食用家畜を脅かす感染症と食の安全性
〜日本獣医生命科学大学文化講座

2011年11月25日(金)、日本獣医生命科学大学で総合文化講座「食の安全を探る」が開催された。吉村史郎氏(農林水産省消費安全局 動物衛生課 食品安全情報分析官)が「食用家畜を脅かす近年の感染症と食の安全性」と題して講演した。


人とペットの距離が近くなり感染症のリスクも

感染症の発生には、3つの要因が全て同時に揃うことが必要。まず病原体、次に感受性動物(ヒトや豚、鳥などの動物)、そして前二者を結びつける感染経路の3つ。これらが同時・同一場所に存在しなければ、感染症は成立しないと吉村氏。

社会の進歩とともに国際的な人的交流、物流の広域化、高速化などで、越境型の感染症が世界各地で発生するようになっている。昨年から今年にかけて、国内でも口蹄疫や高病原性鳥インフルエンザの発生と拡大が大問題となった。人間とペットの距離が近くなり過ぎると感染症の危険性が伴う。

2020年、動物性タンパク需要が50%以上増加予測

動物のワクチン接種では、ヒトのインフルエンザワクチンと同様、100%の効果を保証するものではないが、仮に口蹄疫に感染した牛や豚の肉を食べてもヒトには感染しないこともわかっていると吉村氏。

公衆衛生分野では、まず生産段階から厳しいチェックが行われており、食肉流通の入り口となる殺段階で適切な衛生管理を行うため、と畜場法(鶏などの場合は「食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律」)に基づいて検査が実施されている。

異常が確認されたものは速やかに排除され、安全が確認された食肉のみが市場に流通するように万全が期されている。と畜場(食鳥処理場)から小売りまでの流通段階については、食品衛生法によって厳重な管理が行われている。

しかし食肉の安全が法律で守られているといっても、新たな感染症が発生する可能性を完璧に封じ込めることはできない。それを管理するための新たな法律やシステムも今後生まれ続けるだろう、と吉村氏はいう。

というのも、食用としての動物性タンパクの需要は世界的に増加する一方で、一説によると2020年には世界における動物性タンパクの需要が現在と対比しても50%以上は増加することが見込まれているからである。

常に感染症拡大の危険性が潜む

動物性タンパクの需要の拡大では、新たな飼育方法で育成された動物や、これまで輸出入などの交流がなかった諸外国との食肉の交流、フードマイレージの拡大など流通の拡大が見込まれ、常に感染症拡大の危険性が潜んでいる。

近年の衛生のキーワードには、家畜衛生、公衆衛生、生態系管理に関する関係者が団結して感染症対策にあたる「ワンヘルス」と、生産者から消費者までの一連の関係者がそれぞれの役割・責務を果たさなければならないとする「農場から食卓まで」の2つがある。より的確な衛生対策の実施が重要であると吉村氏は強調する。

「食の安全」を消費者自が意識し、適切な食材の管理、調理方法、危険な食べ物(生肉など)を避けること、動物との適切な距離での付き合い(特に室内ペットや渡航先などでも安易に動物に触れないなど)といった行動が、食の安全、感染症予防に大きな役割を果たすとまとめた。


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