n-3系脂質を含む魚で心筋梗塞を予防
〜糖尿病ネットワーク市民講座

2012年7月29日(日)、幕張メッセで、NPO法人糖尿病ネットワーク主催の日本糖尿病情報学会が開催された。市民講座では「お魚で心筋梗塞にならない」をテーマに、エイコサペンタエン酸(EPA)について専門家が最新の研究成果を発表した。青魚に多く含まれるEPAは血液をサラサラにする作用で知られる。EPAによる糖尿病や脳梗塞の予防メカニズムを明らかにした。

心臓・血管を守るEPA
小倉記念病院循環器内科 横井 宏佳 

動脈硬化は一種の老化現象

福岡県北九州市の小倉記念病院で、心臓カテーテルの治療をこれまで5万人以上に行ってきた横井氏は、狭心症・心筋梗塞を予防する方法は「ある」と断言する。狭心症や心筋梗塞は心臓の筋肉に酸素や栄養を送り続ける冠動脈の動脈硬化によって引き起こされる。

動脈硬化は生活習慣病とされているが、一種の老化現象。加齢とともに動脈の内側はアテロームにより細胞の繊維化など弾力性が失われていく。これは誰も同様で、年齢的には40代から60代と十分健康なはずであるが、これが引き金となって心臓病や脳卒中を起こしてしまう。

動脈硬化を促進させる危険因子は、まず男性であること・加齢・遺伝の3つ。これらは生来のもので避けられないと横井氏は指摘する。

しかし努力で取り除ける危険因子は7つもある。それは高脂血症・高血圧・喫煙・糖尿病・高尿酸血漿(通風)・肥満・ストレス。これにより動脈硬化の促進はかなり緩やかになるという。

心筋梗塞には2つの起こり方がある

血管の内側は血流で絶えず刺激を受け、血管内膜に傷ができる。この傷はもちろん修復されるが、修復が間に合わず食事から摂取した脂質などが沈着すると、血管の内側の壁は肥厚し、内腔も狭くなり、次第に弾力性が失われ、血管が硬くもろくなる。

この一連の変化が動脈硬化である。この変化が脳の血管で起これば脳梗塞に、心臓で起これば狭心症や心筋梗塞に、足で起これば下肢閉寒性動脈硬化の原因になる。

横井氏は心筋梗塞の治療を最も得意とするが、心筋梗塞には2つの起こり方があるという。1つは、血管内の傷に徐々に脂質などが溜まりニキビのような固まり(プラーク)となり、血管が詰まるというプロセス。

動脈硬化の退縮は食事療法が基本

これは一般的に知られるカテーテルでの治療が可能で、心筋梗塞や狭心症患者の30%がこのタイプであると横井氏。症状としては動いた時に胸が痛くなったり、苦しい感じがする。

しかし残りの70%は、固まりとなったプラークが突然破裂し、血が固まり血管がつまるという起こり方で、この症状は脂汗の出るような痛みで、実はカテーテルでの治療や予防も非常に難しい。そのため、70%というかなりの人が、前触れもなく突然脂汗の出るような激痛に襲われ、カテーテル処置では難しいタイプの心筋梗塞や狭心症に罹患している。

そこで心筋梗塞にならないように、プラークを小さくし動脈硬化を退縮させることが鍵となる。これには食事療法が基本だと横井氏はいう。

食事療法と運動療法と禁煙が有効

とくにプラークそのものともいえる悪玉コレステロールを減らすには食事療法が非常に重要で、それでも改善しない場合に限り薬物療法(スタチン)が有効である。

しかし過剰なコレステロールを肝臓に運ぶ善玉コレステロールを増やす薬物が現在は無く、食事療法に加え運動療法と禁煙しか有効な方法がないと横井氏。 

脂質のなかでも不飽和脂肪酸、なかでもn-3系のαリノレン酸系やEPA、DHAは虚血性心疾患による死亡率を低下させることが疫学調査でわかっている。魚を週に8食以上食べる人は、1食しか食べない人と比較すると、心筋梗塞を発症する危険度が60%近くも低いことが厚労省の大規模調査でも報告されている。

魚に含まれるEPA、DHAは血管を詰まりにくくする効果がある。こうしたn-3系の脂質には血栓や炎症を抑える働きがあることが判明している。つまり、プラークが肥大化すること、またはプラークが突然破裂することで起こる心筋梗塞については、いずれもプラークを小さくすることが治療または予防となる。

そのためには主に青魚に多く含まれるn-3系の脂質を積極的に摂取すること、そして禁煙、運動で血流を良くしておくことが重要。食生活を改善し血中のEPA濃度を変えるだけで、血液も人生の質も変わると横井氏はまとめた。

お魚で心筋梗塞にならない〜EPAが心血管病に及ぼす影響
九州大学病院 腎高血圧脳血管内科 二宮 利治

若い世代の魚介摂取量が低下

EPAは細胞膜に取り込まれ多彩な作用を示すが、人体では合成することができない。欧米人に比べ健康で長生きといわれる日本人は、昔からEPAを豊富に含むイワシやサバなどの青魚を積極的に食してきたが、近年食事の欧米化が進み、肉類や油脂の摂取が増えている。

一方で、青魚の摂取量は1950年代をピークに1/2以下に低下している。とくに若い世代の魚介摂取量は非常に低下しており、この魚離れが今後日本人の健康寿命とどのように関わってくるか、非常に注目していると二宮氏はいう。

血中のEPA濃度が高いほど心筋梗塞発症後の生存率も高い

食事の全体量のなかに占める脂質の比率が非常に高いことが現代の食事の特徴といえる。1947年には食事の総エネルギーに対し脂質はおよそ7%程度だったが、現在は25%以上が脂質。これによりさまざまな健康障害が引き起こされるが、EPAには血中の脂肪の量を常に正常に保とうとする役割があることもわかっている。

心筋梗塞の治療を受けた人も、EPA製剤を服用をすることで虚血性心疾患の再発率は40%以上も低下することが明らかとなっており、血中のEPA濃度が高いほど心筋梗塞発症後の生存率も高くなることが明らかである。ちなみに同じく青魚に豊富に含まれるDHAにはこのような有用性はみられず、心筋梗塞のリスク低減という意味ではEPAを積極的に摂取するといことを心がけてほしいと二宮氏はいう。

EPAが豊富に含まれる魚はイワシ・マグロ(トロ)・サバ・ブリ・サンマ・うなぎなど。日頃から魚を中心とした和食を楽しむことが健康の秘訣であると二宮氏はまとめた。


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