コーヒーと糖尿病についての最新知見
〜食と生命のサイエンス・フォーラム

2011年11月2日(水)、東京大学で、食と生命のサイエンス・フォーラム「コーヒーと糖尿病についての最新知見」が開催された。コーヒーによる2型糖尿病のリスク低減が報告されている。フォーラムでは各分野の最先端の研究者がコーヒーの可能性について最新研究を報告した。

コーヒー摂取と生活習慣病
お茶の水女子大学 生活環境教育研究センター 近藤和雄

抗酸化機能を有する食品の摂取が重要

生活習慣病と同様に動脈硬化の発症には、食生活の乱れ、ストレスや運動不足、喫煙など様々なものが関係している。なかでも高コレステロール血症は最も高い危険因子として知られていると近藤は指摘する。とくにLDLコレステロールの血中濃度が高いだけでなく、LDLの酸化変性が鍵であることが指摘されてる。動脈硬化の予防には、食生活の改善と同様、抗酸化機能を有する食品を取り入れることが重要であると考えられるようになっているという。

近藤氏のチームによる最新の研究では、抗酸化物質のなかでもビタミンC、ビタミンE、カロテノイドなど従来から抗酸化物質として知られるものだけでなく、食品の色素成分や苦み成分、渋み成分のポリフェノールに注目し、機能性の研究を続けているという。

LDLが酸化されるまでの時間が延長

近藤氏らが日本人の主要なポリフェノール源となる食品を調査したところ、緑茶以上にコーヒーからのポリフェノール摂取が最も多いことが明らかとなった。そのため、コーヒーが抗酸化物質の摂取源として一定の役割を果たしているのではないかと仮説を立てたという。

最初にLDLコレステロールに対する抗酸化作用を調査したところ、コーヒーを摂取した健常成人ではLDLが酸化されるまでの時間が延長されることが示された。また動脈硬化の初期段階の特徴として、血管内皮機能の障害(老化)が上げられるが、コーヒー摂取の影響を検討したところ、FMDという最新の検査によって血管の若返りが認められる数値が測定されたという。

日本人は緑茶など高いポリフェノール含有食品を多く摂取

日本は先進諸国のなかでも最長寿国で、最も虚血性心疾患の少ない国として知られている。日本人は緑茶をはじめ、ポリフェノールを含む抗酸化物質を多く摂取しているが、中でもコーヒーの果たす役割が大きいと近藤氏。また、他の食品のポリフェノールも相互的に有益に働いていると考えられるが、コーヒーがヒトに与える効果のメカニズムについて今後も研究を続けたいとまとめた。

コーヒー摂取は肝臓脂肪症の予防に役立つか
ネスレリサーチセンター(スイス) クリスチャン ダリモン

コーヒー摂取は肝臓脂肪症の予防に役立つか

ダリモン氏はコーヒー摂取による肝臓脂肪症の予防について次のように述べた。 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、多量の飲酒をしないにもかかわらず肝臓に脂肪が過剰に蓄積する疾患で、近年患者数が増加している。

この疾患は肝硬変や肝細胞癌などの重篤な疾患に進行する可能性が高い。またNAFLDの発症はインスリン抵抗性の発症を伴い、2型糖尿病とも明らかに関連している。

しかし、肝脂質の代謝の改善、一般的には減量をターゲットにした食事療法により、NAFLDの発症の予防や最小限に抑えることができることが知られるようになっている。ここ数年、コーヒーの飲用が肝機能の向上に効果があることが示唆されている。

1日に3杯のコーヒー、肝硬変の発症などで有意なリスク減少

世界各国の疫学的研究で、コーヒーの飲用が慢性肝疾患有病率の低減に効果があることが示されている。1日に少なくとも3杯のコーヒーを飲む人では肝硬変や肝細胞癌の発症リスクに明らかに有意な減少が見られる。NAFLDにおいては、NAFLDと診断された患者にコーヒーの飲用と肝脂肪の重症度の間に逆相関の関係があることが示されている。

また、ヒトにおいて、コーヒーの肝疾患発症抑制の原因となる効果は実証されていないが、コーヒーの飲用がNAFLDに有効的に作用する可能性は十分考えられる。

カフェイン入りとデカフェで効果の違いが明らかに

ネスレリサーチセンターでは10人規模の小さい臨床実験を繰り返しており、例えば成人男性ではコーヒーの定期的な摂取で脂肪発現に関わる遺伝子の低下などが明らかになりつつある。またカフェイン入りとカフェイン無しのデカフェでは、効果の違いが明らかとなりつつあり、カフェインそのものは糖代謝には影響を与えないが、肝臓には有益であると思われるデータも示されつつある。

そのため、カフェインだけが人体に与える影響のみならず、カフェインにコーヒーポリフェノールが加わったときの相乗効果についても注目が集まっている。コーヒーのどの成分がどのようなプロセスで人体に有効な作用を発揮するのか、ようやく動物研究も行われている段階である。

一つずつエビデンスを積み上げ、疾病予防、特に肝臓脂肪や糖尿病といった誤った食生活による生活習慣病関連の予防へのコーヒーのメカニズムを明らかにしていきたい。


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