これらの微生物の大半は非病原性であり、ヒトの健康維持にむしろ不可欠な存在である。ヒトの生理機能に対する微生物作用の重要性の認識に伴い、ヒトゲノムと微生物ゲノムの雑多な集合体における遺伝子機能の理解を目指した研究が進められている。人間の生命活動はヒト及び微生物叢の遺伝子の総体によって行われているとも言える。
ヒトにおける微生物叢は他の哺乳類と類似する部分が多くあるが、種レベルで明らかに他の哺乳類とは異なる特徴がある。また腸内細菌叢は、種レベルでは各個人間で異なるものの、ヒトと他の哺乳類との相違を比較すると個人間の違いは少ないという特徴が明らかとなっている。
腸内細菌叢が腸管免疫系の成熟に非常に重要
無菌のマウスを使った実験では、腸管の形態や運動性も通常のマウスとは異なる点が見られた。免疫系は細菌感染から宿主を守るために発達を遂げたと考えられるが、無菌動物を用いた研究では、腸内細菌叢が腸管免疫系の成熟に非常に重要であることが示された。
例えば、無菌動物ではパイエル板の縮小、形質細胞の減少、抗菌ペプチドおよびIgA生産の減弱などが認められ、免疫系の発達が不十分であることが観察された。一方、通常動物の腸内細菌叢を再構築することで、免疫系がほぼ正常化し、腸内細菌叢の重要性が裏付けられた。しかしながら、免疫系の発達に重要な細菌が、それぞれの宿主に特異的であるかどうかについてはまだ解明できていない。
宿主によって定着する細菌叢が異なる
腸内細菌叢は動物種によって異なることも明らかとなっている。ゼブラフィッシュとマウスの腸内細菌叢を相互に入れ替えた研究では、宿主によって定着する細菌叢が異なることが示された。またヒトや他の哺乳類における腸内細菌叢の解析結果では、腸内細菌叢の多様性を決定づける要因として、摂取する食物が系統発生と並んで重要である。
しかしながら哺乳類において、ある宿主に特異的に生息する細菌叢の方が、異なる種の宿主に生息する細菌叢に比べ、より免疫系の成熟に適するかどうかについては不明である。免疫系の成熟に重要なのは、細菌が存在することかあるいは宿主に特異的な細菌群の存在なのか、疑問はまだ残されている。