わらが、かなりの確率で汚染されていることがわかったという。収穫後の稲は地上に横たわっており、降下してくる放射性物質を受け止める表面積が大きいことや、雨水等により田んぼに放射性物質が流れこんだ可能性もある他、収集時にも汚染された土を巻き込みやすいなどの特徴がある。そのため稲わらは汚染されやすいものであることがわかったと報告。

さらにこの稲わらは肉用牛にとってはきわめて重要な粗飼料であり、特に肉用牛を出荷する前の仕上げ期には粗飼料は稲わらのみとなる場合が多く、東北・関東で育成された肉用牛は汚染されてしまった稲わらを豊富に飼料にしていた可能性が高いことを指摘した。

セシウム汚染ルートについては明確

肥育農家の多くは田んぼなどの土地基盤を持たないため、肉牛の飼料を自家製ではなく購入粗飼料に依存しているという点も指摘された。

つまり多くの肥育農家では遠隔時であっても安定した飼料の確保が可能である稲わら業者との取引を重視しているという日本の肉牛業界の流れがあることを説明した。

すでに汚染した稲わらを給与した恐れがある肥育農家の検査や特定も完了しており、それに基づき各県の出荷自粛が続いている。

そのためBSE問題時と同様の牛肉の価格下落が起きているが、肉牛のセシウム汚染ルートについては明確になっているため、今後は原発問題の終息に比例して牛肉汚染問題も鎮火していくことが予測される。

また行政はセシウム汚染稲わらを給与した牛の個別識別番号から、市場に流通した当該牛の肉を検索するシステムを開発し、番号を入力すると追跡検査対象の牛肉か、あるいは回収対象の牛肉かであるかをすぐに認識可能であるようなシステムを構築したと報告した。

肉用牛肥育における飼料管理について
独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構理事・畜産草地研究所所長 松本 光人

反芻で胃(ルーメン)の醗酵を正常に保つ

肉牛にとって稲わらは非常に重要な飼料であることを松本氏も解説した。それは牛の消化生理システムと非常に密接に関係していること、また人間が食肉の見栄えを重視していることなども指摘。牛もヒトも食物繊維であるセルロースを分解する消化酵素は体内にもともとないが、牛の場合、胃の中に大量の微生物が生息しており、稲わらなどからのセルロースを分解する役割を担っているという。

牛の胃は体内のほとんどが胃(ルーメン)というほど巨大なもので、ここでの醗酵が牛の命を支えている。牛は飼料を口にすると咀嚼し、嚥下し、ルーメンのなかで醗酵や合成が行われる。そして、再度内容物を吐き戻し、再咀嚼、再嚥下が繰り返される。この反芻作業がルーメン醗酵を正常に保つために重要という。

そのためには稲わらなどの粗剛な餌を与えた方が反芻時間が長くなるため必要不可欠。特に肥育期に突入した、15ヶ月後以降の肉牛は粗飼料としては稲わらのみしか与えないことが多いという。

セシウム、30日くらいでふん尿から排出

また、稲わらを与える理由として、牛肉の品質評価との関連を指摘した。牛肉の格付けは「歩留まり等級」と「肉質等級」との分離評価方式が採用されているが、特に「肉質等級」においては霜降り度合いや色、肉生地のきめ細かさ、脂の質などが総合評価される。

なかでも脂肪の色沢と質においては、脂肪が白いこと、つまり色素が少ないことが重要で、稲わらの給与が不可欠という。濃厚飼料の摂取が多かった牛肉はその脂が黄色っぽくなってしまい見た目に悪く評価が下がるという。

放射性セシウムは半減期が非常に長いことで恐怖を煽っているが、生物学的半減期というものがあり、体内に取り込まれたものでも30日くらいでふん尿から排出されていくという。

今後汚染のない畜産物を生産するためには稲わらの保管などを厳重に行うこと以外に、摂取量を押さえるために飼料中の濃度の継続したモニタリングが重要。また今後は堆肥への移行も予測されるため、排泄物の処置などについても注意を払う必要があると指摘した。


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