間違った基原の原材料を使用
ここ数年の健康食品ブームの中で、とくに人気が高い商品は「天然由来」「自然素材」といったキャッチコピーのついたものである。合田氏の研究チームは健康食品の品質分析研究を行っているが、近年はこうしたコピーの付いた健康食品を中心に、その品質に疑問を抱かざるを得ないものが少なからず存在することを指摘した。
とくに健康食品の原材料について、合田氏の調査によると、表示や商品名とは異なる、あるいは間違った基原の原材料を使用しているものが少なくないという。
もちろん流通している商品は含量規格や不純物規格に適合し安全性は確保されている。しかしながら原材料の基原の間違ったものが使用されていれば品質が確保されているとはいえない。さらに、虚偽表示が行われていることになる。
シダ属植物として輸入した基原、シダ属植物でない可能性が比較的高い
合田氏のチームは2005年〜2009年にかけて87品目の健康食品の遺伝子分析を行ったが、そのなかで基原が正しいものは54/87=62%しかなかったという。
さらに、基原として使用するためのシダ属植物を複数の企業から輸入し、それが本当にシダ属植物であるかを調べた。
シダ属植物は世界に100種類以上存在し、アーユルヴェーダや漢方などの伝承医療でも使用される薬理作用のある植物である。しかし、種類が非常に多いだけでなく形態も類似しているため、誤採取されることが多い。
合田氏のチームがシダ属植物を大手商社等複数の取扱い企業から輸入・取り寄せた結果、基原植物が表示と一致していたのはわずか2/11であったという。さらに、表示と種(species)は一致しないが、属(genus)が一致したものは3/11、複数の基原植物の混合物でその中にシダ属植物が検出されたものは2/11、完全に基原が間違っていた物が4/11であったという。
つまり、シダ属植物として輸入した基原がシダ属植物でない可能性が比較的高いということを我々は知っておかなければならないと合田氏。しかし、シダ属植物の形態学的同定は一般的に非常に難しいとされており、原因は意図的なものではなく採取時の間違いであろうと合田氏は推測する。
原材料の基原違い、あきらかに意図的なものも存在
原材料の基原違いがなぜ起こるのか。基本的には先述のように、非意図的なものであり、採取時の誤同定、あるいは原材料の受け取りの際の誤同定だと考えられるという。
しかし、GAP農場(Good Agricultural Practice)で栽培された原材料を使用すれば誤同定の問題は解決するであろうと合田氏。それにしても、採取される天然系基原においては誤同定品の発生や混入が起こりやすいことは間違いない。受け入れ側の検査体制(形態、遺伝子分析、成分調査)には今のところ厳格な取り決めがないため、ある程度ガイドラインを決めて遵守させる必要があるという。
原材料の基原違いについては、あきらかに意図的な(悪意のある)ものも存在していると合田氏は指摘する。その理由として、類似した機能性を持つ他の食物エキスや、安価な化合物を添加したほうが、生産コストが低価格で済むからではないかという。
健康食品の問題、大きく4つに分類
一例としては、ビルベリーのアントシアニンエキスを標榜しながら、カシスエキスの方が多く含有されているといったケースである。とくに錠剤やカプセル形態だと、偽物か本当に表示通りの成分が入っているか、消費者は全く見分けることができない。合田氏の調査によると、ビルベリー、イチョウ葉、ブラックコホシュを原材料と表記する商品で、それらのエキスがほとんど入っていない例も散見されたという。
健康食品の分析調査からわかることは、
@基原が本当にあっているかどうかの問題
A意図的な混合物が含まれる可能性の問題(表示と原材料が一致すべきなのにしていない)
B含有量の問題
C保存劣化の問題、という4つに大きく分類できるという。
医薬品との品質の差が顕著
@とAについては先述の通り、GAP農場生産の原材料の調達や、輸入側の検査体制を厳格化することで解決できる。
Bについては健康食品はあくまで食品であり、いわゆる「有効量」が存在しないため、含有量が極めて少なすぎて何の効果も発揮しない、何のために摂取するのかわからないような商品について、取り締まる必要があるのかどうかの問題になってしまうと合田氏は指摘する。
Cについては、錠剤カプセルの崩壊性(胃の中でどれくらい溶けて消化されるのか)について調べたところ、使用期限内ギリギリのものについては、ほとんど崩壊しないものがみられたという。
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