腸内フローラとプロバイオティクス研究の新展開 〜第20回記念腸内フローラシンポジウム
2011年10月28日(金)、ヤクルトホールで、第20回記念腸内フローラシンポジウムが開催された。 S.DuskoEhrilich氏(フランス国立農業研究所)の「MetaHITコンソーシアムによるヒト腸内フローラの解析」、Dennis L.Kasper教授(マサチューセッツ州ボストン、ハーバード大学医学部)の「腸管免疫系の成熟には種特異的な微生物環境が重要である」など、最新の研究成果が報告された。

MetaHITコンソーシアムによるヒト腸内フローラの解析
S.DuskoEhrilich フランス国立農業研究所

99%の遺伝子は細菌由来

S.DuskoEhrilich氏はヒトの腸内細菌叢についての最新研究を次のように述べた。
ヒトの腸内に生息する細菌は免疫系の最前線の役割を果たす。腸内細菌叢を明らかにするために、メタゲノミクス(メタゲノム解析法)手法を用いた遺伝子カタログを構築した。ヨーロッパの124人の便の検体から得た約6000億の塩基配列を解読し、330万個の異なる細菌遺伝子を明らかにした。

この遺伝子カタログには過去のコホート研究から明らかとなった遺伝子や日本やアメリカで過去に行われた試験で決定された遺伝子も含まれている。このカタログの中のおよそ99%の遺伝子は細菌由来であることから、カタログには少なくとも1000種類以上の細菌種が含まれ、細菌ゲノムは平均約330遺伝子をコードしていることが示唆される。調査の結果、各個人の遺伝子コードに大きな差は少なく、類似していることが分かった。

細菌の多様性が低いことが炎症と関連

現在は細菌種とヒトの病気の関連についての探索を主たる目的にしている。遺伝子カタログによるデンマークにおける肥満と痩せ型のヒトに関する試験では肥満の人で、細菌数および遺伝子タイプの異なる、特異的な細菌集団の存在が明らかとなっている。また臨床表現型の観察により、遺伝子数が少ないことも判明した。

細菌の多様性の低いことが、炎症と関連している可能性が示唆される。さらには細菌種が体重と関連している可能性も否定できないと報告。同様に、潰瘍性大腸炎の研究により、患者または健常者のいずれかにおいて、高い検出頻度を有する細菌種が明らかとなった。腸内フローラがどのようなメカニズムで肥満や炎症、あるいは糖尿病などと関わっているのか、今後の研究結果が期待される。

腸管免疫系の成熟には種特異的な微生物環境が重要である
Dennis L.Kasper教授 マサチューセッツ州ボストン、ハーバード大学医学部 微生物学免疫学専攻、チャニング研究所

ヒト腸内細菌の全ゲノム、ヒトのゲノムの100倍以上に相当

Dennis L.Kasper氏はヒトの腸管免疫系についての最新研究を次のように述べた。
ヒトの腸管内は栄養豊富な環境のため、100兆個以上の微生物が生息している。ヒト腸内細菌の全ゲノムはヒトのゲノムの100倍以上に相当することが近年分かってきている。

これらの微生物の大半は非病原性であり、ヒトの健康維持にむしろ不可欠な存在である。ヒトの生理機能に対する微生物作用の重要性の認識に伴い、ヒトゲノムと微生物ゲノムの雑多な集合体における遺伝子機能の理解を目指した研究が進められている。人間の生命活動はヒト及び微生物叢の遺伝子の総体によって行われているとも言える。

ヒトにおける微生物叢は他の哺乳類と類似する部分が多くあるが、種レベルで明らかに他の哺乳類とは異なる特徴がある。また腸内細菌叢は、種レベルでは各個人間で異なるものの、ヒトと他の哺乳類との相違を比較すると個人間の違いは少ないという特徴が明らかとなっている。

腸内細菌叢が腸管免疫系の成熟に非常に重要

無菌のマウスを使った実験では、腸管の形態や運動性も通常のマウスとは異なる点が見られた。免疫系は細菌感染から宿主を守るために発達を遂げたと考えられるが、無菌動物を用いた研究では、腸内細菌叢が腸管免疫系の成熟に非常に重要であることが示された。

例えば、無菌動物ではパイエル板の縮小、形質細胞の減少、抗菌ペプチドおよびIgA生産の減弱などが認められ、免疫系の発達が不十分であることが観察された。一方、通常動物の腸内細菌叢を再構築することで、免疫系がほぼ正常化し、腸内細菌叢の重要性が裏付けられた。しかしながら、免疫系の発達に重要な細菌が、それぞれの宿主に特異的であるかどうかについてはまだ解明できていない。

宿主によって定着する細菌叢が異なる

腸内細菌叢は動物種によって異なることも明らかとなっている。ゼブラフィッシュとマウスの腸内細菌叢を相互に入れ替えた研究では、宿主によって定着する細菌叢が異なることが示された。またヒトや他の哺乳類における腸内細菌叢の解析結果では、腸内細菌叢の多様性を決定づける要因として、摂取する食物が系統発生と並んで重要である。

しかしながら哺乳類において、ある宿主に特異的に生息する細菌叢の方が、異なる種の宿主に生息する細菌叢に比べ、より免疫系の成熟に適するかどうかについては不明である。免疫系の成熟に重要なのは、細菌が存在することかあるいは宿主に特異的な細菌群の存在なのか、疑問はまだ残されている。


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