食品事業者の自主管理推進について
2012年8月9日(木)、文京区シビックホールで、「食品衛生実務講習会」が開催された。会場には食品事業者から区民まで多数参加。この会合では、一般消費者・食品関係事業者・行政のリスクコミュニケーションを充実させ、特に食品関係施設の自主管理を推進することで、食品に起因する衛生上の危害の発生を防止し、区民や都民の食生活の安全を確保することを目的としている。


生肉のメニューに厳しい規制

今回の講習会では、主に最近動きのあった食品衛生の規格基準についての解説を行った。 昨年の10月、牛肉を生食用として加工する際の基準や成分規格が新たに制定された。

この規制については、平成10年に通知された「生食用食肉等の安全性確保について」で、生食用食肉の衛生基準は厳しく示され、事業者における適切な衛生管理についても指導されていた。しかしながら、衛生基準には強制力がなく、事業者における指導が十分に遵守されていなかったことが問題となっていた。

さらに昨年の四月、焼き肉チェーン店で死亡者が出る腸管出血性大腸菌による食中毒事件が発生。これをきっかけに見直され、この規格基準を遵守しなければ食品衛生法違反になるという、強制力のある基準設定が行われた。

今回の規格基準の対象食品は、牛刺し・牛たたき・ユッケ・タルタルステーキなど、牛肉を生食する際のメニューが対象となった。これにより、牛肉の生食が完全に提供できなくなったということではなく、新たな基準を満たせば消費者に提供することができるが、その基準は非常に厳しいものとなっている。

「抵抗力の弱い者は食肉の生食を控えるべきである」旨を店内やメニューに表示

今回指定された規格基準の概要は、下記の通り。@生食用食肉の加工は、他の設備と区分された場所で行う。A専用の手洗い・シンク・器具が必要。B生食用食肉を扱う人は講習会を受講すること。C肉塊表面から1pの深さを60度以上で2分間以上加熱する方法で殺菌し、速やかに4度以下に冷却すること、など。

生食用牛肉の成分規格としては、@腸内細菌群が陰性でなければならない。A加工した牛肉は定期的に検査を実施し、成分規格に適合していることを確認。記録は一年間保存。となっている。

さらにこれらの条件を満たした生食用牛肉を提供する際には、「一般的に食肉の生食は食中毒のリスクがある」「子ども、高齢者、その他食中毒に対する抵抗力の弱い者は食肉の生食を控えるべきである」旨を、店舗の見やすい場所とメニューに表示することが必要となっている。

牛の肝臓は生食に適さない

さらに今年7月1日より、店頭から姿を消すことがニュースとなり駆け込み需要拡大で世間を騒がせた「レバ刺し(牛レバーの生食)」についても説明が行われた。 レバー刺しについては、食品衛生法に基づき今年7月1日より販売・提供が完全に禁止された。牛肉の生食よりも厳しい取り扱いとなった牛レバーだが、これには理由があるという。

というのも牛肝臓を安全に生で食べるための有効な予防対策が見いだせないと厚生労働省が見解。腸管出血性大腸菌は、牛や豚、鶏など哺乳類や鳥類の腸管内等に生息し、肉やレバーなどに付着すると食中毒の原因となる。フグなどであれば、危険部位が特定されているため、そこを適切な調理で取り除くことができるが、牛の肝臓についてはそうした方法がみつかっておらず、国民の健康を守るためにも牛の肝臓は生食に適さない、と結論付けられたという。

牛レバー、生食用として販売・提供すると食品衛生法違反

従って牛レバーは加熱用として販売・提供することが義務づけられた。

牛レバーを調理する場合は、レバーの中心部を63度で30分以上または75度で1分以上加熱することや、これと同等以上の方法で加熱殺菌すること、牛レバーを利用客が自ら調理して食べる焼肉店などでは、コンロの加熱用設備を必ず提供し、利用客が十分に加熱して食べるように情報提供すること、もし利用客が不十分な加熱で食べている場合には、注意喚起することが義務づけられた。

つまり「焼かないのはお客様の勝手」というのも許されない。牛レバーを生食用として販売・提供すれば、食品衛生法違反となる。

「生で食べられる程新鮮」という表現は不可

今回、生食での提供に関する規格基準が設定されたのは牛肉だけだが、豚肉にもトキソプラズマという原虫が寄生している場合があり、加熱が不十分であると感染の可能性があるという。とくに胎児や幼児は脳や神経系疾患を起こしかねない重篤な症状を引き起こすこともある。

鶏肉も生食ではカンピロバクターによる食中毒を引き起こす可能性がある。つまり生食用の基準を満たした牛肉・馬肉以外の肉や内臓はすべて加熱用であり、鶏肉や豚肉などについても生食用として販売・提供しないことや、「生で食べられる程新鮮」といった表現は不可であると厳重に注意した。

他に、今後の変更点として東京都では今年の10月1日より、「フグの取扱い規制条例」が変更になることを説明。この変更により、これまでフグ調理師以外は取り扱えなかったフグ加工製品について、一定の条件を満たせば、フグ調理師以外の人でも飲食店で提供できるようになるという。

ただし、フグ調理師以外の人が取り扱えるフグ加工製品は非常に限られており、また取り扱う場合は保健所に届出が必要な他、継続的に守らなければならない事項があるため、都や区が主催する「フグ加工製品取扱事前講習会」などに参加し、保健所に事前相談してほしいと呼びかけた。

食品事業者に求められる自主管理の徹底

平成23年の都内食中毒発生状況については、件数が133件、患者数は1515人であったことも報告。そのうちの802名はノロウイルスによる食中毒で、生食用のカキ、岩カキ、カキフライ、酢カキ等が原因の他、ノロウイルスに感染した調理従事者からの食品の二次汚染も原因であったと説明。次いで多かったのがカンピロバクターの241名で、牛レバ刺し、鶏刺し、鶏内臓の刺身、鶏レバーなどが主な原因であったという。

こうした食中毒を防ぐために、食品事業者は、自主管理を徹底が求められる。原材料の仕入れ先の記録や販売先などの食品の記録を作成し保存する。

冷凍冷蔵庫の温度の記録、手洗いや手指洗浄殺菌の記録、従業員の健康管理の記録などを点検項目とし、点検表をつけることなど今一度見直し、安全・安心な食品の提供に努めるよう呼びかけた。


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