最新のIT手法を駆使して分析・解析
ヘルスサイエンス・ラボは慶応義塾大学SFCキャンパスに2011年10月に誕生した研究室である。ここでは健康維持と増進、病気予防といった「ヘルスサイエンス」=「健康科学」をテーマにさまざまな研究を行っている。現在世の中に溢れる健康情報は玉石混合で、専門家でさえさまざまな情報に振り回されている状況である。
ヘルスサイエンス・ラボでは世界中で発信される健康情報の信頼度(エビデンス)を最新のIT手法を駆使して分析・解析し、解説することを重要な使命と考えている。
「正しい健康情報の周知」と「健康で幸せに長生きする」という万人の願いに貢献すべく、「健康科学」を日本の未来を創造する学問に発展させることを目標としている。
「健康増進を目的」とした「食」へと高めることを目標
神成氏は「食とヘルスサイエンス」と題した講演で、今後の取り組みについて次のように語った。
日本は世界一の長寿国だが、それを支えているのは日本の食文化に他ならない。2010年の日本人の平均寿命は女性が86.39歳、男性は79.64歳で、女性は26年連続で世界第1位。男性も第4位についている。しかしこの長寿は日本人の遺伝子によるものではない。
日本人でも諸外国で長期間生活をしている場合、その寿命は決して長いわけではないからである。つまり人間とは住む場所と食べるものによって寿命が左右される動物であると神成氏。そこで神成氏は長寿を支える日本食に注目し、特に優れた日本食文化とそれを構成する農作物に科学的にアプローチしていくことで、食を健康増進を目的とした「新たな食」へと高めることを目標としている。
現在、神成氏が行っているのが「新たな食のマネージメントモデルの作成」である。これは食をこれまでの「売り切り型モデル」から「時系列モデル」で捉え、全体の流れのなかで適宜マネージメントしていく手法のこと。
農作物の「旬」を大切にしなくなった
現在はある農作物ができると、納品される直前でその糖度や栄養素、安全性が測られ、その価値に応じて販売されている(収穫後の事後的評価)。しかし日本の農産物は世界的に見ても非常にレベルが高く、この手法は非常にもったいないと神成氏。日本の熟練農家の技術と経験・知見は世界最高峰であるという。
この50年間で日本の農業は生産性については向上したといえるが、その一方で個々の生産物の栄養素は平均的には大きく減少したといわれている。このことは、土の栄養価の低下も指摘されているが、最大の要因は技術革新が進み過ぎて、農作物の「旬」を大切にしなくなったためと神成氏。
特定栄養素の高含有作物の栽培が実現
しかし一部の熟練農家では、作物本来の活力を引き出す方法を独自に開発し、特定の栄養素が高含有された作物を栽培することが実現している。熟練農家とサイエンス・ラボでタッグを組み、その経験や知見、技術を科学の力でデータベース化し、生産者全体で広く共有することで、日本の農業全体のレベルが底上げされ、どんな農家でも高額な設備投資に依存せず、高品質の農産物を高い生産性で作ることが実現する、と神成氏はいう。
現在実験的に進められているのが、高品質の(栄養価が高く、見た目も良い)ほうれん草やいちごに小さなチップをとりつけ、種の段階から収穫まであらゆる角度から測定しつづけるという手法である。
・
・