原発事故から1年 食のリスクと風評
〜第7回 食の安全・安心財団 意見交換会

2012年3月26日(月)、ベルサール半蔵門で、「第7回 食の安全・安心財団 意見交換会」が開催された。原発事故から1年が経過するが、各関連機関が食のリスクと風評にどう向き合ってきたのか、現状と今後の対応について報告が行われた。

食品中の放射性物質の検査について〜現状と今後の取り組み
厚生労働省 医薬食品局 食品安全部監視安全課 水産安全係長 前川加奈子

暫定基準値、緊急対応としてはベター

この1年を振り返り、前川氏は次のように述べた。
昨年の原発事故後、食品中への放射性物質の汚染が深刻な問題として世間を震撼させ、この問題に厚生労働省としてもすぐに対応しなければならなかった。初期対応としては食品中の放射性物質に関する暫定規制値の設定だ。しかしこれはあくまで緊急の対応で「暫定」という言葉を用いるほかなかった。

このことについては未だに賛否両論の意見が飛び交っている。「暫定」という言葉が消費者への不安と不信を煽った。しかしその一方で緊急対応としてばベターだったという見方もある。そして次に行った取組みが食品中の放射性物質に関する検査である。厚生労働省が各自治体に要請し検査が開始され、これは現在も続けられている。

この検査を1年間継続してきたなかで明らかとなったことは、放射性ヨウ素の検出は1年経過した現在はほとんど認められなくなる一方で一部の食品からは放射性セシウムが検出されることとなり、「半減期」という言葉が一般の消費者にも理解されるようになったことであろう。

福島では20品目以上が出荷制限対象に

そして検査によって暫定規制値を超える放射性物質が検出された食品は回収、破棄されることとなり、これも現在継続している。

さらに、原子力災害対策本部からの要請もあり、暫定規制値を超えた食品の発生エリアにおいては出荷制限もおこなうという対策をとった。もちろん事故から1年経過した現在は、条件を満たしたエリアであれば出荷制限の解除も行っている。出荷制限に関する情報は決して多くはないが、実は現在も福島では20品目以上が制限対象となっており、また千葉県や神奈川県でも「茶」などは出荷制限の対象になったままである。

4月から「新基準値」に

そして「暫定」と名付けられていた規制値がこの4月より見直しされる。これまでも安全性は確保されていたと厚生労働省は強調するが、より一層食品の安全と安心を確保する観点から、現在の暫定規制値で許容している年間線量5ミリシーベルトから年間1ミリシーベルトに基づく新基準値に引き下げるというものである。

名前は「暫定規制値」から「新基準値」に変更となる。新基準値で年間1ミリシーベルトという数値を採用した背景には、食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会の現在の指標でも年間1ミリシーベルトを超えないように設定されているから、という理由がある。

より安心・安全が確保された食品

また新基準値では食品区分も改訂される。これまでは「飲料水」「牛乳・乳製品」「野菜類」「穀類」「肉・卵・魚・その他」と食品群で分類していたが、新基準値では特別な配慮が必要かどうかを重視して、「飲料水」「牛乳」「一般食品」「乳児用食品」と分類される。

また、この新基準値ではすべての年齢区分における限度値のうち、最も厳しい値から全年齢の基準値を決定したことでどの年齢にも考慮された基準値となっていることを厚生労働省は強調している。

新基準値の実施についても賛否両論さまざまな意見が現在も寄せられているというが、一般消費者の立場にだけ立てば、より安心・安全が確保された食品だけが市場に出回っているという安心感に繋がると厚生労働省としては期待を寄せている。

しかし、その一方で生産者にとってはまだまだ課題が残る。とくに新基準のための検査ガイドラインがより一層厳しいものに変更となるため、その負担は大きい。まずは自治体の分類である。

きめ細やかに汚染状態を把握

より重点的な検査が必要な自治体として1群に「福島、宮城、茨城、栃木、群馬、千葉」が2群に「青森、岩手、秋田、山形、埼玉、東京、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡」が分類された。

またこの分類ごとに検査対象品目もすべて詳細に定められることとなった。そして検査の検体数や頻度も詳細に設定された。これにより、厚生労働省はよりきめ細やかに汚染状態を把握することが可能となる。これらのより厳密となった検査計画は今後の状況に応じて四半期ごとに策定・公表も行われることも発表された。

なにより生産者にとって一番気になるのが「出荷制限解除」である。多くは被災地でもあるため被災地としては問題がなければいち早く解除を許可してほしいという思いがある。また震災発生初期の頃に比べ、全国消費者からの「食べる支援」もトーンダウン気味であり、被災者の生産者の復興はなかなか進まない。

出荷制限・摂取制限の品目や区域の設定条件

そこで出荷制限解除については、出荷制限・摂取制限の品目や区域の設定条件はこれまで通り原則として都道府県全域とするが、自治体による管理が可能と認められた場合は複数区域に分割(市町村)して設定することも可能と、変更になった。また解除の申請は自治体からの申請によるものであり、直近1ヶ月以内の検査結果が、1市町村あたり3カ所以上で行われた検査で、すべてが暫定規制値以下であれば解除となる。

厚生労働省としても、引き続き各自治体へ検査に必要な機器導入の補助を行ったり、自治体から寄せられた検査結果の速やかな集約を行うことで、それを迅速に公表し、また新基準値を引き続き広報することで、食の安全・安心の確保に努めたい。


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