腸内細菌を増やす日本の伝統食「酵素・酵母食品」 〜「健康博覧会2012」セミナー
2012年3月15日(木)東京ビッグサイトで開催された「健康博覧会2012」。この中で、発酵食品や酵母食品についてのセミナーが開催された。ここでは寄生虫学、細胞免疫学の研究を通して「腸内細菌」の重要性を訴え続けている東京医科歯科大学名誉教授 藤田紘一郎氏の講演を取り上げる。


免疫システムの異常、腸内細菌が関与

15年もの間、自身の腸内に寄生虫(さなだ虫)を飼って研究をしたことで知られる藤田氏。寄生虫学、細胞免疫学の研究を通して「腸内細菌」の重要性を訴え続けている。 いまや国民病のようにいわれているが、花粉症やアトピー性皮膚炎、喘息などのアレルギー疾患は50年ほど前の日本にはなかった。

なぜこのようなアレルギー疾患の患者が激増しているのか?免疫システムの異常が原因であると挙げられているが、なぜ免疫システムが異常を起こしているのか?藤田氏はその疑問を研究し続け、その結果「腸内細菌の重要性」という答に行き着いたという。

抗生物質や食品添加物で腸内細菌が激減

免疫とは体のどのパーツと関わり、強くなったり弱くなったりしているのか? その70%は腸と関係していると藤田氏。そのため野菜や果物などの食物繊維やビタミン類が豊富な食材を積極的に摂取する、納豆や味噌などの発酵食品(腸内細菌のバランスを整えたり活性化する役割を果たす)を摂取したり腸内細菌の餌となるオリゴ糖なども積極的に摂取することで、腸内細菌の環境を整えることが非常に重要である。

あるいは抗生物質を頻用したり、食品添加物が大量に含まれるようなインスタント食品を過剰に摂取してしまうと腸内細菌は激減したりバランスが崩されてしまうため注意しなければならないと藤田氏は指摘する。

食生活による腸内環境の整備で免疫力の70%が決定

こうした日々の食生活による腸内環境の整備で免疫力の70%が決定されるという。そして残りの30%は「笑いのある毎日、規則正しい生活、運動習慣」で、腸内細菌のバランスを整えるということは「薬や手術では治療できない領域」であることを認識して欲しいと藤田氏。しかも自分にとって最適な腸内環境とは他の人とは異なり、100人いれば100通りのベストな腸があるという。

藤田氏は46年前に数年間インドネシアのボルネオ島に健康調査に行った経験がある。その時に一番驚いたのがその劣悪な生活環境であった。子どもたちは汚物が垂れ流しの川で無邪気に遊んでいる。しかし日本に帰国してから気づいたことは、インドネシアの子どもたちにアレルギー患者がいないことだった。回虫にはかかっているが、花粉症・アトピー・喘息の子どもはいない。かつては日本も同じではなかったか?かつて日本人の回虫寄生率は世界的にみても著しく高かった。

行き過ぎた衛生観念と経済成長、生活環境の改善のおかげで、日本は世界で最も回虫の駆除に成功した国となったが、その一方でアレルギー疾患を拡大させているのではないか? 寄生虫が体内で何か良いことをしている可能性はないのか?そこから藤田氏の寄生虫研究は始まったという。

がんもアレルギー疾患も体内のバランスの病気

そして最終的に寄生虫をすり潰してアトピーを治癒させる物質を抽出することに成功。食事を与えるたびに尻尾に電流を流すという究極のストレスを与えることで、数日でアトピーになったラットにこの物質を投与したところ、あっという間にアトピーは完治した。しかし、まさに世紀の大発見だと思われたその矢先、落とし穴が待っていた。

それは免疫細胞の一つであるヘルパーT細胞のバランスが壊れてしまうということであった。ヘルパーT 細胞は機能的にTh-1とTh-2に分類されるが、細菌やウイルスなどを攻撃、破壊して感染を防御し、マクロファージを活性するTh-1細胞と、カビやダニに反応して抗体を作るTh-2細胞は免疫全体のバランスを保つために互いに牽制しあいながら拮抗を保っている。

しかし先の抽出物を投与することで、 Th-2は活性されアレルギー症状が抑制されるが、その一方でTh-1の機能が低下し、感染やがん細胞への対応ができなくなるという結果を招いた。つまりアレルギー症状は治っても免疫システムそのものが崩れてしまう。このことから、藤田氏はがんもアレルギー疾患も体内のバランスの病気であり西洋医学だけでは治せない、東洋医学的発想つまり「自然治癒力」が必要、当たり前だが最も重要な結論に気づいたという。

最大の自然治癒力とはまさに腸内細菌のバランスである。腸は食物を消化吸収するだけでなく、ビタミンを合成し、幸せ物質といわれるドーパミンやセロトニンの前駆物質を脳に送りこむなど、さまざまな役割を果たしているが、腸内細菌がなければそれらの役割を果たすことはできないと藤田氏。

鍵となるのが日本の伝統食である醗酵・酵素食品

ではどのように腸内細菌を整えれば良いのか?その鍵となるのが日本の伝統食である醗酵・酵素食品であるという。そもそも醗酵というのは微生物(菌も含む)の生命現象であり、無いものを生み出したり、あるものを分解したりすることができる力のことである。この力がなければすべての生物や人類も地球に誕生しなかったであろうし、逆にうまく利用してきたことが人間の歴史や進化だともいえる。

醗酵の鍵となる微生物や菌のなかには醗酵によって水素を作り出すものもある。生ゴミなどの有機物を分解して水素を発生させるものもある。キノコ類は菌そのものであるが、そこに豊富に含まれるβグルカンは強い免疫賦活作用や制がん作用を持つことに注目が集まっている。

「悪い腸内細菌」を徹底攻撃して皆無にしようとするのは間違った行為

乳酸菌を中心とした腸内細菌がなければいろいろなビタミンが作られない。菌や微生物など目に見えないほどの小さな生物が腸内では活躍している。人間の腸の中でしか生きられない菌や微生物も豊富に存在しているため、自らの住処である人間を病気になどさせない、むしろ賢く働いてくれている。その活躍を活性させるためにもいわゆる「悪い腸内細菌」を徹底攻撃して皆無にしようとするのは間違った行為だと藤田氏。ある程度は良い菌と悪い菌を共存させながら、それぞれを戦わせることが腸内環境の活性化につながり、腸内細菌の活性化=免疫活性=自然治癒力の活性に繋がると藤田氏は解説。

  日本人の腸内細菌の数は年々減少しており、これは食物繊維の摂取量の減少やアレルギー患者の増加傾向などからも明らかである。それは行き過ぎた潔癖性に一因があると藤田氏は断言する。生まれてすぐにやたら消毒をしたり、清潔を維持するためだけの神経質な環境で育てられた子どもほどアレルギー疾患になりやすいという。抗生物質は場合によっては必要であるが、安易に摂取してばかりいると、腸内の細菌までもが死滅し腸が弱ることで、下痢や別の病気にかかりやすくなるという。

「清潔」を追求するのはほどほどにし、腸内細菌を育てようというつもりで、なんでも美味しく食べてほしいと藤田氏はいう。特に発酵食品や酵素といった酵母や菌が含まれているような食品を積極的に食べることで腸内細菌を増やし、共存して自然体の健康を獲得してほしいとまとめた。



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