3月17日、食品衛生法に基づく食品の暫定規制値を設定
食のリスク評価を管轄している食品安全委員会と、実際のリスクを管理する厚生労働省は、3月11日の東日本大震災及び福島第一原発事故後、食の安全を守るために迅速に対応を重ねたが、いずれも緊急を要するものであり、通常のリスク評価や管理を行うことができなかったと新本はいう。
厚生労働省は原発事故が発生した直後の3月17日には食品衛生法に基づく食品の暫定規制値を設定したが、緊急を要したため、通常であれば行う食品安全委員会のリスク評価を受けずに設定がされた。
3月20日に厚生労働省は食品安全委員会に、リスク評価を要請している。しかし、食品安全委員会も緊急のとりまとめしか行えず、厚生労働省が設定した規制値に対して不適切と言える根拠は見い出せないとし、4月4日の段階では暫定規制値の維持を決定したという。
その一方で放射性物質に係る食品健康影響評価を継続して実施し、その評価結果がようやく10月27日に厚生労働省へ通知されるという流れとなった。
国際的文献3300本を参考にリスク評価
放射性物質に係る食品健康影響評価の実施では、まず、緊急時、平時といった状況で評価の基準が変わるようなものではないと新本氏。
また、内部被ばくのみを検討することは困難なため、外部被ばくは著しく増大していない、つまり原発事故以前から私たちは自然被ばくしており、外部被ばくは著しくは増大していないことを前提に検討が行われた。
リスク評価にあたり、国際的文献は3300本を越え、また食品摂取による放射性物質の健康影響に関する文献は非常に限られていることから、食品摂取による内部被ばくの報告に限らず、化学物質としての毒性に関する報告も集め、広く知見を収集したと新本氏はいう。
動物実験ではなく、ヒトにおける疫学データを優先
核種の評価は難しく、放射性ヨウ素、放射性セシウム、プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、放射性ストロンチウムについては十分な情報が得られず、個別の評価結果は示せないと判断したという。しかしウランだけは放射線による影響よりも化学物質としての毒性が鋭敏に出ると判断され、耐容1日摂取量(TDI)が設定された。
また核種による個別結果が難しいという判断から、低線量放射線の健康への悪影響に関する検討に絞られ、動物実験ではなくヒトにおける知見を優先、また低線量における発がんの影響などで疫学データを重視したという。
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