健康食品のエビデンスの収集と評価方法
東京大学大学院 薬学系研究所 医薬政策学 特認教授 津谷 喜一郎氏
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1990年代、エビデンスに基づく医療(EBM)が重視
健康食品の有効性を判断するうえで、科学的エビデンスに基づいているかどうかは極めて重要な要素だが、このエビデンスにもレベルがあることは少しずつ認知されてきている。
最近良く知られるようになった「ランダム化比較試験(RCT)」というエビデンスの証明方法はエビデンスレベルとしては上の下レベルでだが、近年は複数のRCTの結果を統合して一定の結論を抽出する「メタアナリシス手法」が最も信頼がおけることが知られるようになっていると津谷氏はいう。
メタアナリシス手法は1976年にアメリカの教育学会で初めて提唱されたもので、医学の領域でも広く使われるようになったのは1990年代と比較的最近のこと。この頃から世界的な動向として「エビデンスに基づく医療(EBM)」という考えが重視されるようになったという。
エビデンスにはグレードがある
このEBMにおける重要な概念が「エビデンスにはグレードがある」ということである。エビデンスの「弱い」つまりグレードの「低い」ものから、エビデンスの「強い」すなわちグレードの「高い」ものを順序化すると、「症例報告(ケーススタディ)」「症例集積(ケースシリーズ)」「ケースコントロール研究(ケースコントロールスタディ)」「非ランダム化比較試験(non-RCT)」「ランダム化比較試験(RCT)」「メタアナリシス」の順になる。
エステティックサロンの広告を中心に、健康食品も含めて、多くの商品の宣伝では一番グレードの弱いケーススタディが使用されている場合が多いことに消費者は注意しなければならないと津谷氏。
しかしながら、「エビデンスのグレードが高い」といっても「真の値により近い」ということであり、少なからずグレーの部分が残る可能性が高いことは拭えないという。
メタアナリシスの手法として、観察研究そのものを対象にすることもあるが、通常はエビデンスグレードの高いRCTを対象にすることが多いと津谷氏解説。研究したいクエスチョン事項を明確にし、それに係るRCTを世界中からできるだけ数多く、できれば全てのRCTを収集し、その妥当性を評価し、統計学的にデータを蓄積し、結果を解釈し、編集した後、定期的に更新するというのが一般的なプロセスであるという。
メタアナリシスを用いたエビデンスの情報集積
健康食品を含む相補代替医療のメタアナリシスも数多く存在するが、その結果はグレーであることが殆どで、この領域は介入、患者の組み入れ基準や除外基準、エンドポイントが微妙に異なることが多いという。
また論文数がさほど多くない場合には、すでにプールされているものよりもグレードの高い論文のほうが意味を持つ。日本国内でも、メタアナリシスを用いたエビデンスの情報集積が行われおり、2008年には厚生労働省のファンドによる「特別用途食品および栄養療法のエビデンス等に関する情報の収集整理業務」を実施。
2010年には社福協の自主研究プロジェクトとして上記に経済的見地からの評価(費用対効果)も加えた「健康食品経済評価のシステマティック・レビュー」が立ち上がり、「健康食品の経済評価」調査班も組織されている。
こうした調査はインターネットなどで閲覧できるが、今後は書籍などでも展開され、より多くの消費者に情報が提供されることが望ましいと津谷氏はまとめた。