欧米市場で、新規食品素材を展開する上での課題 〜食品開発展2012セミナー
国内外の食材が一堂に介した「食品開発展2012」が10月3日、4日、5日の3日間、東京ビックサイトで開催された。企業セミナーの中から、兼松ケミカル株式会社の「欧米市場にて新規食品素材を展開する上での課題」を紹介する。講演では、新規機能性食品素材の欧米市場参入の際に必要となるGRAS(Generally Recognized As Safe)の概要や申請制度の概要について解説した。


米国での食品素材販売、GRAS認可が前提

日本には日本でしか使われていない健康食品素材が多くある。これらの優れた健康食品素材を国外でも展開することにここ数年注目が集まっている。

しかし日本独自の素材だと、海外での食経験や安全性のデータが無いこともあり、米国での販売に必要な安全性評価を再度行う必要がある。

兼松ケミカルは、米国でそうした実務業務を行うコンサルティング会社、SPHERI Consulting社と提携しているという。

米国で食品素材を販売するには、食品添加物、サプリメント、もしくはGRASであると政府に認められることが前提となる。GRASとはGenerally Recognized As Safeの頭文字から成る造語で、「一般的に安全」と認められた素材または物質であることを示している。

販売開始までの期間をできるだけ短縮し、その素材を幅広い食品に使用できるとするためにはGRASの認証を得ることが最適である。

GRAS認可の安全評価、米国で随時更新

GRASの認可を受けるのに米国食品医薬品局(FDAの)許可は必要ない。GRAS独自の専門家の評価のみで認められる。そもそもGRASは1958年にFDAが制定したものだが、最終的にFDAに届け出ることでFDAの評価を受けることができる。

GRASとして認められるための条件は「1958年以前から食品として摂取されていたもの。もしくは科学的データと特定の専門家の評価により安全性が認められたもの」とされている。

この安全評価の方法は、米国で随時更新されている。最新のものでは、原則としてリスク評価は4段階で行っている。

まず第一に危険因子の特定。それが全くの新規素材である場合、その素材がどういったものかを定性的かつ定量的に評価し、定義することからはじめる。

分子レベルで調査

また、分子レベルでどういう物質から構成される素材であるのかも調査する。不純物の混入がないか、農薬や重金属などが含まれていないか、どういった微生物が付着しているのかいないのか、素材全体を定義しながら、その素材に含まれたリスクを全て洗いだし、可能性のある危険因子を特定していくという。

第二ステップは、ハザード=危険因子が特定できたら、FDAにある膨大なデータベースより、似たような毒性を示すデータがないかを探していく。その危険因子のリスクがある程度推測できたところで、第三ステップとして試験管テストに入る。

試験管テストでは、その危険因子に曝露する時間や量によってどれくらいの影響があるかを確認していく。また何か変化が起こった場合それが単発的に起こるのか、複数回起こるのかも調査していく。

そして第四ステップとしてこれらの総論としてリスクの特徴づけを行う。これが一連の流れであるという。

さらに特徴が定義できたら、動物実験を行い、動物実験では素材に含まれる危険因子=化学物質に曝露したことで起こる影響が部分的なのか、全身に及ぶものなのか、急性か、時間を要するものなのか、そうしたことも調査していく。

そこで、その危険因子を取り除くべきなのか、取り除けば解消できるのか、取り除いた時にベネフィット(利益)の部分はどうなるのか微調整を行う。

国民栄養調査のデータベースも参考に

安全性が保障されたところでヒトによる臨床をより細かく行っていく。これはより慎重に行われる。アメリカには国民栄養調査のデータベースがあるため、それも参考にしながら臨床試験を行うという。

この調査で仮に人体に変化が起こった場合、その危険因子との因果関係をより明確に確認して行く必要性がある。またその試験や調査は必ずダブルブラインドテストで、なおかつランダムに行われなければならない。

天然物であるほど評価は難しい

GRASの申請には、日本だけでなく世界各国から出されるが、近年の問題は素材に「天然物由来」というものが非常に多いこと。天然物であるほど評価は難しい。

というのも同じ天然物であっても、産地の違い、抽出部位の違い、摂取時期の違い、抽出方法の違い、抽出されてから素材化されるまでの時間の違い等により、先の4段階のステップを踏んでも、同じ天然物であっても少しずつことなるデータが得られてしまうため。

また、とくに似たような名前の植物でも、先のステップを省略することは非常に危険であるという。ポリフェノールといってもグレープの皮から抽出したものと、グレープの種子から抽出してものでは構成は異なり、人体への作用も変わってくるため。

また一日に可能な摂取量の評価等も変わってくる。そのため、時間がかかってもより慎重かつ丁寧な評価がなされているという。

日本のハイクオリティの健康食品素材は世界に通用する

最終的に食品の安全性については米国では下記のように定義されている。

  1. 一般成人だけでなくお年寄りや乳幼児にも安全であるかどうか。
  2. 最新の科学技術の進歩や情報に基づいた最新の安全性が担保されているかどうか。
  3. 化学物質の曝露と引き起こされるリスクとの関連とメカニズムがあればそれを明確に証明できているかどうか。
  4. これらの評価方法は客観的に見て適正であると判断できるかどうか。
    これらの4項目が全て確認できたことで「安全な食品」と定義されるという。

この申請のプロセスを経なければならないが、日本のハイクオリティの健康食品素材は世界に間違いなく通用する。世界に認められる安全評価で商品価値を高め、ビジネスを拡大するチャンスを逃さないでほしいと結んだ。


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