マクガバン報告が米国栄養政策の転機に
森氏は米国における栄養政策の方向転換や予防医療への流れを次のように述べた。
アメリカの栄養政策で、1977年の「マクガバン報告書」の影響は見逃せない。1960〜70年代、米国は冷戦構造社会の中、あらゆる意味で世界最強を誇っていたが、一方でガン、心臓病、糖尿病などの生活習慣病の蔓延、医療費の急激な増大が深刻な社会問題となっていた。その原因究明と問題解決に向け、1968年に上院で「栄養素問題特別調査委員会」を組織し、5年間に及ぶ膨大な調査を行った。
そこで結論付けられたことは「医学は栄養学が基本」、そして「栄養学を無視した近代医学では現代病は治せない」という新たな概念であった。医学のあり方を根本的に考えなおし、栄養学を基本に置く医学の確立が提言された。また、動物性脂肪の過剰摂取の改善、(日本古来の)日本食の導入、食事とガンの相関関係を調査し対策を講じることが方針として決められた。寿司などの和食がアメリカで爆発的人気を博したのも、マクガバンレポートと深い関係がある。
近年、次々と健康政策が実施
マクガバンレポートにより米国ではヘルスケア政策が大きく方向転換し、食品と病気の関係表示の義務化(「US栄養表示教育法1990年」)、栄養補助食品への市民権付与(「栄養補助食品健康教育法1994年」)、そして健康目標ガイドラインである「Healthy People2000」の制定など、次々と健康政策が実施された。また、さらなる前進のために近年、「Healthy People2010」が制定された。このようにアメリカは先進国に先駆け、栄養学と医療の関連づけ、市民への健康教育を始めている。
アメリカでは、とくにこうした栄養政策を国民に定着させるために、教育を行うというシステムがあり、そこが日本と大きく異なる。アメリカでサプリメント産業が巨大市場へと成長するが、その陰には栄養素が人体へ与える影響のエビデンスの収集や分析など企業努力も大きい。
2006年頃からオーガニック・自然食市場が急伸
アメリカでは、2006年頃からオーガニック・自然食のカテゴリーがサプリメント市場を追い越している。その背景にはLOHAS層の伸張がある。人口の3割の9000万人以上が、持続可能な社会・経済・環境を目指してライフスタイルそのものを変化させたという報告もある。
こうした流れから、アメリカで自然療法が見直されている。高額高度な治療が必要になる前に病気を押さえ込み、医療費や患者の負担を削減し、国家の財政破綻を回避するという目的がそこにはある。現在では「予防」という概念が国民に十分浸透している。
自然療法医の教育カリキュラムも充実
また、これまではエビデンスがないという理由から無視・軽視されてきた伝承医療だが、科学的な検証が進み、医師たちが正当治療として認め始めた。
医療の提供側も受けて側も徹底したプライマリーケアで医療崩壊を回避しようという流れが自然に盛り上がり、ホームドクター制にも注目が集まっている。
住民は地域のホームドクターの管轄エリアに登録され、異常が生じた場合はまずホームドクターが診断し、アドバイスを行い、できるだけ初期段階で病気を回避するか、必要であれば初めてそこから専門病院へ紹介される。こうした流れが主流となったことで、病気の8割はプライマリーケアで解消できることが分かり、社会的なヘルスケアコストの削減が実現している。同時に自然療法医の教育カリキュラムも充実し、現在では通常の医学部の教育と同等の教育・扱いが受けられるようになっている。
毎年4万5000人以上が無保険・無治療で亡くなっている
しかし、それで問題の全てが解決したわけではない。現在アメリカでは、保険制度をめぐる問題が最たるものとなっている。ハーバード大学の調査によると毎年4万5000人以上が無保険・無治療で亡くなっているという。この高い死亡率は殺人や交通事故による死者数より多く、アメリカンドリームの名の下で格差社会が拡大するにつれて、無保険の問題もさらに拡大している。
2010年3月に医療保険制度がかろうじてアメリカ議会を通過し、これにより2014年には4,600万人の無保険者のうち約3000万人が被保険者になる見込みと予測された。しかしながら、このいわゆる「オバマケア」は全米25州で憲法違反と論争され、特に高所得者層や高納税者層は新医療保険制度に大反対で、2012年の大統領選挙ではオバマ氏を落選させ、新医療保険制度を廃止に持ち込もうと必死になっているという。
TPPをテコに日本への市場開放を強硬に迫る
アメリカは保険の問題だけでなく8,000兆円という莫大な借金を抱え、TPPをテコに日本への市場開放を強硬に迫っている。
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