外から見た日本人の栄養摂取と食料事情
〜(公財)すこやか食生活協会「シニア食育講座」

2012年11月16日(金)、南青山会館で、公益財団法人すこやか食生活協会主催の食育講座が開催された。高齢化が進む日本で、とくにシニア世代の食生活について栄養バランスの偏りなど幾つもの問題が指摘されている。今回の講座では前在タンザニア日本国特命全権大使が中川坦氏が講演を行った。

外から見た日本の食と食料事情
前在タンザニア日本国特命全権大使 中川 坦

日本の食生活、世界的にみてもかなり特異な状況

今回の講座では前在タンザニア日本国特命全権大使を務めた中川坦氏が、5年以上に及ぶ現地での生活体験をもとに、日本とは対極の食生活にあるタンザニアと日本の食文化を比較することで、日本の現在の食生活について解説した。

食のあり方は、歴史・気候風土・経済状況によって規定される。アフリカ諸国はまだまだ発展途上であり、現代の日本人の食生活とはまさに対極にある。アフリカのタンザニアと比較した場合、日本の食生活にはどのような特徴がみられるか。それは、日本の食生活が世界的にみてもかなり特異な状況にあるということだ。この現状を認識することが今後の日本の食生活の問題を解決する糸口になるのではないかと中川氏はいう。

タンザニア、野菜も魚もほとんど食べない

中川氏はまずタンザニアの食料事情について解説を行った。タンザニアはアフリカ大陸のなかでも一部海岸線に面している。人口は4,400万人だが、3/4が農村地域に在住、うち8割が農業に従事している。自分たちの食用作物としてトウモロコシ、コメ、キャッサバ、バナナを生産。また、換金作物(輸出用)としてはお茶、コーヒー、綿花、カシューナッツを生産している。

タンザニアでの主食はトウモロコシを粉にし、湯で割った「ウガリ」と呼ばれるものが一般的である。このウガリが日本のコメのような感覚で主食となっている。おかずは極めて変化に乏しく、トマトベースのスープや豆類のスープなどをウガリにつけて食べることが多い。畜産物として牛肉、鶏肉があるが、消費量は多くない(週に1回程度)。野菜も魚もほとんど食べない。

タンザニア人の平均寿命は55.4歳と短命

子どもたちの幸福についてのヒアリングでは「今日ウガリがお腹一杯に食べられること」と答える子どもが多い。炊事環境についても、水が命そのものであり、飲料水の確保が最重要課題になっている。タンザニアの都会といわれる地域でも電気の利用は15%程度で、かまどもなく、七輪か石を使用して炊事する家庭がほとんど。

タンザニア人の平均寿命は55.4歳と短命で、3大死因はマラリア、HIV、結核、そして幼児の死亡率の高さ。タンザニアの人々にとって食事とは、とにかく空腹を満たすためのものであり、質より量が優先され、一日に3度ではなく2度の人も少なからずいると中川氏はいう。

100年前の日本人の食料消費量と栄養摂取量、現在のタンザニアと同水準

さて日本はどうか。多くの日本人にとって食事とは必需品ではなく嗜好品化が進み、命を維持するためという意識はもはや薄くなっているのではないか、と中川氏は指摘する。安心・安全という品質へのこだわりにも関わらず生産体制は脆弱化が進み、食料自給率は40%以下にまで低下している。

さらに食品の安心・安全を追求するにも関わらず、一方で安価の追求と需要も根強く、さまざまな矛盾と弊害が生じている。しかし歴史的に振り返ると、わずか100年前の日本人の食料消費量と栄養摂取量については現在のタンザニアと同じ水準であったことが分かっている。現在の水準へ移行したのはわずかここ50年のことであると中川氏。

日本人はもともと穀類を好む

他に日本人の食料消費の特徴としては、東アジアの中でも動物性食品(海産物含む)の消費が少ないことが挙げられる。1960年以降の高度成長期に畜産物の消費は拡大したが、近年は高齢化もあり頭打ちになっている。これは日本人がもともと穀類を好むことを示しているのではないかと中川氏はいう。

さらに一般的に所得が高いとカロリーが高くなるのは世界的な傾向だが、日本は例外である。すでに中国・韓国は日本よりも高カロリー食を摂取しているが、日本は世界的にみても所得が高い割に低カロリー食を継続している。しかし、日本は他のどの国よりも高品質へのこだわりが強く、ともすればゼロリスクを求める動きや消費がメディアやムードによって左右されるのも問題と中川氏。

食べるということは最も原始的な営みである。私たちは生きるために食べ、そのためには他の命を頂かなければならない。しかし、今の日本では食自体が目的化し趣味化し、「食べるために生きる」という逆転現象が起きていると中川氏。この特異的な状況を認識し、日本の食の問題の解決の糸口にしてほしいと語った。


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