健康食品のエビデンスの収集と評価方法
〜第24回健康食品フォーラム

2011年10月24日(月)、瀬尾ホールで、(財)医療経済研究所・社会保険福祉協会主催の「第24回健康食品フォーラム」が開催された。今年は「健康食品の評価とその手法」がテーマ。女子栄養大学の山田和彦教授が「特定保健用食品の表示許可制度について」、東京大学大学院の津谷喜一郎特認教授が「健康食品のエビデンスの収集と評価方法」と題して講演した。

特定保健用食品の表示許可制度について
女子栄養大学栄養学部 生化学研究室 教授 山田和彦

平成3年に制定、国のお墨付き商品

山田氏は、特定保健用食品の表示や許可制度の概要や経緯について次のように述べた。 食品の機能性や健康強調表示の問題は、製造・販売メーカーや消費者から強く求められている課題。国際的な食品表示の動向からも行政としてよりきめ細やかな対応をせざるを得ない状況にある。

特定保健用食品制度は平成3年に制定された。特定保健用食品は保健用途の表示を個別に審査し、国が許可するいわば「お墨付き」商品である。 その認知度は高まっているが、再審査の枠組みがないことや表示許可に係る時間と費用が膨大であるため、ある種の偏りが生じていることがここ数年指摘されている。

平成17年、条件付き特定保健用食品を導入

平成12年、一定の規格基準を定め栄養機能表示をする「栄養機能食品」も加わり、これらをまとめて「保健機能食品」と称するようになった。平成15年以降、こうした制度のあり方に対する論点が各関係省庁でまとめられた。

平成17年、特定保健用食品の許可制度を維持した上で、条件付き特定保健用食品の導入、規格基準型特定保健用食品の創設、疾病リスク低減表示の容認がなされた。しかし、その一方で、新たな科学的知見の報告の義務化、再審査手続き後の注意喚起表示の義務づけや許可の一時停止、許可の更新制度の導入等の課題がいまだに指摘され続けている。

再審査に関する議論が活発に行われる

消費者庁では平成21年11月から22年7月まで「健康食品の表示に関する討論会」を開催、同年8月には消費者委員会特定保健用食品の表示許可専門調査会で更なる議論を進めることが決まり、特に再審査に関する議論が活発に行われた。

そこで新たに報告されたことは、科学的知見の収集について、事業者が新たな科学的知見を収集し報告する制度ならびに報告された知見を科学的・中立的に分析・評価する体制を検討するべきだと報告された他、再審査手続開始後の情報提供については、審査状況等に関する情報を消費者に広く提供する方策を検討するべきだと報告された。

許可の更新制度の導入については、導入に向けて、有効性や安全性に係る審査基準の明確化や有効期間の設定ならびに審査体制の整備等の検討を開始すべきであると報告されたが、いまのところ整備は整ってはいない。

早急なネットワークの構築が必要

また今後の課題として、消費者庁は特定保健用食品を使用する消費者の意識や摂取方法の実態を調査するなど、本制度の意義が正しく理解され、適切に利用されているかどうかを把握・改善する取り組みも必要と考えられている。

いずれにせよ現時点では健康増進法、食品衛生法、景表示法による法執行についても中央と地方での連携が弱く運用体制の整備も十分とは言えない。また健康食品による事故情報が上がってきた時の情報の一元化のシステムも整っておらず、医療機関、保健所、消費者団体なども連携できるようなネットワークが構築されることが早急に必要だとまとめた。

健康食品のエビデンスの収集と評価方法
東京大学大学院 薬学系研究所 医薬政策学 特認教授 津谷 喜一郎氏

1990年代、エビデンスに基づく医療(EBM)が重視

健康食品の有効性を判断するうえで、科学的エビデンスに基づいているかどうかは極めて重要な要素だが、このエビデンスにもレベルがあることは少しずつ認知されてきている。

最近良く知られるようになった「ランダム化比較試験(RCT)」というエビデンスの証明方法はエビデンスレベルとしては上の下レベルでだが、近年は複数のRCTの結果を統合して一定の結論を抽出する「メタアナリシス手法」が最も信頼がおけることが知られるようになっていると津谷氏はいう。

メタアナリシス手法は1976年にアメリカの教育学会で初めて提唱されたもので、医学の領域でも広く使われるようになったのは1990年代と比較的最近のこと。この頃から世界的な動向として「エビデンスに基づく医療(EBM)」という考えが重視されるようになったという。

エビデンスにはグレードがある

このEBMにおける重要な概念が「エビデンスにはグレードがある」ということである。エビデンスの「弱い」つまりグレードの「低い」ものから、エビデンスの「強い」すなわちグレードの「高い」ものを順序化すると、「症例報告(ケーススタディ)」「症例集積(ケースシリーズ)」「ケースコントロール研究(ケースコントロールスタディ)」「非ランダム化比較試験(non-RCT)」「ランダム化比較試験(RCT)」「メタアナリシス」の順になる。

エステティックサロンの広告を中心に、健康食品も含めて、多くの商品の宣伝では一番グレードの弱いケーススタディが使用されている場合が多いことに消費者は注意しなければならないと津谷氏。

しかしながら、「エビデンスのグレードが高い」といっても「真の値により近い」ということであり、少なからずグレーの部分が残る可能性が高いことは拭えないという。

メタアナリシスの手法として、観察研究そのものを対象にすることもあるが、通常はエビデンスグレードの高いRCTを対象にすることが多いと津谷氏解説。研究したいクエスチョン事項を明確にし、それに係るRCTを世界中からできるだけ数多く、できれば全てのRCTを収集し、その妥当性を評価し、統計学的にデータを蓄積し、結果を解釈し、編集した後、定期的に更新するというのが一般的なプロセスであるという。

メタアナリシスを用いたエビデンスの情報集積

健康食品を含む相補代替医療のメタアナリシスも数多く存在するが、その結果はグレーであることが殆どで、この領域は介入、患者の組み入れ基準や除外基準、エンドポイントが微妙に異なることが多いという。

また論文数がさほど多くない場合には、すでにプールされているものよりもグレードの高い論文のほうが意味を持つ。日本国内でも、メタアナリシスを用いたエビデンスの情報集積が行われおり、2008年には厚生労働省のファンドによる「特別用途食品および栄養療法のエビデンス等に関する情報の収集整理業務」を実施。

2010年には社福協の自主研究プロジェクトとして上記に経済的見地からの評価(費用対効果)も加えた「健康食品経済評価のシステマティック・レビュー」が立ち上がり、「健康食品の経済評価」調査班も組織されている。

こうした調査はインターネットなどで閲覧できるが、今後は書籍などでも展開され、より多くの消費者に情報が提供されることが望ましいと津谷氏はまとめた。


Copyright(C)JAFRA. All rights reserved.