ビタミンB1発見100周年、栄養科学の今
〜鈴木梅太郎博士 祝賀記念シンポジウム

2011年11月25日(金)、東京大学安田講堂で、「鈴木梅太郎博士 ビタミンB1発見100周年祝賀事業 祝典・記念シンポジウム」が開催された。シンポジウムでは鈴木博士の業績を振り返りつつ、研究者たちがビタミン研究の最新成果を報告した。

栄養科学から食品機能論・味覚分子論への推移を巡って
東京大学大学院特認教授 阿部 啓子

日本は「機能性食品」の開発を世界に先駆けて行う

終戦、復興、そして高度成長期という時代の流れとともに、日本はかつて経験したことのない飽食の時代へ突入した。しかしその反動として、20世紀後半から「成人病」、現在「生活習慣病」と呼ばれる数々の疾病が社会問題となっていると阿部氏。

戦後は「栄養」と「嗜好(おいしさ)」が食品科学の二大潮流として展開したが、21世紀を目前にした頃に第三の潮流、つまり食品の三次機能である「食品の機能性」の研究が主流へとなっていった。

1988年頃から生活習慣病を食の改善で予防しようという大型研究が次々とスタートした。そこでは食品の機能が、栄養面、嗜好面だけでなく病気予防面から系統的に解析されるようになった。病気予防面の働きが付与された新食品である「機能性食品」の開発を日本は世界に先駆けて行い、世界に大きなインパクトを与えることになったと阿部氏。

食品には一次機能の「栄養」、二次機能の「おいしさ」、さらに三次機能の生理面(生体制御・防御)における「機能性」がある。食品の「機能性」については、生活習慣病のリスクを低減するという数々のデータが発表されており、食品メーカーは機能性食品の開発を次々と手がけ、厚生労働省は「特定保健用食品」として制度化し、国民にも十分浸透している。

2003年、ヨーロッパで機能性食品の効果を評価するニュートリゲノミクス誕生

現在、世界各国で機能性食品の研究開発が進められている。2003年にはヨーロッパで機能性食品の効果を評価するニュートリゲノミクスが立ち上がり、食のDNA診断ともいえる科学が世界各国に普及するようになったと阿部氏。

機能性食品が摂取されたとき、遺伝子や標的組織であるタンパク質がどのように変化するかが詳細に解析され、脂質代謝改善・抗肥満・抗酸化・整腸作用などの機能性食品による生理機能が検証され、食品成分がより正確に評価されるようになった。

このシステムが浸透し、確実なものとなっていくにつれ、機能性食品の分野に遺伝子科学が導入されるようになった。将来的にはテーラーメード食品が創られるようになるであろう、と阿部氏。

第三世代の「食と生命科学」が各国に誕生

その一方で嗜好(おいしさ)を重視する日本の食品科学は味覚・嗅覚の先端研究でも現在世界のトップに躍り出ている。特に味覚については、舌で味を感じる仕組みについて、近年その概要がようやく明らかになっている。しかし口から入った食品が、胃・腸へと移動して、消化、吸収が行われる際に、どんな食物成分が含まれているのかを体が感知するもう一つの仕組みやシステムについてはまだ多くの謎が残されていると阿部氏。

しかし腸内での成分感知については、消化器官のなかでも小腸の細胞が味物質を感じていて、舌で感じる5つの基本の味(甘・酸・苦・辛・塩)全てに反応できる能力を持っていることが突き止められたところである。

腸の味覚受容体やそこからの情報伝達の仕組みなどについても現在研究が進められている。今後は食品の3つの機能(栄養、美味しさ、生理機能)を統合した、第三世代の「食と生命科学」が各国に誕生するだろうと阿部氏はいう。


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